映画人九条の会Mail No.47

2012.4.11発行
映画人九条の会事務局

目次

今また改憲に向けた動きが活発化!

 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から1年と1ヶ月が経過しました。今なお進まない復興、事故の収束。根底にあるのは国民不在の政治の混迷と暴走ですが、その陰で改憲勢力による攻勢が非常に強まっています。

 野田内閣発足から間もない昨年10月、衆参両院において憲法審査会が始動しました。同審査会は2007年に安倍内閣が強引に成立させた改憲手続き法に設置が定められているものですが、同法が制定の過程や「附則」および18項目にものぼる附帯決議がつくなど重大な欠陥をもった法律であることから、以降4年以上にわたって始動できないでいました。しかし、政権交代に託した国民の期待を裏切り続ける民主党は、衆参両院のねじれ状態を招いていっそう自公両党へおもねる政権運営を推し進めた挙句、共産・社民両党の反対を押し切って審査会を始動させてしまいました。

 審査会では、特に自民党の委員を中心に、震災を引き合いにしながら日本国憲法に国家緊急権がないことが批判され、その必要性が強調されています。

 自然災害やテロリズムによる社会秩序の混乱その他の事態に対して、首相が緊急事態を宣言し、行政機関の長を指揮監督して国民の通信の自由、居住の自由、財産権などを制限すること、即ち「緊急事態」の名の下、首相及び国家機構に私たちの人権をたやすく奪い取る権限を与えることが目論まれているのです。

 また審査会は、憲法改正規定(国会議員の3分の2の賛成)を定めた96条の改正要件緩和を求める委員が過半数を占めています。日本国憲法が「硬定憲法」(安易に改正されないように定められた憲法)と呼ばれる根拠そのものをつき崩そうとする動きにも、大いに注視しなければなりません。

 さらに自民党は今年1月の党大会で、サンフランシスコ講和条約発効60周年にあたる本年4月28日までに、立党50周年の2005年に発表した「新憲法草案」を踏まえ、新しい憲法改正案を策定し、国会提出を目指すことを決議しました。

 2月24日に明らかとなった憲法改正原案の概要は──天皇を元首と位置づけ、国旗国歌は表象と明記する。緊急事態条項を創設する。憲法9条の「戦争放棄」は維持するが、自衛隊は自衛軍として明確に軍と位置づけ、集団的自衛権の行使を容認し、軍事裁判所の設置も盛り込む。さらに憲法改正発議要件「3分の2以上」を「2分の1以上」に緩和する。──といった内容です。自民党は平和憲法とは全く別物の憲法を新たに作り上げようとしているのです。

 大阪では地域政党「大阪維新の会」が中心となって、昨年6月府議会で、今年2月には大阪市議会で、教職員が国歌斉唱時の起立を義務付ける条例を成立させました。これらの条例は憲法19条が保障する内心の自由を侵害する内容です。同政党の代表を務める橋下大阪市長は、憲法9条の改正について2年かけて国民的議論をした上で国民投票を実施すべき、との考えを明らかにしているほか、「他人を助ける際に嫌なこと、危険なことはやらないという価値観。国民が九条を選ぶなら僕は別の所に住もうと思う」と述べたり、ツイッターで「……がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています」とつぶやいたりしています。

 安倍内閣が大暴走した2007年と同様、あるいはそれ以上の勢いで、今また改憲に向けた動きが活発化しています。私たちは大いなる危機感を持ってこうした動きと対峙し、撥ね退けるため、全国の九条の会の運動をいっそう大きく盛り上げて行かなくてはなりません。

映画人九条の会/反戦名作映画連続上映第2弾 6・8映画「陸軍」上映会 ──木下恵介監督作品──

★あの伝説のラストシーンをぜひ!

 映画「陸軍」は太平洋戦争中の1944年、木下恵介監督が陸軍省の依頼で大東亜戦争3周年を記念して作った映画です。いわば「戦意高揚映画」であり、「反戦映画」ではありません。

 しかし木下監督は、この映画をただの「戦意高揚映画」にはしませんでした。主演は田中絹代。完成した映画を観て陸軍将校が激怒したという、約10分間にわたる伝説のラストシーンをじっくりとご覧ください。

反戦名作映画連続上映第2弾 6・8映画「陸軍」上映会
日時
2012年6月8日(金) 18:50代表挨拶、19:00上映開始
場所
東京・文京区民センター2A
東京都文京区本郷4-15-14 電話03-3814-6731
地下鉄丸の内線・南北線「後楽園駅」徒歩5分
都営三田線・大江戸線「春日駅」徒歩0分
参加費
1000円
主催&問い合わせ先
映画人九条の会

★反戦名作映画連続上映第3弾は、今井正監督の「あゝ声なき友」 2012年8月17日(金)・予定

映画「沖縄」上映会、大成功!

 4月6日、映画人九条の会が“反戦名作映画連続上映会”の第1弾として行った映画「沖縄第一部」上映会は、約70名の参加で大成功しました。

 沖縄県民が戦後、いかにして米軍に自分たちの土地を奪い取られ、命まで奪い取られていったのか──映画「沖縄」は、それを迫力ある映像でリアルに描きました。怒りが画面からほとばしってくるようで、観るものを圧倒しました。映画「沖縄」はドラマとしても優れており、“反戦名作映画”の名に恥じない傑作でした。参加者には“反戦名作映画連続上映会”第2弾への期待も高まったようでした。

【お薦め映画紹介】 「オレンジと太陽」

高橋 邦夫(映画人九条の会事務局長)

13万人もの子供たちが英国政府によって強制的に“児童移民”させられていた。
“オレンジと太陽”の国へ──

 なんという凄い映画だろうか。ヨーロッパ映画はまた1本の名作を生んだ。ジム・ローチ監督の初監督作品「オレンジと太陽」である。

 イギリス政府は19世紀からごく最近の1970年まで、驚くべき数の施設の子供たちをオーストラリアなどへ“移民”していた。親にも知らせず、強制的に。映画「オレンジと太陽」は、このイギリス最大の国家的スキャンダル“児童移民”の真実を明らかにした実在の女性、マーガレット・ハンフリーズの物語である。

 マーガレット・ハンフリーズ(エミリー・ワトソン)は、イギリスのノッティンガムでソーシャルワーカーとして働いていた。ある日マーガレットは、見知らぬ女性に「私が誰なのか知りたい。幼い頃に、たくさんの子供たちと一緒に船でオーストラリアに送られたのよ」と訴えられた。自分が誰なのか、母親がどこにいるのかも判らない、と言う。

 子供だけがオーストラリアに送られたなどという話を信じられなかったマーガレットだが、ある集まりでも同じように「弟がオーストラリアに連れて行かれた」という話を聞く。

 調査を始めたマーガレットは、やがて強制的にオーストラリアに送られた子供たちが大勢いることを知った。そして、その児童移民がイギリス政府によって行われていたことも。

 マーガレットはオーストラリアに渡り、オーストラリアで子供たちを“保護”してきた慈善団体の集会に参加する。そこで大勢の人たちから家族を捜して、と頼まれた。

 親は死んだと騙されて船に乗せられ、“太陽が輝く美しい国で毎朝オレンジをもいで食べるんだ”と言われて連れて行かれた子供たちを待っていたのは、過酷な労働と虐待、性的暴行だったのだ。しかもその虐待には、慈善団体や教会までもが関わっていた。

 彼女の調査はしだいに大きな運動となっていったが、彼女への誹謗や脅迫行為も日増しに強まり、目隠しされた「市民」、歪められた「善意」が彼女を痛めつける──。

 名匠ケン・ローチ監督の息子でこれが監督一作目であるジム・ローチ監督は、この胸の張り裂けそうな実話を声高に告発するのではなく、Who am I ?(私は誰?)の問いかけに向き合い、節度をもった静かな語り口で描いて見せる。

 マーガレット・ハンフリーズを演ずるのは、「戦火の馬」でも話題の演技派女優エミリー・ワトソンだ。脅迫や中傷に傷つきながらも信念を貫いたマーガレットという女性を見事に演じきった。児童移民の一人であるレン(デイヴィット・ウェナム)とマーガレットの関係も深く、刺激的で、観る者をドラマ世界に強く引き込む。

 恥知らずで忌まわしい児童移民の国家事業は、1970年まで続いていた。児童移民の数は、なんと13万人を越えるという。

 この映画の撮影中だった2009年11月16日、オーストラリアのケヴィン・ラッド首相は“忘れ去られた子供たち”に正式に謝罪し、2010年2月24日にはイギリスのゴードン・ブラウン首相が児童移民の事実を認めて正式に謝罪したが、オーストラリアがイギリスからの児童移民を促進した背景には、太平洋戦争中、日本軍がオーストラリア各地を攻撃したことによって、アジアからの防護が叫ばれたことがあったのだという。この事件は、我々日本人にとって無関係ではなかったのだ。

 「オレンジと太陽」は、4月14日から東京・岩波ホールでロードショー公開され、順次全国で公開される予定だ。しかし公開が予定されている劇場の数は少ない。この映画がまず東京でヒットし、全国各地の映画館で上映され、多くの映画ファンにこの映画を見る機会が与えられることを、私は切に願う。

【お薦め映画紹介】 「わが母の記」

梯 俊明(映画人九条の会運営委員)

井上靖の自伝的小説の映画化

 原作は故・井上靖氏の自伝小説。昭和30年から40年後半にかけて人気作家である主人公と、老いる母を中心に家族を描く。伊豆・湯ヶ島をはじめ、昭和の趣を画面いっぱいに映し出した映像美が印象的。昭和を題材にした映画はとかくCGを多用するがために興ざめする作品が多いが、淡々とした自然な描写がむしろ新鮮さを与えてくれる。

 裕福な生活をバックグラウンドにしつつも、時に大声で娘たちを叱りつける極めて厳格な家長の主人公や、痴呆の進む年老いた母親を抱える様は、どこにでもあり得る家族の姿に通ずる。しかし映画では、老いの深刻さを保ちつつ要所にコミカルなシーンをちりばめ、うわべだけのお涙ドラマと一線を画した。

 幼少期からの母へのわだかまり、そして自らの厳格さによってぎくしゃくする娘たちとの関係。その刺々しさが、母の痴呆の進行という時間経過を使いながら、次第に丸みを帯びて行く主人公と家族の在り方が暖かく心に沁みる。

 母でもありお婆ちゃん役を演じた樹木希林さんの独特の味も忘れられない。天才とはこういう人のことも指すのでしょう。

 監督・脚本は原田眞人、出演は役所広司、樹木希林、宮アあおい他。4月28日全国ロードショー。

【情報コーナー】

5・3憲法集会&銀座パレード
 今年も5月3日(木)に「5・3憲法集会&銀座パレード」が行われます。今年のスローガンは「輝け9条、生かそう憲法、平和とくらしに、被災地に」。スピーチは伊波洋一さん(元宜野湾市長)、小山内美江子さん(脚本家)、志位和夫さん(日本共産党委員長)、福島みずほさん(社民党党首)。福島県の被災者からも発言があります。またサックス演奏は中川美保さんです。
 憲法集会は5月3日(木)13:00から東京・日比谷公会堂。11:00より入場整理券が配布されます。銀座パレードは15:30出発です。
5月19日、第26回憲法フェスティバル
 5月19日(土)には、第26回憲法フェスティバルが行われます。今年のテーマは「いま、このとき!」。出演は、「千の風になって」で有名な作家・作詞作曲家の新井満さん、制服向上委員会、女性噺家の古今亭千代菊さんなどです。
 5月19日(土)12:30開演。場所は東京都港区虎ノ門のニッショーホール(地下鉄銀座線虎ノ門下車徒歩5分など)。参加費は前売券が2000円、当日券が2500円です。憲法フェスティバル実行委員会 TEL 03-5211-0997までお問い合わせください。
6月9日、九条の会発足8周年学習会「9条をめぐる動きは、いま」
 九条の会は6月9日(土)、8周年を記念して「9条をめぐる動きは、いま」と題する情勢学習会を行います。講演は「9条をめぐる動きと憲法解釈」が明治大学・浦田一郎教授、「9条、『同盟』、沖縄の相関」が法政大学等非常勤講師・明田川融氏。
 日時は6月9日(土)13:30〜16:30、場所は韓国YMCA地下ホール(東京都千代田区猿楽町2-5-5/JR水道橋駅より徒歩10分)、参加費1000円。予約は不要です。

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