今年の通常国会は終盤に来て「年金2000万円」問題などで与野党の攻防が激しさを増し、野党は内閣不信任案を提出しましたが、今のところ6月26日に閉会する模様です。
安倍政権は9条改悪憲法を2020年に施行するために、本気で今国会での改憲発議を狙っていました。その執念はすさまじいもので、改元によってあたかも新時代が来たかのような一大キャンペーンを張り、天皇の退位と即位を利用し、トランプ米大統領の来日をマスコミを挙げて大騒ぎし、トランプ大統領にすり寄って米国兵器を爆買いまでして日米同盟の「重要性」をアピールし、改憲を議論しようとしない野党議員を罵倒し、果ては次々に芸能人と接触を行うなど、安倍政権は自身の人気取りと改憲気運の盛り上げに猛進してきました。
ところが安倍政権は、改憲発議どころか憲法審査会への自民党改憲案の提示もできませんでした。これは、市民と立憲野党の共闘の力によるものです。
勝負は7月の参院選になります(衆参ダブル選挙の可能性もまだ残っていますが)。参院選の結果は、この国の行方を間違いなく左右にします。
自民党は、「憲法改正原案の国会提案・発議を行い、早期の改憲を目指す」ことを公約に掲げました。もし改憲勢力が3分の2以上を確保したら、安倍政権は間違いなく9条改憲に突き進むでしょう。
安倍首相が憲法9条に書き込もうとしている自衛隊は、戦争法によって海外での武力行使が可能になった自衛隊です。戦争法は合憲となり、全面発動されるでしょう。9条1項、2項は死文化し、自衛隊は「戦争する軍隊」に変質します。自衛隊を違憲にしないための努力(災害救助活動など)は必要なくなります。自衛隊明記によって、9条だけでなく憲法全体が変質し、「戦争する国」化が加速することは必至です。
しかし、逆に改憲勢力を3分の2以下に落とし込めば、国民を苦しめ続けた安倍政権は崩壊の危機を迎えます。
立憲野党は32のすべての一人区で候補者を一本化し、市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)と5野党・会派(立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党、社会保障を立て直す国民会議)は13項目の「共通政策」で一致しました。
これは大きな希望ですが、まだスタートラインに過ぎません。立憲野党が勝利するには、13項目の「共通政策」を多くの市民に伝え、ポスト安倍政権の受け皿がここにあることを知ってもらわなければなりません。そして、すべての選挙区で本気の共闘態勢を作り上げなければ、改憲勢力に勝つことにはならないでしょう。そのために市民運動の役割は重要です。
9条改憲を止めて戦争する国づくりをストップさせることも、原発再稼働を止めることも、辺野古新基地建設を止めることも、消費税増税を止めることも、そして「だれもが自分らしく暮らせる明日」を作ることも、すべてはまず、安倍政権を倒すことから始まります。
今こそ、全国の九条の会の頑張り時です。映画人九条の会も頑張ります。皆さまもそれぞれの地域、職場などで「共通政策」と「安倍改憲NO!」を訴え、参院選(またはダブル選挙)で改憲勢力に痛打を与えて、悪夢の安倍政権に終止符を打ちましょう。
ほとんどの市民が賛同できる、
市民連合と5野党・会派の「共通政策」!
市民連合と5野党・会派が5月29日に合意した13項目の「共通政策」を以下に記しますが、その内容はほとんどの市民が賛同できる至極まっとうな政策ばかりであり、ポスト安倍政権の大きな受け皿になるものです。
これに対して自民党の参院選公約は、「憲法改正原案の国会提案・発議を行い、早期の改憲を目指す」「10月に消費税率10%に引き上げる」「辺野古新基地への移設」「原発の再稼働を進める」など、市民の願いに背くものばかりです。
共闘する野党と自民党のこの政策の違いを、多くの人に伝えましょう。
■市民連合と5野党・会派の13項目の「共通政策」
──だれもが自分らしく暮らせる明日へ
降旗康男監督、逝去
日本映画を代表する映画監督であり、映画人九条の会代表委員であった降旗康男さんが5月20日、肺炎のため逝去されました。84歳でした。
昨年の高畑勲監督に続く訃報に驚くとともに、大きな悲しみにおそわれました。本当に残念です。心から哀悼の意を表します。
映画人九条の会が2013年7月30日に行った「降旗康男監督、最新作『少年H』を語る集い」で、降旗監督は次のように語りました。
「戦争は急には起こりません。当時、私たちは時流に遅れないようにと、バスに乗るように戦争へと突き進んでしまいました。だからこそバスに乗る前に立ち止まって、そのバスの行き先を見て考えなくてはなりません。
そして、どんな小さなことでも一人ひとりが声を出していかなくてはなりません。バスに乗ったら最後、目的地までバスが止まることはないのですから」
──この降旗監督の言葉がいまも心に残ります。
国民投票法(改憲手続法)の欠陥、露わに!
改憲派が今国会で、国民投票法(改憲手続法)の「利便性」を高めるための「改正」を目論んでいましたが、できませんでした。そればかりか、参考人として憲法審査会に招致された民放連(日本民間放送連盟)は「CM量の自主規制はできない」との考えを表明し、法規制にも反対して、改めて国民投票法の欠陥が露わになりました。
国民投票においては国民の意思が正確に反映されることが基本ですが、現在の国民投票法は9条改憲を有利にするためにアンフェアなルールとして安倍首相自身が作った「改憲手続法」であり、改憲派には自由を与え、護憲派には規制を課すという重大な欠陥を抱えています。
欠陥の1は、最低投票率の定めがないこと、一番母数の少ない「有効投票総数」の過半数を採っていることによって少数の賛成で改憲されるおそれがあること。
欠陥2は、国民の運動を規制するおそれがあること。
そして最大の欠陥は、改憲派の宣伝が溢れる危険性があることです。テレビ・ラジオを使った有料意見広告は宣伝効果が絶大ですが、有料意見広告の禁止期間が投票日前のわずか2週間だけで、国民投票までの期間中(60日〜180日)、資金力のある改憲派が有料広告をガンガン流してしまうことが想定されます。しかも、投票日前2週間でも「私は賛成です」といった意見表明CMは可能なのです。
改憲派の有料意見広告がメディアを席巻すると、草の根からの運動とは大きな力の差が出てしまい、国民の正常な判断力を奪い、世論が歪められかねません。欧米諸国(イタリア、フランス、イギリス、スペイン等)では、テレビスポットの禁止などメディアの有料意見広告は強く規制されています。
こうした欠陥だらけの国民投票法のもとでは、絶対に改憲発議をさせないことが重要です。
映画人九条の会が昨年3月28日に行った「欠陥だらけの国民投票法」(講師・山口真美弁護士)の講演録は、映画人九条の会HPに全文掲載されています。また印刷した講演録パンフも残っています(頒価200円+送料)。ご希望の方は映画人九条の会事務局までご連絡ください。
【お薦め映画紹介】
内閣官房長官の記者会見で、露骨な妨害を受けながらも、鋭い質問を投げかけ続けて注目された、東京新聞社会部・望月衣塑子記者の著書『新聞記者』(角川新書)を原案に、『かぞくのくに』『あゝ、荒野』の河村光庸プロデューサーが、国民を蔑にして政権の延命や憲法改正を強行する安倍政権への危機感から、「現政権をリアルに描く映画を作りたい」との思いで本作は製作されました。「新聞を読んでいない」デジタル世代だからこそ(河村プロデューサー)と、起用されたのが『青の帰り道』の藤井道人監督です。
官邸や記者クラブと対立しながらも、妥協なく真実を追及する東都新聞の社会部記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)。政権擁護のための非人道的な謀略工作や情報操作に強い疑問を抱き葛藤する内閣情報調査室(内調)の若手エリート官僚・杉原拓海(松坂桃李)。ふたりは立場を超えて協力し、東都新聞に届いた医療系大学の新設に関する極秘文書の匿名ファックスをめぐる、政府の重大な疑惑を暴露しようと捨て身の覚悟で奔走します。
「モリカケ」疑惑、性的暴行事件のもみ消し、官僚の自殺など、安倍政権が批判を浴びながらいまだ解決をみない問題が想起されるエピソードを、オリジナル脚本(詩森ろば、高石明彦、藤井道人)に盛り込み、権力とメディア、組織と個人の攻防に迫っていきます。また、望月記者、前川喜平元文科省事務次官、マーティン・ファクラー元ニューヨーク・タイムズ東京支局長、南彰新聞労連委員長が、劇中の座談会に本人として登場し、ドキュメンタリー性も加味しています。
言論・表現への圧力、マスコミの忖度と報道の萎縮、「同調圧力」が強まる現在、安倍政権の暗部に大胆に斬りこみ、政治と社会に痛烈な問題提起をする気骨には敬服します。公開が近づきこの作品を取り上げないテレビ局もあるとのことで、圧力や妨害も心配されますが、人気俳優の起用・エンターテインメント性・全国150館の公開など、幅広い観客に届ける条件は揃っています。
「テレビに干される」懸念などさまざまなプレッシャーをはねのけて、国家権力の横暴に真っ向から対峙する端緒を開いた勇気に応えるためにも、本作の成功とともに、これに続く社会派映画のさらなる製作が期待されます。
(6月28日から東京・新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国ロードショー公開)