映画人九条の会Mail No.68

2017.1.20発行
映画人九条の会事務局

目次

──憲法施行70年──立憲野党と市民の共闘を大きく進めよう!

 映画人九条の会の皆さま、あけましておめでとうございます。
 今年は現憲法が施行されて70年の節目の年ですが、アベ首相は明文改憲に執念を燃やし、年頭から改憲発言を繰り返しています。「戦後のその先の時代を切りひらく……今こそ新しい国づくりを進める時だ」(1月4日、年頭記者会見)、「新しい時代にふさわしい憲法はどんな憲法か。今年は議論を深め、形づくっていく年にしていきたい」(1月5日、自民党本部仕事始め)などと、例年以上に改憲に前のめりです。
 立憲主義を破壊する憲法違反の「戦争法」強行。「駆けつけ警護」など新たな任務を付与した南スーダン「派兵」。TPP法案、カジノ法案、年金カット法案など悪法の強行採決。オスプレイ空中給油訓練の再開容認と辺野古新基地建設の工事再開強行等々。さらにアベ政権は、過去3度も廃案となったあの恐るべき「共謀罪」法案を今年の通常国会に提出しようとしています。アベ政権の暴走は止まるところを知りません。
 しかしそれらは今、国民の強い批判と抵抗を呼び起こしています。「アベ政治を許さない」の声は全国に広がり、昨年7月の参院選では、立憲野党と市民との共闘によって32の全一人区で野党候補が一本化され、11の選挙区で野党候補が勝利しました。また10月の新潟県知事選でも共産、自由、社民が推薦した米山隆一候補が勝利しました。
 今年中に総選挙が行われることは、ほぼ確実です。アベ一強政治と言われていますが、世論調査によればその中身は「ほかに適当な人がいないから」が大半です。アベ政権が進めている一つひとつの政治課題では、どれも国民の大半が反対しているものばかりです。アベ政権に代わる立憲野党と市民の統一した「受け皿」ができれば、状況はガラリと変わります。昨年の参院選と新潟県知事選がそれを示しています。
 「戦後のその先の」「新しい国づくりを」「新しい時代にふさわしい憲法を」などと言ってアベ首相が実現しようとしている自民党改憲案は、9条2項を削除して「国防軍」を創設し、無限定の集団的自衛権行使を可能にして現憲法の平和主義を全面破壊し、「公益及び公の秩序」を理由に人権と表現の自由を大幅に制限し、立憲主義を根底から破壊する恐るべき内容のものです。
そんなものに「新しい時代の希望」はありません。立憲野党と市民の共闘にこそ希望があります。私たち映画人九条の会は、立憲野党と市民の新たな闘いの一翼を担って、今年も活動する決意です。映画人九条の会の皆さま、映画人・映画関係者の皆さま、そして映画ファンの皆さま、ともに頑張りましょう。

映画人九条の会運営委員一同

「12・1映画人九条の会12周年の集い」の報告
記念講演「自衛隊PKO活動の変質と憲法」 清水雅彦教授(日体大・憲法学)

 映画人九条の会は昨年12月1日、東京・文京シビックセンター4階・シルバーホールで「12・1映画人九条の会12周年の集い」を行い、記念講演として、新しく九条の会世話人になられた日体大の清水雅彦教授(憲法学)に「自衛隊PKO活動の変質と憲法」を語っていただきました。


清水雅彦教授(憲法学) 冒頭、清水教授は、2015年に強行成立した「戦争法」の「平和安全法制整備法」に含まれるPKO協力法改正は、国連が統括しない停戦監視・安全確保・人道復興支援活動への参加などを新たに認めるもので、「改正」ではなく、新しい法律として議論すべきだったが、マスコミも国会も殆ど議論がなかった、と不満の意を示しました。
続いて、PKO活動は冷戦期、大国の関与のない中、北欧やカナダなどの国によって「受け入れ同意」「中立の確保」「非強制」を原則として積み重ねられてきたが、冷戦後大国が関与し、「受け入れ同意」なしに重武装した部隊が投入されるような活動に変質したと指摘しました。
 清水教授は、当時の日本ではPKO活動の変質を受けて、野党や市民団体が強い反対運動を起こし、「武力行使」「海外派兵」にあたると批判、政府与党は「正当防衛」「国際貢献のための派遣」と言い張って1992年強引にPKO協力法を成立させたが、市民側は違憲訴訟運動を展開、大きな反対運動によって「PKO参加五原則」やその他の歯止めが設けられたことを想起すべきだと主張しました。
 続いて憲法九条に話を進め、学説の多数説は九条一項(戦争の放棄)を侵略戦争放棄とし、二項(戦力不保持)は自衛力保持も許されないと解釈するが、政府解釈は一項は侵略戦争放棄、二項の「戦力」は「自衛のための必要最小限度の実力を超えるもの」として「実力」は憲法上保有できるとし、自衛隊の存在を「軍隊」ではないとして容認してきたと指摘しました。
 清水教授は次に日本国憲法の「平和主義」について、「侵略戦争の制限」から「侵略戦争の放棄」→「自衛戦争の制限」へと至った20世紀に入ってからの戦争違法化の流れの延長線上に日本国憲法があり、九条はこれを先取りしたものであると強調しました。
 また国連憲章について、集団的自衛権行使が認める51条の発動は各国判断に委ねられており、憲法九条を持つ日本は行使できないと指摘、また「武力による威嚇や行使」を、国連憲章は「慎まなければならない」、九条は「永久にこれを放棄する」としており、同じ発想ながらも断絶があると指摘しました。
今日本は、九条を持つ「優等国」から軍隊を持ち戦争できる「普通の国」にレベルダウンしようとしていると批判し、「駆け付け警護」任務付与は自衛隊を「普通の軍隊」にするものであり、PKO活動を通じても「普通の国」になるべきではないと強調しました。
 そして清水教授は、九条は、戦争放棄・軍隊不保持により平和を追求した規範であるが、「前文」は、構造的暴力(社会的構造による貧困・飢餓・抑圧・疎外・差別など)のない状態を作り出し、全世界から戦争と貧困をなくそうとの意思が示されていると解説、日本はこの考えに基づき、「アメリカの対テロ戦争に加担しない」だけでなく、「世界の貧困をなくすこと」に努めなければならないと主張、併せて、国防軍が集団的自衛権を行使できるように九条を全く別物に変え、前文がすべて削除された自民党の改憲草案をきちんと分析し、改憲を許さず、九条と前文を活かしていく運動をすべきであると主張しました。
 南スーダンPKOについては、8月に安保理で、政府軍にも武力行使できる地域防衛部隊4000人の追加派遣が米国主導で決議されたことを受け、日本は新任務を付与して自衛隊を派遣すること決定したが、政府軍・反政府軍いずれにも武器使用(=憲法違反の武力行使)する可能性がある新任務は付与すべきではないし、南スーダンはPKO参加五原則を満たさない内戦状態であるからPKO部隊は直ちに撤収しなければならない。またそのための運動を展開しなければならない、と主張しました。
 最後に清水教授は、戦争法発動阻止・廃止を展望する政治と運動について、2014年12月に総がかり行動が誕生し、2015年の反対運動を展開、2016年参院選32全部の一人区での共闘が実現できた。改憲勢力三分の二を許したことや、複数区での共闘など課題を残っているが、野党共闘を発展させていかなければならない。個人・団体も参加者を増やし、PKOの危険性、憲法の平和主義理念を広げる運動を展開し、ともに政権交代を目指していきたい、と締めくくりました。

映画人九条の会会員の皆さま、皆様のご友人に映画人九条の会加入を呼びかけてください!

 「映画人九条の会12周年の集い」は、別紙のように憲法と平和、言論表現の自由を守るために、映画人、映画関係者、映画ファンの皆様へ映画人九条の会へのご加入を改めて訴えました。
 映画人九条の会会員の皆さまにお願いです。皆さまのご友人、知人、仕事仲間などの方々にぜひ映画人九条の会への加入を呼びかけてください。よろしくお願いいたします。


昨年興収が2300億円超える可能性がある映画産業の状況

梯 俊明(映画人九条の会運営委員/映演労連書記長)


 2016年の国内映画興行収入は、2010年の2207億円を上回り、現在の集計方法となった2000年以降で過去最高を更新、2300億円台に乗る可能性が出てきています(1月24日、日本映画製作者連盟より公式発表される予定)。
 数字をけん引した中心は昨年に引き続いてアニメーション作品で、国内での興行収入トップ10のうち、アニメ作品が実に7作品を占めています(12月14日時点)。
 とりわけ8月公開の『君の名は。』はロングランを続け、1月16日時点で232億円の興収を記録しています。この数字は13年公開の『千と千尋の神隠し』(興収308億円)に次ぐ邦画歴代2位の数字で、邦洋あわせても国内興収歴代3位(『アナと雪の女王』255億円)に肉薄する数字です。『君の名は。』以外では、『ズートピア』(興収76.3億円)、『ファインディング・ドリー』(興収68.3億円)といったアニメ作品もヒットしました。
 同じくアニメ作品で11月公開の『この世界の片隅に』が登場したことも、昨年の特徴の一つです。製作費2億5000万円のこの作品は当初63館での公開でしたが、SNSを中心に評判が伝わり、3倍以上に公開館数を増やしています。本作の製作にあたっては、国内映画で最多かつ最高額である約3400人・4000万円近い資金がクラウドファンディング(ネット等による資金調達)によって集まりました。「SNSによる宣伝効果」「クラウドファンディング」の可能性を示した成功例だと言えます。
 一連のヒット作もあって東宝は年間興収歴代1位、松竹も歴代2位を記録し、配給会社の好調さが目立ちます。しかし、その好調さが製作スタッフや映画館労働者などの待遇改善には直結していません。またこの1年で、ミニシアターなど老舗といわれる映画館は10館以上が姿を消し、映画館ゼロの地方都市も少なくありません。アニメーターに至っては今なお最低賃金以下で働かされる若者が多く、アニメ制作工程の一部を中国など海外に移転する産業の空洞化も問題になっています。
 振り返れば、大ヒットの一方で映画産業の構造的な矛盾が鮮明となった2016年と言えるかも知れません。

【面白そうな映画紹介】


 今回は「お薦め映画紹介」ではなく、「面白そうな映画」(未見)と「面白かった映画」(DVD)を数本紹介します。なにせ、映画人九条の会事務局には新作映画の試写状がほとんど来ませんので、こういう紹介にしてみました。
『スノーデン』・・・NSA(米国国家安全保障局)の職員エドワード・スノーデンは2013年6月、米国政府が膨大な個人情報を監視していたことを暴露しました。映画『スノーデン』は、その実話を映画化したものです。監督は『プラトーン』『7月4日に生まれて』『JFK』などを作ってきたハリウッドきっての社会派監督オリバー・ストーンです。2時間15分。1月27日からTOHOシネマズ みゆき座などでロードショー公開。

『未来を花束にして』・・・ 女性には投票権も親権さえも認められていなかった1912年のイギリスで、女性の参政権を求めて立ち上がった“名もなき花”の真実の物語。メガホンは女流監督のサラ・ガブロン。出演はキャリー・マリガン、メリル・ストリープなど。1時間46分。1月27日からTOHOシネマズ シャンテなどでロードショー公開。

『追 憶』・・・公開は少し先ですが、映画人九条の会代表委員の一人でもある降旗康男監督の新作映画です。ある殺人事件きっかけに刑事、被害者、容疑者として25年ぶりに再会した幼なじみの3人が、封印したはずの過去と対峙するヒューマン・サスペンス映画。降旗監督がキャメラマン木村大作さんと9年ぶりにタッグを組んだ期待の映画です。出演は岡田准一、小栗旬、柄本祐、長澤まさみなど。5月6日から東宝系劇場で全国公開。

【面白かった映画(DVD)紹介】
 ヨーロッパではヒトラー映画が何本も作られ、現在も『ヒトラーの忘れもの』『アイヒマンを追え!』が公開中ですが、お薦めなのが昨年6月に公開された『帰ってきたヒトラー』です。ヒトラーが現代によみがえり、モノマネ芸人として大スターになるというドイツのベストセラー小説を映画化したものですが、ヒトラーを持ちあげるメディアの姿に、観終わってゾッとします。すでにDVDが発売されています。
 昨年3月に公開された『最高の花婿』も、ぜひお薦めしたい映画です。敬虔なカトリック教徒のフランス人夫妻の4人の娘が、それぞれユダヤ人、アラブ人、中国人と結婚し、末娘までが……というコメディですが、多様な人種や宗教の違いを乗り越えようとする人々の姿に感動します。これもDVDで観られます。
 昨年11月に公開された韓国映画『弁護人』は、韓国内で1100万人以上を動員し大ヒットした映画で、軍事政権の真っただ中、国家保安法違反で逮捕された学生たちの無実を訴える弁護士の姿を描いた社会派ヒューマンドラマの傑作です。主演は、韓国の実力派俳優ソン・ガンホ。関東での上映は終わったようですが、地方ではまだ一部劇場で公開されています。

【情報コーナー】

●2月7日(火)、JCJ&マスコミ9条の会講演会

 「市民革命」で安倍政治のペテンにとどめを。
 ■18:30〜東京・エデュカス東京(麹町駅徒歩2分・市ケ谷駅徒歩7分)
 杉尾秀哉議員の講演と、杉尾議員&中野晃一氏(上智大教授)の討論。参加費1,000円

●2月19日(日)、安倍政権の暴走止めよう!戦争法廃止、沖縄問題、貧困と格差
 〜 一大政治キャンペーン運動を(仮称)

 ■日時:2月19日(日)午後予定
 ■場所:東京・日比谷野外音楽堂
 ■主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会


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