映画人九条の会Mail No.14

2006.05.22発行
映画人九条の会事務局

目次

問題だらけの国民投票法・与党案!

 自公与党は4月18日、国民投票法案についての与党合意案を発表しました。民主党との共同提案は壊れましたが、自公与党で今国会に提出を決め、民主党との修正合意を狙っています。

 一部のあさはかなマスコミは、「個別投票方式となった」などと報じていますが、そんなことはありません。ここで、改めて国民投票法・与党案の途方もない問題点を整理してみます。

  1.  与党案は、一括投票制度を可能にしています。与党案の国会法改正案では「憲法改正案の提出者は、内容的に関連する事項ごとに区分して行うよう努めなければならない」としていますが、あくまでも「務めなければならない」という努力目標規定です。また「内容的に関連する事項ごとに区分して」ということは、例えば自民党の「新憲法草案」のようなものは、“憲法を新しく制定しなおすものであり、内容的には全て関連する一体のもの”として、ワンパッケージで賛否を問うことができることになります。
     投票用紙も「国会の発議にかかる憲法改正の議案ごとに調製するもの」となっているので、投票人は「改正案」全体に対して賛成するときは○、反対するときは×を記入することになります。9条改憲には反対だが環境権やプライバシー権には賛成という人が、投票用紙に○をつけると、9条を変えることにも賛成したことになってしまいます。これでは、国民の意思は大きく歪められてしまいます。
  2.  「国民投票の過半数」の要件を、「有効投票数の過半数」にしています。また「最低投票率の制度は導入しない」としています。これでは、例えば50%の投票率で、数%の無効票があったとしたら、その過半の賛成で改憲できることになりますから、有権者全体の25%程度の賛成で改憲されてしまうのです。20歳未満を含めた国民全体でみたら、20%程度の賛成で改憲されてしまうことになるのです。
  3.  国民投票の投票権は20歳以上の者、にしていますが、これは諸外国並みに18歳以上の者にすべきです。
  4.  「国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以降180日以内に行なうものとする」としています。当初の「最短30日間での投票」よりは改善されましたが、国の根本を決める憲法改正の国民投票を「最短60日」で行おうとすることは、まだまだ短すぎます。国民の目と耳をふさいだままやってしまおう、という意図が露骨です。
  5.  国民投票運動については、公務員も、教育者も、外国人も禁止されます。公務員や教員は「地位を利用して」という限定がついていますが、その区別はあいまいで、国民投票運動を規制しようとする者によって容易に濫用されるおそれがあります。現在約200万人以上いる外国人の声が全くかき消されてしまうのも、大問題です。
  6.  マスメディアについては、「表現の自由を濫用して国民投票の公正を害することのないよう自主的な取組に努めるものとする」として、「自主規制」を命じる法案になりました。自主規制を強制する法律など聞いたこともありません。すでに公正な報道を「自主規制」しているマスメディアは、この法律でさらに「自主規制」することになるでしょう。
  7.  「政党等は、憲法改正案広報協議会の定めるところにより、テレビ、新聞に、無料で憲法改正案に対する意見の放送をすることができる」としていますが、問題は「憲法改正案広報協議会」です。広報協議会は各会派の議員数をふまえて選任する、とされていますから、改憲派が圧倒的多数の国会では、改憲派が意見放送や広告の基準を決めることになります。広報協議会は、憲法改正案の「周知広報」の権限も持っています。「周知広報」と言いながら、改憲案の宣伝をしようとするのは明らかです。
     マスメディアが憲法改悪案の危険性を報じることを「自主規制」する一方で、ただで改憲派の意見が垂れ流されることになりかねないのです。

 ──このようにこの国民投票法与党案は、国民の目と耳をふさぎ、口を封じ、国民の意思を歪めて、何としても「改憲」を実現することを狙った問題点だらけの法案です。とてもまともな法律案とは言えません。

 国民投票法案だけでなく、共謀罪、愛国心を強要する教育基本法「改正」など、いま日本を軍事国家にするための法律案が目白押しですが、私たちは断固この国民投票法与党案の国会上程に反対するものです。映画人九条の会の皆さん、いっそう反対の声を上げ、アクションを起こしましょう。

「軍旗はためく下に」5・9上映会、大好評!──長男・深作健太監督も挨拶

 5月9日(火)に飯田橋・東京しごとセンター(旧シニアワーク東京)講堂で行われた、映画人九条の会の「軍旗はためく下に」5・9上映会は、約200名の参加で大成功しました。

 幻の名作と言われていた深作欣二監督の「軍旗はためく下に」は、その衝撃的な内容とともに、深作監督のストレートな反戦の思いが画面に叩きつけるように描かれ、観る人の心を強く揺さぶりました。「素晴らしい映画だった」「私たちもこの映画の上映会をやりたい」などという意見も多数寄せられました。

 上映会には、深作監督のご長男の深作健太監督も参加され、「この映画は父が42歳のときに撮った作品で、私はその年に生まれた。父はこの映画を自分の最高作の一つと言っていた。私も42歳になったとき、このような映画を撮れるようになりたい。このような上映会を計画していただいて、父も本当に喜んでいると思います」と挨拶されました。

 なお、16ミリフィルムでの上映予定が、事務局の手違いでビデオテープによるプロジェクター上映になってしまいました。大変申し訳なく思っています。参加者の皆様方には、改めてお詫び申し上げます。

抵抗心こそ映画人の本領

【寄稿】 馬場和夫(映画人九条の会運営委員/映画プロデューサー)

 前回(3月8日 )の学習会、山田和夫氏の「憲法と映画──映画が自由でなかったとき」の講演後の質問で、「当時の映画人で抵抗する人はなかったのですか」という発言を聞いて、私はハッと思った。

 当時の弾圧がいかに無法・惨虐なものであったかは「小林多喜二」の例を引くまでもなく、我々(私は1922年生まれ)の世代人は知り尽くしていて、抵抗など思いもよらなかった。

 「白バラの祈り」の少女でも、少なくとも裁判という手続きは踏んでいたのだから、今の時代の人が、日本の権力側が起こす無法に対して抵抗する自由は持っていると考えているとしたら、それは恐ろしいことだと思うからだ。

 不正を糾す抵抗行動は、跳ね上がりの暴力レジスタンスでも、一部の集団活動でも果たし得ない困難なものであることを十分に認識しておかなければならない。

 1948年の東宝争議の体験で私を支えたのは、映画文化を破壊する資本の論理に徹底的に反抗しようとする精神であり、その後経営側の職務を経た私の人生の中でも「映画はそれを作る人たちのために在る」という基本理念が変わらなかったから、共に争議を闘った仲間たちとの絆を切ることなく続けていられると信じている。

 映画は他の多くの芸能と共に、すべて被差別身分に抑圧された人間達が、社会機構への批判、反発のエネルギーによって生まれたものである。商品生産の側に支配されている今の映画界から、作る側の原点を取り戻すのは、映画人の抵抗精神でなくてはならない。

 その抵抗エネルギーは、侵略戦争を美化して恥じない為政者が企てている平和の破壊行為を阻止する力に拡大されなければならない。敗戦時に、天皇制の罪悪をはじめとする徹底的な戦争責任の追求と解明を欠いたまま半世紀余を過した日本国民の脆弱さのツケが今廻って来て、アッという間に過去の自由なき時代に逆戻りする危機が迫っているのである。これに抵抗し、反撃する力は、映画人こそがその本来の資質として貯えているべき財産であり、今こそそのエネルギーを広く結集して、抵抗の実力を発揮すべき時なのだ。

 まだまだ全映画人の立ち上がりには遠い。ひとりでも多くの仲間たちに呼びかけようではないか。

★雑感──「世論調査」と世論誘導

 読売新聞が今年4月4日に発表した世論調査(調査3月)では、「憲法第9条には、自衛のための組織を持つことについて直接触れた規定はありません。あなたは、自衛隊の存在を憲法で明確にすべきだと思いますか、そうは思いませんか」という問いに対して、「そう思う 46.8%」「どちらかといえばそう思う 24.4%」と、憲法上明確にすべきだとする人が71.2%に達しました。

 憲法改正についての各種世論調査の「相場」は、全般的に「憲法改正に賛成」が60%前後で、しかし憲法9条改正には同じく60%近く「反対」、というところが定説です。事実、この読売の調査でも、「今の憲法を改正する方がよい」が55.5%で、昨年10月5日の毎日新聞世論調査でも、憲法改正に「賛成」と回答した人は58%でしたが、9条については「変えるべきでない」が62%でした。

 今回の読売の調査のように「自衛のための組織を持つことについて直接触れた規定はない」と決めつけて、「あなたは、自衛隊の存在を憲法で明確にすべきだと思いますか」と訊けば、圧倒的多数の人々が「憲法上明確にすべきだ」と答えるのは、ある意味では当然のことです。

 しかし、「自衛隊の存在を憲法で明確する」ことは、9条を変えて軍隊の保持を認めることに他なりません。「自衛隊の存在を憲法で明確するかどうか」と「9条を変えるかどうか」は、実は同じことを訊いているのです。にもかかわらず、相反する結果が出てきます。

 世論調査というのは、訊き方、設問の仕方によって結果が大きく変わる、と言われますが、これはその典型的な例だと思います。「積極的改憲派」の読売新聞が、改憲の世論を誘導するために考えついた新たな設問、と思うのは、私の邪推でしょうか。

 まあ、これからも各種の世論調査に関心は向けつつも、単純にその“導き出された結果”に一喜一憂するのはやめましょう。

 と言いつつ、ちょっと「一喜」。今回の読売新聞の調査では、「今の憲法を改正する方がよい」が55.5%で、昨年調査より5.1ポイントも減少し、同じく今年4月11日に発表されたNHKの世論調査でも、「今の憲法を改正する必要があるか」が42%で、昨年調査よりなんと20ポイントも減少しています。NHK調査は、憲法9条の改正について「改正する必要があると思う」が24%(昨年比−15.4ポイント)、「改正する必要はないと思う」が39%、「どちらともいえない」が28%という結果も示しています。すごい変化だとは思いませんか。いや、一喜一憂はやめましょう。

(映画人九条の会事務局長・高橋邦夫)

【情報】

黒木和雄監督の遺作「紙屋悦子の青春」が8月公開
 映画人九条の会の結成呼びかけ人であり、「父と暮せば」など戦争三部作で知られる映画監督の黒木和雄さんが4月12日、急逝されました。本当に残念でなりません。心から哀悼の意を表します。
 終戦間近の鹿児島を舞台にした原田知世主演の新作「紙屋悦子の青春」が、黒木監督の遺作となりました。「紙屋悦子の青春」は、8月12日から東京・岩波ホールで公開されます。
6月10日の九条の会・全国交流集会に参加
 全国で4700を超す九条の会が一堂に会する(と言っても、会場の都合上1400人弱しか参加できませんが)、九条の会・全国交流集会が6月10日(土)、東京・日本青年館で行われます。映画人九条の会からは、呼びかけ人や運営委員会から5人が参加する予定で、スタッフとしても数名が参加します。全国各地の九条の会の様々な経験を、目いっぱい吸収してきます。
「許すな憲法改悪!守ろういのちとくらし 5・27国民大行動」で、池谷薫監督が連帯のあいさつ
 5月27日(土)に、東京・代々木公園で「許すな憲法改悪!守ろういのちとくらし 5・27国民大行動」が行われますが、12:30からの国民大集会で、話題のドキュメンタリー映画「蟻の兵隊」の池谷薫監督が、映画人九条の会を代表して連帯のあいさつを行います。
 この集会には映画人九条の会も参加するつもりです。皆さんもぜひご参加ください。
マスコミ関連九条連絡会の活動
 マスコミ関連九条連絡会とMIC(マスコミ文化情報労組会議)、自由法曹団、JCJ(日本ジャーナリスト会議)は6月3日(土)、13:30から東京・有楽町マリオン前で、憲法改悪共謀罪、教基法改悪、国民投票法反対で4時間のリレートークを行います。ご注目ください。
 またマスコミ関連九条連絡会は7月14日(金)夜、東京・文京区民センターで「私たちの巴里祭/シャンソンとワインと九条のつどい」を行います。姜尚中さんも参加します。

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