映画人九条の会Mail No.48

2012.7.25発行
映画人九条の会事務局

目次

崩壊しつつも暴走する野田政権、「大連立」から改憲へ!

 自らのマニフェストと国民の期待を次々と裏切り、分裂、離党、造反が相次いで、崩壊しつつあるとさえ言われている野田政権ですが、しかし社会保障改悪と消費税増税の「一体改革」の強硬推進、原発再稼働、オスプレイの日本配備など、暴走をやめようとしません。

 6/29首相官邸前抗議20万人、7/6首相官邸前抗議15万人、7/13首相官邸前抗議15万人、7/16さようなら原発!10万人集会17万人、7/20首相官邸前抗議9万人と、国民の抗議の声が空前の規模で突き付けられているにもかかわらず、「大きな音だね」と言って国民の声に向き合おうとしない野田首相。

 なぜ野田首相が国民の声を無視して暴走できるのか言えば、その理由は「一体改革」での民自公の三党合意があるからです。三党合意が野田首相を支えているのは明らかであり、三党合意とその先にある「大連立」に大きな期待をかけているからではないかと思われます。

 仮に民自公が「大連立」すれば、衆院での議席数は390議席を超え、議席占有率は3分の2どころか80数%にもなり、何でもできることになります。そして「大連立」の最大の狙い、目標は改憲であり、それに続く財界・アメリカ主導の「日本改革」でしょう。

憲法審査会の動向を注視しよう!

 今年、自民党も、みんなの党も、たちあがれ日本も、橋下「維新の会」も、次々も改憲案を発表しました。自民党の新しい改憲案などは、天皇を元首とするとんでもなく右翼的なものですが、このような改憲案ラッシュはなぜ起こっているのでしょうか。

 それは、「大連立」によって改憲の舞台が整うかもしれない、という期待感からではないでしょうか。65年間できなかった改憲が実現できる機会が訪れた、と感じているに違いありません。

 また、この「大連立」の動き、改憲ラッシュと軌を一にするように、衆参両院の憲法審査会の活動が活発になっています。

 憲法審査会は、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する機関」です。憲法改正案をまとめ、発議に関する法案をまとめるところまで憲法審査会が担うことになるかもしれません。

 80%以上の議席を持つ「大連立」の下で憲法改正案をまとめられたら、大変なことになります。改憲勢力は勝てる見通しもないまま発議はしないと思いますが、80%以上の賛成で発議されたら、国民投票段階で潰そうと思っても難しい状況になります。

 各党の改憲案の危険な中身を学習し、批判活動を旺盛に進めるとともに、憲法調査会の動向にも十分注視しなければなりません。

改憲世論調査が再逆転──改憲派が多数に!

 私たちが注目しなければならない事実が、もう一つあります。読売新聞社をはじめとした各社の世論調査では、九条の会の活動の発展とともに数年前に憲法改正反対派が賛成派を上回り、逆転しました。

 ところが最近の読売新聞の世論調査では、改憲賛成派が再逆転して、反対派を上回っています(2011/9調査=賛成43%、反対39%。2012/3調査=賛成54%、反対30%)。

 これは重大な事態です。今こそ九条の会の存在意義が問われています。改憲勢力に「九条の会恐れるに足りず」と思われたら負けです。

 脱原発では、革命的とも思える新しい社会運動の波が起こっています。私たちも憲法9条、25条が生きる社会の実現をめざして、九条の会の活動を再度盛り上げていきましょう。

映画人九条の会/反戦名作映画連続上映第3弾 8・17映画「あゝ声なき友」上映会 ──今井正監督作品──

 反戦名作映画連続上映会の第3弾は、今井正監督の「あゝ声なき友」です。
 戦友たちの遺書をあずかって一人生還した男が、残りの人生を犠牲にして全国の遺族を訪れ歩く──。この訪問を通して戦争のもたらした悲劇が描かれます。
 原作は有馬頼義の「遺書配達人」。監督は日本映画を代表する巨匠の一人・今井正。そして主演は渥美清。見逃せない映画です。ぜひご鑑賞ください。

8・17映画「あゝ声なき友」上映会
日時
2012年 8月17日(金) 18:50挨拶、19:00上映開始
場所
東京・文京区民センター3A
東京都文京区本郷4-15-14 電話03-3814-6731
地下鉄丸の内線・南北線「後楽園駅」徒歩5分
都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩0分
参加費
1000円
主催&問い合わせ先
映画人九条の会

映画「陸軍」上映会、約100名の参加で大成功!

 6月8日、映画人九条の会が“反戦名作映画連続上映会”の第2弾として行った映画「陸軍」上映会は、約100名の参加で大成功しました。

 映画「陸軍」は、木下恵介監督が陸軍省の依頼で作った映画でしたが、さすが木下監督はこの映画を単なる「戦意高揚映画」にはせず、“反戦映画”と言っても良いぐらいの傑作映画に仕上げました。約10分間にわたる伝説のラストシーンは見ごたえがありました。

オリジナルアニメ映画が続くが、アニメ労働者の現状は──

 テレビアニメの映画版「ドラえもん のび太と奇跡の島」が36億2千万円、「名探偵コナン11人目のストライカー」が32億7千万円の興収を上げるなど、定番のアニメ映画は相変わらず好調ですが、今年は「ももへの手紙」「虹色ほたる」「グスコーブドリの伝記」「おおかみこどもの雪と雨」などオリジナル劇場アニメの公開が続いています。

 今年はオリジナル劇場アニメの当たり年となった感がありますが、オリジナルアニメはテレビアニメの劇場版に比べて認知度が低く、コア層も付いていないことから、興収的には苦戦しています。しかし、テレビシリーズやマンガ原作などに頼らないオリジナル作品に挑戦する姿勢は評価されており、良質なオリジナル作品がこれからも作られていくことが期待されます。

 一方で、制作現場の現状はまったく改善されていません。“クールジャパン”ともてはやされてきた日本のアニメーションですが、アニメーターの年収は100万円前後が当たり前で、厚生年金や雇用保険には9割近い人が加入しておらず、国内でのアニメーター育成は危機的状況になっています。

 このようなアニメ制作現場の劣悪な状況は、噂として世間にも漏れ伝わっていましたが、ついにある事件が裁判闘争となって表面化しました。本年2月、「名探偵コナン」などのアニメーション背景画を手掛ける(有)スタジオ・イースター(社員約80名)の社員3名が、職場改善を求めて杉並一般労働組合スタジオ・イースター分会を結成し、4月4日、不払い残業代、一方的賃下げ等の問題で東京地裁に提訴したのです。

 スタジオ・イースターはワンマン社長による前近代的な体質の会社で、「アニメ業界に残業代はという考えはない」と言って労働法や人権を無視する経営を行っています。

 3名の組合員は、自らが受けた「残業代不払い」「最低賃金法違反」「一方的な賃下げ」「退職強要」「安全配慮義務違反による労働災害」「パワーハラスメント」などの違法行為を法廷で暴き、スタジオ・イースターの経営姿勢を改めさせ、安心して働けるアニメ職場の実現をめざしています。

 6月13日にはスタジオ・イースター闘争支援共闘会議(議長・金丸研治/映演労連委員長)が結成されましたが、この闘いはアニメ制作現場の労働条件改善とアニメ労働者の社会的地位向上をめざす闘いであり、アニメ業界全体の問題です。注目したいと思います。

消費税増税は映画界に大打撃!

 野田政権が前のめりになって推し進めている消費税増税ですが、消費税が10%に引き上げられたら、映画産業は大変なことになります。

 映画界のほとんどの経営者は、増税分を入場料金に転嫁できないと言っています。収支ギリギリの映画館が大半ですから、消費税が増税されたらほとんどの映画館は経営が立ちいかなくなります。

 また、増税分製作費が増える状況にありませんから、映画制作の現場でも、制作費の大幅な削減やスタッフのギャラ削減などが横行するでしょう。消費税増税によって、映画界が大打撃を受けることは必至です。

【お薦め映画紹介】 「かぞくのくに」

羽渕 三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)

北朝鮮から25年ぶりに兄が家族のもとに帰ってきた──肉親の絆を容赦なく切り裂く国──

 1959年から1984年まで、20数年間にわたって「帰国運動」が行われた。当時、北朝鮮は“地上の楽園”として、韓国に比べ経済も発展していたと言われ、南の出身者をはじめ、いわゆる日本人妻といわれる人たちも、新潟港から北朝鮮に渡っていった。現在はどうか。「帰国」した人たちは日本への最帰国はほとんど許されていない。

兄の帰国から見えてくる北朝鮮の本質の断面

 在日朝鮮人のヤン・ヨンヒ女性監督は、自身の体験に基づきながら、フィクションのこの映画を作り上げた。北朝鮮の断面を知ることのできる貴重な映画と言ってよい。
 1997年の夏、北朝鮮に25年前の16歳の時、「帰国」した兄のソンホ(井浦新)が病気療養のため、3ヶ月間許されて日本の東京へ帰ってくる。
 出迎えたのは、妹のリエ(安藤サクラ)、父(津嘉山正種)、母(宮崎美子)たち。北朝鮮からは監視役のヤン同志もついてくる。
 ある夜の出来事。ソンホとリエが二人になった時、ソンホがある提案をもちかける。
 「指定された誰かに会って話した内容を報告する仕事をしないか」
 「それは工作員になれということ?」
 「あなたもあの国も大嫌い」とリエはきっぱりと拒絶する。それを陰で聞いていた父は翌日、「そんな提案の仕事はするな。病気治療に専念しろ」と忠告するが、ソンホは全身を震わせ「俺のことがわかるか」と苦悩をにじませながら絶叫する。
 ソンホの治療の方はどう進展するのか。「脳に悪性の腫瘍があり、生命も危険」と医師は診断。何とか手づるをいかして手術も決まるが、翌日ピョンヤンからの帰国の絶対命令。家族の絆を容赦なく切り裂く国・北朝鮮。
 ソンホはリエに「お前は自由に生きろ! どこの国へも行け」と心の中で叫びながら帰って行く。その後、家族はどうなるのか。ラストシーンである映像が映される。

8月4日(土)から全国で公開される。

【情報コーナー】

脱原発7・29国会包囲行動に
 毎週金曜日に10万人以上を集めて行われている脱原発首相官邸前抗議行動、17万人が結集した「7・16さようなら原発!10万人集会」に続き、7月29日(日)には「脱原発7・29国会包囲行動」が取り組まれます。
 15:30日比谷公園中幸門で集会開始、16:30デモ出発、19:00国会議事堂包囲(集会とキャンドル・チェーン)です。原発反対、再稼働反対の大声を、政治の中枢に突きつけましょう(雨天の場合は中止です)。
9月29日(土)、九条の会講演会
 九条の会主催の九条の会講演会が9月29日(土)13時(開場12時)〜16時、東京・日比谷公会堂で行われます。九条の会呼びかけ人の大江健三郎さん、奥平康弘さん、澤地久枝さんなどが講演する予定です。
 参加申し込み受付期間は8月15日〜9月14日です。申し込み開始までしばらくお待ち下さい。申し込み方法は8月10日号の九条の会メルマガで告知されます。定員に達した場合はその時点で締め切られます。参加費は前売り1000円、当日1500円。
 詳しくは九条の会事務局へ。電話 03-3221-5075

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