映画人九条の会Mail No.27

2008.03.31発行
映画人九条の会事務局

目次

映画「靖国」に政治圧力!

 靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(李纓監督)が3月18日、一部映画館(新宿バルト9)で上映とりやめになったと報じられました。別の上映予定館である銀座シネパトスに対しても右翼の街宣車が押しかけ、「『靖国』の上映を中止しろ!」と叫んで、上映中止運動を展開しています。上映館が失われかねない異常事態です。

 ことの発端は、週刊新潮が「反日映画に政府出資の基金から助成金が出ているのはおかしい」旨の記事を書いたことでした。この記事が出たあと、自民党・稲田朋美議員らが映画「靖国」への公的助成が適切だったかどうかを検証するための「試写会」を、文化庁を通じて配給会社に「要請」しました。国会議員試写会は3月12日に行われましたが、与党議員らによる事前試写会の強要は、国政調査権を盾にした権力者の「検閲」の強要、公的支援への政治的介入のように思われてなりません。
 稲田議員は試写会後、「イデオロギー的メッセージを感じた」「ある種のイデオロギーをもった映画に公的基金から助成するのは相応しくない」旨の発言をし、芸術文化振興基金からの助成取り消しを求めた、とも伝えられています。

 これは、映画の表現の自由が侵されかねない重大問題です。映画が表現物として、作り手のある種の主張、社会へのメッセージ、イデオロギーを持つのは当然のことですが、それを理由に権力の中枢にいる国会議員らが公的助成取り消しを求めるなどということは、絶対に許されてはならないことです。もしこんなことがまかり通れば、社会的、政治的テーマとメッセージを持つ映画は、公的支援を受けられずに苦境に陥ってしまいます。ことは文化への公的支援の根幹にかかわる問題でもあります。
 また、右翼などの上映妨害運動が激化すれば、上映を取りやめる映画館がさらに増えるおそれもあります。映画の公開の場が奪われつつあることに強い憤りを感じます。

 映画「靖国」は、毎年8月15日に狂態を繰り返す靖国神社の様々な姿を映し出すとともに、靖国神社のご神体である日本刀「靖国刀」(昭和8年から終戦まで、8100振りの刀が靖国神社境内で作られた)を打つ老刀匠に迫り、アジア諸国への侵略戦争における日本刀の意味と役割をいっさいのナレーションなしに静かに描き出したものです。
 この映画について一水会顧問の鈴木邦男氏は「これは『愛日映画』だ!」と言い、自民党・島村宜伸議員(元・文部大臣)は「自虐的な歴史観に観客を無理やり引っ張り込むものではなかった」と語っています。
 このような映画に政治的な圧力がかけられ、公的支援の取り消しが求められ、上映中止運動まで起こるなどということは、まさに日本社会の異常さを示すものです。

 映演労連(映画演劇労働組合連合会)は3月19日、文化庁に対して説明と見解を求めるべく交渉を申し入れ、3月25日には自民党・稲田朋美議員に公的助成への政治的介入に抗議する「抗議要請文」を送付しました。
 なお現在、映画「靖国」の公式ホームページに乗っている上映予定館は、4月12日から東京の銀座シネパトス、シネマート六本木、渋谷Q-AXシネマだけです。

★映画人九条の会4・4学習集会★ 21世紀の世界と日本、経済の行方──そして9条

 映画人九条の会は、「経済」の前編集長である友寄英隆さんをお呼びして、来る4月4日(金)に東京・文京シビックセンターで、21世紀の世界と日本の経済の行方と、9条を守って希望ある日本をめざす運動の重要性について、じっくりとお話を聞く学習集会を計画しました。皆さん、どうぞご参加ください。

マスコミ関連九条の会連絡会が、「戦争と人間」上映会! 澤地久枝さんが講演!

 マスコミ関連九条の会連絡会が4月26日(土)、東京・星陵会館で、日本映画史上に輝く山本薩夫監督の超大作「戦争と人間 第一部 運命の序曲」(1970年)の上映会を行います(DVDによるプロジェクター上映)。上映会の冒頭で、澤地久枝さんも講演されます。
 入場料は1000円(前売り)。申し込みは090-8580-6307(三枝)か、映画人九条の会へ。

ハリウッドの映画人は“戦争”を告発する ―イラク戦争5周年に際して―

山田和夫(映画人九条の会代表委員/映画評論家)

 米ブッシュ政権がイラクへの侵略戦争を開始して5年。戦争は“ベトナム化”と呼ばれるほど泥沼化し、米軍に協力して参加した「有志連合」の国ぐには、日本以外相次いで軍の撤退または削減を余儀なくされて、何よりも米国民の過半数は「イラク戦争ノー」の意思表示をするまでになった。そして開戦時より少なからぬ第一線映画人が反戦の側に立っていたハリウッドの良心は、昨年後半から作品を通じてはっきりと「イラク反戦」を主張しはじめ、4月から日本でも一連の力作、秀作が公開される。
 とりあえず試写を見た3本について──。

■「大いなる陰謀」

 ロバート・レッドフォード監督の「大いなる陰謀」は、自分自身とトム・クルーズ、メリル・ストリープらが競演、「何のために戦うのか? 何のために死ぬのか?」をキャッチフレーズにうたう、文字通り真摯にアメリカ国民に“いま”を問う力作となった。
 クルーズの大統領側近で軍事顧問である上院議員は、大手テレビ局のベテラン記者(ストリープ)を招き、アフガニスタンの秘密作戦をリークする。イラク戦場の泥沼化から目をそらすため、アフガニスタンの高地を奇襲占領する計画。すでに作戦は開始され、大手テレビ局を利用して宣伝、あわよくば自分の大統領選出馬の追い風にしようとしていた。テレビ記者は米兵の犠牲など一切無頓着な官僚に疑惑を抱く。その秘密作戦で2人の若い米兵が氷雪の山中に取り残され、孤立し、死地におちいる。この2人の兵士はカリフォルニア大学の優秀な学生、恩師(レッドフォード)のとめるのを聞かず、志願した。そしていま恩師はもう一人の教え子に、いまいかに生きるべきかを説き聞かせる……。
 映画は1時間半のコンパクトな作品で、激しい戦闘シーンもほとんどない。クルーズ対ストリープ、レッドフォード対学生の静かだが緊張した対話が、戦場シーンをはさんで平行して進む。地味なたたずまいだが、その心にしみる問題意識、「こんな戦争で死んでいいのか?」と突きつける問いの厳しさに、胸をつかれる。

■「告発のとき」

 ポール・ハギス監督の「告発のとき」も抑制された地味なトーンのなかに、イラク戦争の真実に迫る。
 トミー・リー・ジョーンズ(日本では缶コーヒーBOSSのテレビCMで有名な)の父親が、イラクから帰国した息子が行方不明と聞く。シャーリーズ・セロンの女刑事とともに、息子の行方をさがす。
 そして息子の無残な焼死体を発見、息子の戦友たちにかけられた容疑、そして息子も含めた彼らがイラクで行った市民や捕虜への残虐行為が浮かび上がる。国を愛し、軍につとめた経験のある父親にはとても信じられない。
 ラストで星条旗を掲揚するシーンをぜひ見逃さないようにしてほしい。そこに映画の「告発」の意味が痛切に込められているからである。

■「さよなら。いつかわかること」

 ジェームズ・C・ストラウス監督の第1回作「さよなら。いつかわかること」は、さらに静かな情感をたたえた作品。
 ジョン・キューザックの父親は8歳と12歳の幼い姉妹とともに、軍曹としてイラクに出征した妻=母親を待っている。ある朝、その母が戦死した知らせが届く。しかし彼は幼い姉妹に、その事実を告げることが出来ない。
 子どもを連れてフロリダのテーマパークへのドライブに行く。その途中で子どもの目を盗み自宅に電話をする。いまは亡き妻が吹き込んだ留守番電話のメッセージが響き、その声と対話する切ない悲しみが伝わる。そして旅の最後に、彼は子どもたちに真実を話す……。
 主人公の父親はイラク戦争に反対しているわけではない。戦争に批判的な弟と論争するくらい、むしろ保守的な男をも、どうしようもない悲しみでむち打つ戦争の痛み。この父親がはっきりと反戦の側に進み出るのは時間の問題である。

 これまでに試写を見た上記3本で痛感するのは、これらの作品のスタッフたちは明らかに商業主義に妥協せず、ひたすら戦争に向き合っていること。昨年11月から今年の2月にかけて、ハリウッドのシナリオ作家や映画俳優たちは自己のユニオンに結集して、新しい要求を貫徹した。その自己主張の強さと組織的行動力と、こうした一連の「反戦映画」の登場は無縁ではない。

(2008.3.21)

映像を通して平和憲法を守る運動の前進を

加藤嘉信(「日本の青空」宮城県上映実行委員会)

 いま、みやぎ県憲法九条の会では映像を通して平和憲法を守る運動を大きく発展させようという取り組みが始まっています。そのきっかけとなったのは昨年2月、県の交流会で上映した「戦争をしない国日本」(監督・脚本/片桐直樹)の体験でした。
 当日は県内各地の九条の会関係者のほか、地元仙台の大学生の参加が目立ち、150人の皆さんにご覧いただく事ができました。憲法九条をめぐる膨大な映像資料で分かり易く展開するこの映画に一番共感したのは、若い人でした。初めて見る戦争と平和の映像に沢山のアンケートが寄せられ、改めて映画(映像)のもつ力を実感させられました。特に若い人たちの参加が全国的に大きな課題となっている今日、大変貴重な体験を持つことが出来ました。
 もう一つの経験は、劇映画「日本の青空」(大澤豊監督)の取り組みです。同映画の上映運動を憲法を守る運動の「真正面にすえて」取り組もうと呼びかけた結果、県内7箇所で上映され、のべ9400人の皆さんの協力を得る事が出来ました。「知ってるつもりだったが、改めて平和憲法誕生の事実を知り、大変感動した」との声が大きな力になり、一つ一つは小さな九条の会でも、周りの団体や個人の皆さんに協力を呼びかけ、一箇所数百人から1000人にも及ぶ参加者を得る事ができました。仙台では4000人を超す皆さんの協力を得る事ができました。
 私たちはこの二つの経験を活かすべく〈青空ライブラリー〉を設立、平和を題材にした劇映画や記録映画、アニメーション映画のDVDとプロジェクターを購入し、継続的に持続的に映像を通して平和憲法を守る運動を展開しようと準備を始めています。〈ライブラリー〉の運営の中心は、地元の高校の先生を中心に生協関係者や主婦の皆さんです。館長は「日本の青空」の実行委員長です。

【情報コーナー】

「九条の会」に対抗して、「新憲法制定議員同盟」が新体制!
 3月4日、「新憲法制定議員同盟」の新体制が発足しました。全国に広がる「九条の会」に危機感を抱いて、これに対抗するために「拠点となる地方組織づくり」をめざすのだそうです。民主党から新たに鳩山由紀夫幹事長も顧問に就任しています。しかし国会議員は憲法遵守義務があるはず。彼らは議員を辞めるつもりなのでしょうか?
福田首相、派兵恒久法案の今国会提出を指示
 支持率が下がる一方の福田首相ですが、3月25日、派兵恒久法案を今国会に提出するよう指示しました(翌日、少し修正しましたが)。派兵恒久法は前号でも指摘したように、憲法9条を破壊する法律です。絶対に許してはなりません。反対の世論を盛り上げましょう。

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