映画人九条の会Mail No.52

2013.7.10発行
映画人九条の会事務局

目次

参院選で改憲ノーの声を!

 第23回参議院議員選挙が7月4日に公示され、投票期日は7月21日に迫っています。
 昨年12月16日の衆議院議員選挙で圧勝し、再び政権を奪い取った自民・公明両党は第二次安倍内閣を発足させ、以降、その暴走はとどまるところを知りません。実体経済回復を伴わない、極めてバブル投機的な性格の強い空虚な経済政策を、メディアが「アベノミクス」ともて囃すのを追い風として、TPP正式参加表明、原発再稼動と海外輸出の積極推進、オスプレイ配備、沖縄などでの米軍基地強化、消費税増税と社会保障の切り捨て、雇用のルール破壊──と私たちの生命を危険に曝す施策が次々と実施され、あるいは着々と準備が進められています。そして、その危険な暴走の最たるものが、憲法改悪に向けた策動です。
 参院選では、憲法改定問題が大きな争点となっています。そのこと自体が異常な状態であると言わざるをえません。首相が改憲論者でも任期中はその主張を封印してきた歴代自民党政権と違い、安倍晋三氏は首相再就任以来、一貫して露骨に憲法改定にむけた策動を続けています。参院選においても、自民党や日本維新の会ほか、公明党やみんなの党なども参院選の結果次第では改憲向けて動き出すことを公約に示しています。民主党も、党内に多数の改憲論者を抱えています。
 安部政権はこの間、憲法96条を先行改定し、改憲の発議要件を衆参ぞれぞれの国会議員の「3分の2」から「過半数」へと緩和しようとする意向を示し、日本維新の会も同様の主張を繰り返しています。多数派・権力者が自分の都合の良いように改憲を発議することを防ぐために定められた要件を緩和することは、「主権者である国民がその人権を保障するために、憲法によって国家権力を縛る」という近代立憲主義の考え方そのものの否定に他なりません。
 安倍首相は「憲法改定は最終的には国民投票によって決するので、発議要件を緩和しても普通の法律とは違う」旨の発言をし、96条先行改定を正当化しようとしていますが、立法権と混同した論旨のすり替えには全く正当性はありません。このように改定ルールそのものを変えてハードルを低くしてしまえばよい、というよこしまな思惑の背後には、より具体的な憲法改悪に向けた欲望が大きく横たわっています。
 未だ野党であった2012年に自民党は、憲法改憲草案を策定・発表しました。その内容は、憲法の精神や役割を根本から否定して、もはや憲法と呼ぶに値しない、国家による国民統制規範に変えてしまおうとする意図に貫かれた驚くべきものです。
 具体的には、憲法9条を改定し、自衛隊を国防軍と位置づけ、集団的自衛権行使や交戦権を認め、日本国民がアメリカのために海外で殺し合いをし、血を流すことが出来るように定めていますし、基本的人権についても永久不可侵をうたった97条を全面削除し、「公益および、公の秩序」の範囲内でしか認めない、国家が基本的人権を制限することを規定する内容となっています。
 憲法を憲法でなくしてしまう、主客の完全に逆転した、国民統制規範とでもいうような代物につくり変えることを選挙の公約に掲げる自民党。これに全面的あるいは条件付きで同調を表明する与野党各党が多数を占める異常事態。憲法改悪反対を掲げているのは、日本共産党や社民党などいくつかの政党のみです。
 国民の基本的人権を奪い取り、戦争に動員するような憲法の破壊を絶対に許してはいけません。参院選では、憲法改悪絶対ノーの声を突き付けましょう。

★映画人九条の会・2013夏のイベント決定! 降旗康男監督、最新作「少年H」を語る!

 映画人九条の会の代表委員でもある降旗康男監督の最新作「少年H」が、8月10日から全国公開されます。
 原作の「少年H」は、妹尾河童さんの自伝的長編小説で、上下巻340万部を売り上げた国民的大ベストセラーです。その「少年H」を、古沢良太脚本で降旗監督が映画化したのです。
 映画「少年H」は、異国情緒あふれる神戸の街が戦争で荒廃していく中、少年H一家が時流に流されることなく強くたくましく生き抜く姿を描いています(後段の「お薦め映画紹介」参照)。
 映画人九条の会は2013年夏のイベントとして、「少年H」公開直前に降旗監督をお招きして、映画「少年H」に込めた思い、戦争と憲法9条などについて語ってもらうことにしました。予告編も上映する予定です。
 安倍政権が改憲をめざして暴走している今、絶好の企画です。ぜひご参加ください。

降旗康男監督、最新作「少年H」を語る!
日時
2013年7月30日(火) 18:50〜20:30
場所
東京・文京シビックセンター4階ホール
東京都文京区春日1-16-21
電話03-3812-7111(文京区役所代表)
地下鉄丸の内線・南北線「後楽園駅」徒歩2分
都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩2分
参加費
800円
主催
映画人九条の会

「映画人九条の会4・25憲法学習会/自民党の改憲草案を斬る!」─小森陽一講演録完成!

 映画人九条の会が4月25日に行った「映画人九条の会4・25憲法学習会/自民党の改憲草案を斬る!」(講師/小森陽一・東京大学大学院教授・九条の会事務局長)の講演録が完成しました。自民党改憲草案の本質分析と鋭い批判が満載で、大変内容の濃い講演録です。
 すでに映画人九条の会HPに掲載済みですが、印刷したものも数十部作ってあります。印刷講演録をご希望の方は、映画人九条の会事務局までご連絡ください。

 また、「映画人九条の会2・22学習集会/近現代の日本の戦争と『領土問題』──安倍政権の逆行」(講師/山田朗・明治大学教授)の講演録も在庫がありますので、ご希望の方は映画人九条の会事務局までご連絡ください。

「自衛隊協力映画&番組」の急増をどう考えるか

 今年4月中旬から下旬にかけて、自衛隊が全面協力する映画が2本、全国公開されました。
 1本は、4月20日から公開された長編アニメ「名探偵コナン 絶海の探偵」で、コナンたちが体験航海で乗り込んだ最新鋭のイージス艦「ほたか」に、「あの国」のスパイが潜入していた、という映画です。イージス艦の高性能ぶりや国防の重要性などが随所で語られ、ゲスト主役の「藤井七海」(声・柴咲コウ)は、なんと国民を監視することが任務の自衛隊情報保全隊のエリート隊員という設定でした。また、アニメにもかかわらずエンディング・タイトルバックには実写のイージス艦「ほたか」や海上自衛隊員たちが登場し、自衛隊協力映画であることが強調されていました。全国344スクリーンで公開され、興収35億円(観客数約300万人)を上げてコナンシリーズ最大のヒット作となったようです。
 もう1本は、4月27日から全国311スクリーンで公開された実写版の「図書館戦争」です(最終興収予想16億円台)。自衛隊好きで知られるベストセラー作家・有川浩原作の映画化で、あらゆるメディアを取り締まる「メディア良化法」が施行され30年が過ぎた正化31年(2019年)、「読書の自由」を守るために戦う自衛組織「図書隊」(自衛隊にそっくり)の若者たちの成長や恋を描いた映画ですが、「国民の人権や未来は図書隊が守る」というセリフが何度も出てきます。「図書隊」を「自衛隊」に置き換えてみれば、自衛隊が全面協力した意図が見えてきます。
 この2作品には、いずれも大手メディアが製作委員会に加わっているのが特徴です。
 また、驚いたことに地上波テレビのゴールデンタイム、TBS系の「日曜劇場」で、4月14日から連続テレビドラマ「空飛ぶ広報室」(全11話)が放送されました。「空飛ぶ広報室」は、「図書館戦争」と同じ有川浩の原作で、航空自衛隊の広報室そのものがドラマの舞台でした。もちろん防衛省、航空自衛隊の全面協力です。毎回、広報室がマスメディアに熱心に(執拗に)営業をかける姿が描かれ、各種戦闘機が画面の中を縦横に飛び回り、パトリオット・ミサイルまで登場しました。そして最終回には「あの日の松島」、松島基地を拠点とした自衛隊の救援活動、帰ってきたプールーインパルスを歓迎する住民の姿などが感動的に描かれました。関東地区の平均視聴率は12.65%で、その影響力は計り知れません。
 さらに最近では、テレビニュースや情報番組でも自衛隊の登場が増えています。NHKの「サラメシ」に海上自衛隊の洋上訓練ランチが出たり(6月10日放送)、「横須賀基地お見合い大作戦」(NHK/4月26日放送)という番組までありました。
 自衛隊が映画などに協力するに当たっては、防衛省に「部外製作映画に対する防衛省の協力実施の基準について」という内規があります。「防衛省の紹介となるもの」「防衛省の実情又は努力を紹介する等防衛思想の普及高揚となるもの」の2点を基準にしてABCにランク付けされ(Cは協力不適)、協力が決まれば、無償で自衛隊員の出演や、戦車・戦闘機・戦艦などが提供されるのです。
 製作側は、ただで戦闘機などの実写シーンが撮れるのですから、協力要請をしたくなるのは当然のことかもしれませんが、協力が得られるようにシナリオを改変するという事態も少なくないようです。自衛隊側には 目的があって協力するのですから、当然と言えば当然です。
 自衛隊協力映画は、自衛隊が発足した1954年の「ゴジラ」から始まっていますが、大規模な協力が展開され出したのは、大手メディアが加わる製作委員会方式によって日本映画の規模が拡大した2005年頃からです。
 一般映画として規模が拡大した分、直接的なプロパガンダは影をひそめましたが、巨大な「敵」や「悪」から命をかけて恋人や家族、国を「守る」というパターンは活用され、自衛隊の軍隊としての本質を隠したまま、かえって「毒」は拡散しました。
 「自衛隊協力映画&番組」が急増したのは、2011年の3.11東日本大震災からで、自衛隊の大規模な救助活動が報道されたことによってメディアと自衛隊との距離感が縮まった、という見方が一般的ですが、改憲策動の流れと無関係であるはずはありません。違憲の存在である自衛隊に市民権を与えて、9条改憲の抵抗感をなくそうという意図は見え見えです。
 また、自衛隊協力を前提に映画などを作ろうとすれば、製作側は自衛隊からの注文を飲まざるを得ません。それは、言論表現の自由を映画人自ら売り渡すに等しい危険なものです。映画によっては軍隊の登場が必要な場面もありますが、安易な自衛隊利用には警鐘を鳴らしたいと思います。

【お薦め映画紹介】 「少年H」

羽渕 三良 (映画人九条の会運営委員/映画評論家)

アジア・太平洋戦争の時代を少年の目で見た家族の物語

 この映画の見どころは、二つ。一つは、どのようにして戦争ははじまり、敗戦で終わったのか。子どもたちの目でもわかるように丁寧に描かれている。
 この映画の主人公の少年H(妹尾肇)が仲良くしていたうどん屋の兄ちゃんが政治犯として警察に逮捕、連行される。元女形の旅芸人だったオトコ姉ちゃんに招集令状が来るが脱走して自殺。不穏な空気がただようようになる。そして、1941年(昭和16年)12月8日、アジア・太平洋戦争勃発。つづいて少年Hの父親妹尾盛夫(水谷豊)にも警察の手が。理由は、高級紳士服仕立洋服店としていて、お客には外国人がおり、「スパイ容疑」で逮捕、連行、拷問を受けることに。
 さらに戦争は進み、1945年3月の神戸大空襲で神戸の街は火の海。少年Hの家も焼失、神戸が焼け野原。それでも家族は生命は助かり、敗戦の8月15日を迎える。
 この映画のもう一つの特色、妹尾家族はこの戦争の時代、どのような生き方をしたか。これを浮き彫りにする。家族は仕立て職人の父親妹尾盛夫、母親(伊藤蘭)は、熱心なクリスチャン。それに少年Hの肇と妹の好子の四人家族。父親は口ぐせのようにいう。周囲に翻弄されずに、自分の目で見て、自分の耳で聞き判断すること。母親は人を差別せず愛をもって接すること。こうした家族の教育のもと、肇はおかしいことはおかしいと言い、「なんで?」とよく質問する少年として育つ。学校では、軍事教練担当教官が配属される中で、肇はとりわけつらい思いをする。勇気と愛情をもって生きようとする肇をはじめとするこの家族の生き方に感動がひろがる。
 監督は、『ホタル』(2001年)や『あなたへ』(2012年)の降旗康男。脚本は『Always 3丁目の夕日64』(2012年)の古沢良太。原作は、妹尾河童の自伝的小説『少年H』の映画化。父親と母親役は、水谷豊と伊藤蘭の夫婦共演。8月10日(土)から全国ロードショー。

映画人九条の会会員の皆さまへお願い

 映画人九条の会会員の皆さまにお願いがあります。映画人九条の会は年に4回、機関紙である「映画人九条の会mail」を発行していますが、1回発行するのに約5万円の費用がかかります。その大半は、郵送にかかる費用です。
 経費節減のためにも、また発行回数の拡大のためにも、メール送信の数を増やしたいと思っています。現在「映画人九条の会mail」を郵送で受け取っている方で、パソコンのメールアドレスをお持ちの方は、ぜひメールアドレスを教えて下さい。
 また、メール送信しても、アドレスが変わったりして届いていない方が相当数いらっしゃいます。新しいアドレスをぜひご連絡ください。よろしくお願いいたします。

映画人九条の会事務局

映画人九条の会事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
TEL 03-5689-3970 FAX 03-5689-9585
Eメール: webmaster@kenpo-9.net