映画人九条の会Mail No.83

2020.11.04発行
映画人九条の会事務局

目次

映画人九条の会の活動を再開します。
新たな改憲の企てを阻止しよう!

 映画人九条の会の皆さま、コロナ禍によって長らく活動を停止していたことを心からお詫び申し上げます。運営委員会も、狭い事務所での会議は密を避けられず、またオンライン会議を行う環境も不十分だったため、2月末以来開催することができませんでした。映画人九条の会mail も1月15日に82号を出して以来、11カ月近くも間が空いてしまいました。
 新型コロナウィルスの蔓延は収束していませんが、これからはなんとか工夫をして映画人九条の会の活動を再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 この間、8月28日に安倍首相が辞意を表明し、9月16日に菅義偉政権が誕生しました。しかし菅首相が掲げたのは、「安倍政治の継承」「自助、共助、公助」と「国民のために働く内閣」だけでした。安倍政治の継承は、悪政の継承に他なりません。政権が自助を第一に掲げることは、政治の放棄です。国民から選ばれた政治家が国民のために働くのは当たり前のことで、殊更これをアピールするのは、自身が官房長官として7年8ヶ月も支えてきた安倍内閣が国民のために働いてこなかったことを自白したようなものです。
 そして菅政権は、憲法9条を破壊する「敵基地攻撃能力」の保持を強行しようとしています。
 また9月末には、政府から独立して政策提言する日本学術会議の新会員について、会議が推薦した105名のうち6名の任命を、理由も示さずに拒否しました。これは、日本学術会議への不当な介入であり、憲法23条に書かれた「学問の自由」への侵害です。
 さらに菅政権は、安倍改憲の完遂を公約に掲げており、菅政権下で自民党の憲法改正推進本部長に就いた衛藤征士郎氏は、自民党の改憲4項目を年内にも条文化した原案に「格上げ」して憲法審査会に提案しようとしています。これは改憲の強引な突破路線です。
 首相就任から40日も経ってようやく開かれた臨時国会の所信表明演説でも菅首相は、「安倍政治の継承」と「自助、共助、公助」を繰り返し、コロナ対策では何の具体策も示さず、自らが引き起こした日本学術会議の6名の任命拒否問題については一言も触れませんでした。温室効果ガスの「2050年排出実質ゼロ」を表明しましたが、これ自体は120か国が表明している国際基準です。しかもこの「排出ゼロ表明」を原発推進の根拠にしたい意図が透けて見えます。

 安倍政権の終了によって、安倍前首相の執念であった「安倍改憲」は実現できなくなりましたが、菅政権は安倍政権よりも強権的な政治を押し進め、安倍政権よりも強引に改憲の企てを推し進めてくる危険があります。新たな9条破壊の攻撃と改憲の企てを阻止するために、気を引き締め直して闘いましょう。


映画人九条の会運営委員一同

●安倍政権の総辞職と菅政権の誕生にあたり9月23日、九条の会は以下のアピールを発表しました。
安倍政権の終わりと改憲問題の新たな局面を迎えて

2020.09.23 九条の会

 7年8ヶ月に及ぶ安倍晋三内閣が総辞職し、菅義偉政権が誕生しました。安倍首相が任期を残して辞任に追い込まれた最大の要因は、九条の会も参加した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」による3000万人署名、発議阻止の緊急署名の運動をはじめとする全国の市民の粘り強い行動が強い後押しとなり、それに励まされた立憲野党の頑張りが、安倍首相の念願である明文改憲の策動を押しとどめ、「2020年末までに」「自分の任期中に」という首相の公約を事実上挫折に追い込んだことにあります。
 それに加えて、安倍政権が進めてきた大企業を優遇し、いのちと暮らしをないがしろにする政治が、新型コロナの流行に直面して、対策の無力、社会の困難を露呈させたことや、モリカケ、桜を見る会の問題、検察庁法「改正」の企みなどの政治の私物化への怒りの爆発が、政権を追い詰めた要因となりました。
 しかし、安倍政権の追求した改憲、大企業優遇の政治は決して安倍個人の思いつきではなく、冷戦終焉以降、自衛隊をアメリカの戦争に加担させようと圧力をかけてきたアメリカや財界、右派勢力の要請に基づくものです。2015年の日米ガイドラインでは日米同盟をアジア・太平洋から世界へ、さらには宇宙にまで拡大し共同作戦体制を強化することが謳われています。安倍首相が辞任したからといってこれらの危険がなくなるわけではありません。
 誕生した菅政権は、「安倍政権の政治の継承」を掲げ「憲法改正にしっかりと取り組む」と安倍改憲の完遂を公約に掲げています。菅首相をはじめとして新閣僚21人中実に18人が日本会議国会議員懇談会等の改憲右派団体のメンバーであることはその決意の強さを裏づけています。
 さらに、菅政権は、明文改憲の前段として、9条の実質的破壊を推し進める「敵基地攻撃能力」の保持をまず強行しようとしています。安倍首相は、退陣直前の9月11日に異例の「談話」を発表して次期政権に、その実行を迫りました。それに呼応して、安倍首相の実弟である岸信夫新防衛大臣は就任直後の記者会見で、敵基地攻撃能力を含むミサイル防衛について「今年末までにあるべき方策を示し、速やかに実行に移す」と明言しました。これは、自衛隊が米軍とともに海外で戦争する軍隊になることをめざすものであり、9条を破壊する許すことのできない暴挙にほかなりません。
 安倍政権を終わらせたことで改憲の企てに大きな打撃を与え、改憲問題は新たな局面に入りました。むろん自民党・改憲勢力はあきらめていません。改めて改憲4項目を掲げ、改憲に拍車をかけようとしています。安倍改憲の強行を阻んだ市民の力に確信を持って、改憲発議阻止の緊急署名に、改めて取り組みましょう。敵基地攻撃力保持という9条の破壊を許さない、という声を挙げましょう。

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映画人有志22人が「日本学術会議への人事介入に対する抗議声明」を発表!

 日本学術会議によって推薦された新会員候補のうち6人の任命を菅義偉首相が拒否したことに対して、映画人有志22人は10月5日、「日本学術会議への人事介入に対する抗議声明」を発表しました。
 抗議声明は、「(日本学術)会議が推薦した候補を首相が拒否するのは本来あってはならないことです」「この問題は、学問の自由への侵害のみに止まりません。これは、表現の自由への侵害であり、言論の自由への明確な挑戦です」と述べ、「今回の任命除外を放置するならば、政権による表現や言論への介入はさらに露骨になることは明らかです。もちろん映画も例外ではない」と指摘しています。
 そして抗議声明は、「ナチスが共産主義者を攻撃し始めたとき、私は声をあげなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。次に社会民主主義者が投獄されたとき、私はやはり抗議しなかった。なぜなら私は社会民主主義者ではなかったから。労働組合員たちが攻撃されたときも、私は沈黙していた。だって労働組合員ではなかったから。そして彼らが私を攻撃したとき、私のために声をあげる人は一人もいなかった」というマルティン・ニーメラー氏の有名な詩を引用し、「私たちはこの問題を深く憂慮し、怒り、また自分たちの問題と捉え、ここに抗議の声を上げます。私たちは、日本学術会議への人事介入に強く抗議し、その撤回とこの決定に至る経緯を説明することを強く求めます」と結んでいます。
 映画人九条の会は抗議声明を発表された22人の映画人に敬意を表するとともに、抗議内容に全面的に賛同するものです。
 声明を発表した映画人は、青山真治(映画監督)、荒井晴彦(脚本家、映画監督)、井上淳一(脚本家、映画監督)、大島新(映画監督)、金子修介(映画監督)、小中和哉(映画監督)、小林三四郎(配給)、是枝裕和(映画監督)、佐伯俊道(脚本家、協同組合日本シナリオ作家協会理事長)、白石和彌(映画監督)、瀬々敬久(映画監督)、想田和弘(映画監督)、田辺隆史(プロデューサー)、塚本晋也(映画監督)、橋本佳子(プロデューサー)、古舘ェ治(俳優)、馬奈木厳太郎(プロデューサー、弁護士)、三上智恵(映画監督)、森重晃(プロデューサー)、森達也(映画監督)、安岡卓治(プロデューサー)、綿井健陽(映画監督・ジャーナリスト)の22人です。


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「安倍政治」を全面継承した菅政権の異常

 9月16日第99代首相に就任した菅義偉氏は、平和と民主主義を破壊し、基本的人権を蹂躙しつづけてきた「安倍政治」の全面継承を公言しました。菅政権は発足直後から、安倍政権から引き継いだ、強権的、独裁的な政治姿勢をあらわにしています。
 菅首相は、安倍政権の官房長官としてテレビ局などに圧力をかけてきたと言われていますが、菅政権は安倍政権以上にメディア懐柔、メディア支配を強化するのではないかと危惧されています。実際、10月3日には完全オフレコを条件に菅首相との「パンケーキ記者懇談会」が行われ、5日にはメディアを代表3社に絞った異例の「閉鎖型インタビュー」を行っています。これは異常です。
 また10月初旬、日本学術会議が推薦した新会員候補 105人の内6人が、菅首相よって任命を拒否されました。6人は、安倍政権下で強行された違憲立法の問題を指摘し、反対を表明してきた研究者たちです。「政府から独立して職務を行う特別の機関」である同会議への人事介入は、憲法 23 条が保障する「学問の自由」を侵害する行為であり許されるものではありません。
 菅首相は任命拒否の理由を一切明らかにせず、説明責任を全く果たしていませんが、問題に深く関与し6人の任命拒否を菅義偉首相に「事前報告」したとされているのが杉田和博官房副長官です。警察官僚として警備・公安分野の各役職、内閣情報調査室長などを歴任した後第2次安倍内閣が発足時より内閣官房副長官に就任、以来8年近く、79歳となる現在に至るまで官邸で「事務方トップ」の座に止まり続けている人物です。杉田氏はまた、2017年の内閣改造で、内閣人事局長を兼任。各省庁の審議官、局長、事務次官ら約600人の幹部人事を一手に掌握ることとなり、「陰の総理」との異名を持つに至っています。
 前川喜平氏は立憲野党合同ヒアリングの席で、自身の次官在任中、「文化功労者選考分科会」委員候補2人の「差し替え」を杉田氏から求められたと述べました。杉田氏は「政権を批判する人物を(候補に)入れては困る。官邸に持ってくる前にちゃんとチェックすべきだ」と指示。同省は差し替えに応じたといいます。前川氏はまた、同省の審議官以上の役職や独立行政法人役員の人事も官邸の意向で複数回差し替えたと証言しています。
 官邸の、官僚人事を盾にした恐怖政治は民主主義国家としての自殺行為です。杉田氏の臨時国会への参考人招致を実現させ、問題の徹底追及と、民主主義政治の回復を強く求めていきましょう。

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コロナ禍での映画界の状況と、芸術活動支援の問題点

梯 俊明(映画人九条の会運営委員/映演労連書記長)

 今年の2月下旬以降、新作映画の公開延期は実に200作品以上。緊急宣言解除以降、徐々に回復傾向にあるとはいえ、大手配給会社1〜9月の累計興行収入(616億円/前年同期1830億円)は昨年の4割程度と苦戦を強いられています。
明るい材料としては10月に入って公開された『鬼滅の刃』の大ヒットが挙げられます。最終興収300億円に迫る勢いとも言われ、もはや社会現象となっています。これまで50%席数で営業していた劇場の多くは、利益率の高い飲食販売を取りやめてもなお全席開放に踏み出し始めました。劇場に観客が戻る様子は多くの映画関係者を励ましています。
 しかし、冒頭に述べた状況が一気に好転する訳ではありません。未だに初日が決まらない作品も多く、劇場がクラスター化しないための運営努力も当面続きます。劇場公開に見切りをつけ配信にシフトし始めたハリウッドの動きも気になります。今回の大ヒットは日本だけの現象で、世界的に見れば映画館に観客が戻る条件は未だ揃っていません。国内でもとりわけ中小の製作・配給・劇場は未だに展望が見いだせず、「自助」だけで何とかなる状況ではないのです。
 そこで必要となるのが公的支援ですが、文化庁が示した第二次補正予算の評判がよくありません。560億円という補正予算規模は例年の文化庁予算の半分に匹敵する数字であり、多くの人が期待を寄せていました。しかし、9月までの募集期間で採択されたのは僅か4割。芸術団体からは「使い勝手が悪い」「長期的な支援こそ必要」との悲痛な声もあがっています。
 補正予算の大半を占める総額509億円に及ぶ「文化芸術活動の継続支援事業」は対象が従業員20人以下の小規模団体で、フリーランスなど個人も対象ですが、中堅の事業者は除外される場合があります。そのうえ「事業経費に対する助成」であるため、具体的な事業内容を周到に準備し申請しなくてはなりません。仮に受理されても支援金が振り込まれるまで経費を立て替える必要もあると言います。国民一人10万円と同様に、助成ではなく「給付」に、そして短期で済ませず長期的な支援策へと改善させることが、映画のみならず全ての文化産業従事者の切実な願いと言えるでしょう。

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【お薦め映画紹介】

『スパイの妻』

平沢清一(映画人九条の会運営委員/映画ライター)

 日常生活を襲う不穏な得体知れない恐怖から、現代社会の不安や閉塞を描いてきた黒沢清監督が、初めて戦争の歴史に挑んだベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞作です。
 1940年の神戸が舞台。貿易会社を営む優作(高橋一生)は、仕事の傍ら妻の聡子(蒼井優)を主演にアマチュア映画の撮影に興じていた。聡子の幼なじみで憲兵隊長の泰治(東出昌大)が、優作の仕事仲間の英国人が諜報員の容疑で逮捕されたと、洋装で舶来品を好む優作夫婦に警告する。戦争の激化を懸念した優作は、移動ができるうちにと、物資の安い満州に渡航する。優作が関東軍の医療施設を訪れたときに、恐るべき国家機密を知りことになる。軍の非人道性に強い憤りを感じた優作は、この暴虐を国際社会に訴えようと決意する。そして、スパイの妻と罵られようとも夫の志を遂げさせようと覚悟を決めた聡子が、思いもよらない驚愕の行動に突き進む……。
 前作『旅のおわり世界のはじまり』で、シベリア抑留の戦争の影を背景に滲ませた黒沢監督。本作では、さらに踏み込んで日中戦争の蛮行や国家権力による残忍な拷問を描いて、監督ならでは作風で戦争に抗する独特の視点を打ち出しています。黒沢監督がこの主題を手掛けるのは意外でもあり、戦争への危機感の広がりを感じます。
 新政権は、自らも加担する前政権のさまざまな疑惑の解明にはいっさい手をつけずに、戦争のできる国への危惧が強まる危険な路線の継承を強調しています。さらに、戦争協力の反省から設立された日本学術会議への、学問の自由を侵害する露骨な政治介入が大きな問題となっている現在、戦前の軍国主義や暗黒政治の記憶と教訓を呼び起こす、重要な役割を果たす映画にもなっています。
 『南京1937』(1995年)、『靖国』(2007年)、『沈黙―立ち上がる慰安婦』(2017年)、そして、昨年、上映差し止め訴訟で話題となった『主戦場』など、日本の侵略戦争に触れた作品が、右派や歴史修正主義者の激しい攻撃に晒されて、戦争の時代が描かれにくい状況の中で、『スパイの妻』の国際舞台での高い評価が、日本の戦争責任の問題に斬りこむ作品の増えていく契機になればと期待されます(全国で公開中)。


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【今後の主な行動予定】

●「映画人九条の会16周年の集い」は中止
 映画人九条の会は今年11月24日に16周年を迎えます。映画人九条の会は毎年11月24日前後に「●周年の集い」を開催してきましたが、今年はコロナ禍のため中止といたします。残念ですが、ご了承ください。

●11月19日(木)、改憲反対!11・19国会議員会館前行動
        ■時間&場所:18:30〜衆議院第2議員会館前を中心
        ■主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会


●21年1月21日(木)、私たちは戦争を許さない―安保法制の憲法違反を訴える市民大集会
        ■時間&場所:18:30〜日本教育会館           ■参加費500円
        ■主催:安保法制違憲訴訟全国ネットワーク
         協賛:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会


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映画人九条の会事務局
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