映画人九条の会Mail No.21

2007.05.23発行
映画人九条の会事務局

目次

改憲手続き法成立! 強行に高まる批判と反発!

 自民・公明両党は5月14日、改憲手続き法案を参院で強行採決し、成立させました。これは歴史的な暴挙として糾弾されなければなりません。

 憲法改正の手続きを決め、国民投票制度のあり方を決める法律は、国民主権の立場に立って厳密なルールを定めなければならないのに、この改憲手続き法は、私たちが何度も指摘してきたように、不公正なカラクリだらけの欠陥・インチキ法です。

 憲法改正の成立要件は「有効投票数」の過半数でよく、最低投票率も設定していません。500万人もの公務員や教育者の運動も規制し、処罰の対象にしようとしています。また、次の国会から改憲原案の提案権を持つ「憲法審査会」が設置され、改憲案の骨子の検討に入ろうとしています。

 さらに国会に設置される「広報協議会」問題があります。「広報協議会」は、テレビ・ラジオなどを利用した国費による無料の広報活動を行うのですが、改憲案について賛成派、反対派の意見を平等に扱う、ということになっています。しかし「広報協議会」の任務は、憲法審査会で作りあげた改憲原案を広報することであり、そのあとの残った予算と時間で賛成・反対の意見を平等に扱う、ということに過ぎないのです。なんというインチキでしょうか。

 映画、映像に携わる者として一番問題にしなければならないのが、テレビの有料コマーシャル問題です。法律では、投票日前2週間だけ有料コマーシャルを禁止しただけで、なんのルールもなく、事実上野放しにしています。これでは金持ち政党や、日本経団連などの金持ち団体だけが、テレビを使った圧倒的な改憲キャンペーンができることになります。国の基本的なあり方や進路を決める憲法改正の国民投票が、マスメディアによって国民がマインドコントロールされた状態で行われることになったら、恐ろしいことになります。

 こんな不公正でインチキな改憲手続き法の下で国民投票が行われ、仮に改憲が成立しても、それは国民の真意ではないことになります。

 強行採決が近づくにつれて、ようやくマスコミも改憲手続き法案の問題点を報道しはじめ、世論も圧倒的に慎重審議を求めるようになりました。しかし安倍政権は、それらを無視して暴走し、改憲手続き法案を強行採決したのです。

 改憲手続き法の成立によって、改憲策動はいっそう強まるでしょう。しかし、こんな不公正でインチキな法律で改憲を進めようという政治姿勢に、厳しい批判と反発が強まっています。改憲手続き法には「悪法」とのイメージが染み付き、世論を敵に回してしまいました。

 それでなくても最近の世論調査は、はっきりと「九条を守ろう」に傾いています。4月17日発表の「共同通信調査」は、「9条を改正する必要があると思う」26.0%、「改正する必要があるとは思わない」44.5%でした。4月6日発表の「読売新聞調査」では、改正派が昨年比9ポイント減り、9条改定の必要性については、第1項「必要なし」80.3%、第2項「必要なし」54.1%でした。今の憲法で「日本に平和が続き、経済発展をもたらした」と思うか、については、「YES」が86.5%でした。4月10日発表の「NHK世論調査」でも、「九条を改正する必要があると思う」25%、「必要はないと思う」44%です。5月2日発表の「朝日新聞調査」も、「9条は平和に役立ってきた」が78%で、「9条を変える方がよい」33%、「変えない方がよい」49%でした。「悪法」改憲手続き法案の強行成立は、こうした世論の傾向にさらに拍車をかけるでしょう。

 私たち映画人九条の会は、1年前の06年4月3日発行のニュース13号で「“壊憲”のための国民投票法案を阻止しよう!」と訴え、同年5月22日発行のニュース14号では「問題だらけの国民投票法・与党案!」としてその問題点を解明・列記し、同年5月26日には「自民・公明両党の国民投票法案に反対する映画人九条の会声明」を発表するなど、改憲手続き法案について誰よりも早く問題点を指摘し、反対の声を上げてきました。私たちは、改憲手続き法案反対の世論作りの一翼を担なってきたのです。

 これからの数年が日本の岐路となりますが、6000を越えた全国の「九条の会」などと連帯し、憲法を守る圧倒的世論を結集して、「アメリカと肩を並べて戦争できる国」にしようとする改憲派の野望を打ち破りましょう。勝負はこれからです。

★1954年キネ旬ベストワン、日本映画の最高峰! 「二十四の瞳」  映画人九条の会が6月15日に上映会!(木下恵介監督作品)

 映画人九条の会は来る6月15日(金)夜、東京・文京区民センターで、日本映画の最高峰「二十四の瞳」の上映会を行うことを決定しました。

 映画「二十四の瞳」は、壺井栄の原作を木下恵介監督が撮った叙情性あふれた作品で、1954年のキネマ旬報ベスト1に選ばれた作品です。この年のベスト3が黒澤明監督の「七人の侍」ですから、日本映画の最高峰と言っても過言ではない作品でしょう。反戦のメッセージを、女教師と教え子のふれあいの中に描いた、日本映画が誇る傑作です。

 この機会にぜひご覧ください。

「二十四の瞳」 デジタルリマスター版DVDプロジェクター上映 (2時間9分)
■日時
6月15日(金) 18:45〜21:10(19:00上映開始)
■解説
山田和夫(映画評論家)
■場所
東京・文京区民センター3A (地下鉄後楽園駅下車徒歩5分・春日駅徒歩1分)
■参加費
1,000円
■申込み方法
電話・FAX・メールで映画人九条の会事務局まで。
座席指定はありません。

“靖国の母になりたくない” 「二十四の瞳」に込められた木下恵介監督の平和への意志

山田和夫 (映画評論家/映画人九条の会結成呼びかけ人)

 木下恵介監督は1998年12月30日になくなった。その葬儀(1999年1月8日)に出席した愛弟子であるシナリオ作家山田太一氏の心のこもった弔辞が忘れられない。氏は木下作品の「人間の弱さ、その弱さが持つ美しさ、理不尽にたいする怒りというものに、日本人はいつまでも無関心でいられるはずがありえません」と述べ、「いままで目を向けなかったことをいぶかしむような時代がきっとくる」と結んだ。今回、「映画人九条の会」が上映会を催す木下恵介監督の代表作「二十四の瞳」(1954年)を見れば、多くの人がその思いを共有するに違いない。

 木下監督は1943年、ヒューマンなコメディ「花咲く港」でデビュー、同じ年に「姿三四郎」で登場した黒澤明監督とともに、戦後日本映画の代表選手として活躍する。戦争末期「陸軍」(1944年)で、息子を戦場に送る母親(田中絹代)が涙で見送り、その隊列にどこまでも追いすがるラストを描き、検閲官に激怒されたけれど、「母親が戦場に行く息子に涙を見せるのは人間として当然」とゆずらなかった。その思いは戦後第1作「大曾根家の朝」(1946年)では、杉村春子の母親は、戦争で息子を治安維持法違反で投獄され、あるいは特攻隊で殺された怒りを込め、陸軍大佐の伯父に「軍国主義者は出て行ってください」と言い切る。

 そして1954年、この「二十四の瞳」は1000万人が「泣いた」と言われる記録的大成功を収め、この年の「キネマ旬報」ベストテンでは第1位を占め、第2位も木下の「女の園」、そして第3位に黒澤明の世界的名作「七人の侍」がつけるという、輝かしい位置を占めた。壺井栄の原作により、小豆島の女教師が11人の教え子に限りなき愛を注ぐなかで、貧困と戦争が落す暗い悲劇とたたかい続ける姿を描く。小豆島の美しい風景、高峰秀子と子どもたちの胸を打つ心の交流、一人一人に過去を追体験させるなつかしい小学唱歌の数かず、限りなくやさしい叙情のなかに、「靖国の母になりたくない」と息子に言い切るヒロインの奥に秘められた怒りが響く。

 公開時、ときの大達茂雄文部大臣が新聞に「私も泣いた」と語った。木下監督は直ちに反論した。「あの人に泣けるはずはない」と。大達文相は戦争中、日本占領下のシンガポール(当時「昭南市」)市長であった戦犯的存在であったからだ。この映画はその後、一部の映画人によって「戦争による被害者意識の映画」と非難されたが、前記大石先生の発言もそうだし、戦後年老いて教壇に復帰することを決意した大石先生が、教え子たちに贈られた自転車で分教場に通うラスト、その力強い意志と情熱の伝わるシーンだけでも、こうした「非難」が的外れであることは明白である。

 しかも木下監督の反戦平和の思いは終生変わることなく、「二十四の瞳」の前年、田宮虎彦原作「落城」の映画化を企画、久板栄二郎のシナリオも出来ていたが、戊辰戦争のときの会津藩、その女性と少年たちの悲惨を見つめようとした企画は会社の反対で実現しなかった。また1963年には自作シナリオ「戦場の固き約束」、1981年には同じく「女たちの戦場」を書き上げたが、ともに会社の反対でボツとなる。前者は中国戦線における日本軍の加害と中国民衆の抵抗を描き、後者はフィリッピン戦線における日本赤十字の看護婦たちを追い、現地住民の抵抗も登場させている。そして晩年には、長崎の原爆に怒りを爆発させた「この子を残して」(1983年)で、日本映画復興会議の「第1回山本薩夫記念日本映画復興賞」に選ばれた。

 もし、「理不尽にたいする怒り」を貫く木下監督が健在であれば、「映画人九条の会」の趣旨にいち早く賛同、活動に参加していただけたであろう、それが残念である。

【情報コーナー】

映画「日本の青空」、全国各地で公開進む!
 日本国憲法誕生の真相を描いた映画「日本の青空」(監督・大澤豊)は、3月中旬から全国各地で有料試写会が行われ、大好評です。
 NHK教育テレビは5月6日、「焼け跡から生まれた憲法草案」を再放送しましたが、このドキュメンタリーも映画「日本の青空」と同じく、連合国軍総司令部(GHQ)が日本政府に手渡した憲法草案の基礎となったのは、憲法学者・鈴木安蔵らの「憲法研究会」案だった、という歴史の事実を描いていました。
 映画「日本の青空」や「焼け跡から生まれた憲法草案」を見れば、安倍首相らが唱える「押し付け憲法」論の破綻は明白です。「日本の青空」の公開日程は、以下のサイトをご覧ください。
改憲派の映像利用強まる
 今月(5月)17日、日本の侵略戦争を美化したアニメーションDVD「誇り」を教材にした教育事業が、文部科学省に採用されたことが明らかになりましたが、改憲派の映画・映像利用が強まっています。東映が5月12日から全国公開した「俺は、君のためにこそ死ににいく」は、石原都知事がシナリオを書いた特攻隊映画です(残念ながらヒットしなかったようですが)。「南京虐殺はでっち上げだ」とする「南京の真実(仮題)」も改憲派によって製作準備されています。改憲派による映画・映像利用は、今後ますます強まるでしょう。警戒が必要です。
 一方で、5月19日から公開された井筒和幸監督の「パッチギ! LOVE & PEACE」に期待が集まっています。皆さん、この映画はぜひ見に行きましょう。
九条の会・学習会のお知らせ
 「九条の会」は6月9日(土)、東京の日本教育会館8F第2会議室で、「安倍内閣と集団的自衛権問題」をテーマにした学習会を行います。ぜひご参加ください。
  • テーマ/安倍内閣と集団的自衛権問題
  • 日時/6月9日(土)13:30〜16:30
  • 場所/日本教育会館8F第2会議室 (東京・一ツ橋/地下鉄神保町駅下車徒歩5分、定員:168人)
  • 参加費/800円
  • 講演/渡辺治(九条の会事務局、一橋大教授)ほか
  • 主催/九条の会事務局 (お問い合わせは九条の会事務局へ 電話03-3221-5075 mail@9jounokai.jp

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