映画人九条の会Mail No.43

2011.4.6発行
映画人九条の会事務局

目次

救援と復興に総力を! 東日本大震災被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。

 3月11日、マグニチュード9.0という巨大大地震と大津波が東北地方から関東各地を襲いました。太平洋岸の町々は津波に飲み込まれて壊滅的な状態となり、死者・行方不明者は3万人に迫っています。まさに想像を絶する大災害です。
 さらに福島第一原子力発電所では数機の原子炉が損壊し、炉心溶融という非常事態を引き起こして、甚大な放射線被害が拡大しています。
 東北、関東地方の九条の会関係者も少なからぬ方々が被害にあわれたのではないかと推察し、心を痛めております。
 映画人九条の会は、被災者の皆様に心からお見舞いを申し上げるとともに、犠牲になられた方々とご遺族に対し、お悔やみを申し上げます。そして被災者救助や災害対策に全力を尽くしている関係者の方々に心から敬意を表します。
 私たちは今こそ基本的人権、生存権など憲法の諸原則に則って救援と復興に総力を挙げるべきだと考えます。「映画人九条の会」もその立場で、微力ながら力を尽くしたいと思います。

 この東日本大震災は、映画界にも大きな被害と打撃を与えています。東北や関東の少なからぬ映画館が被災し、休館を余儀なくされています。上映を取りやめたり延期した映画も数多く、3月11日以降の映画観客数は全国的に激減しています。
 また映画製作への企業の出資が止まり、製作中止や製作本数の減少が起こり始めています。夏場の「計画停電」によっては、映画館の営業は大きな支障を来たすでしょう。
 このような状況が続けば、映画各社の経営は急速に悪化し、中小プロダクションや配給会社、興行会社の連鎖的な倒産さえ予測されます。日本映画界はかつてない危機に直面していると言っても過言ではありません。被災者の救援や被災地の復興とともに、映画文化を守る手立ても必要になっています。

 巨大地震や大津波の被害とともに深刻なのが、福島第一原発の事故です。東京電力や原子力安全・保安院、官房長官などが連日テレビの記者会見に出て事態を報告していますが、情報は錯そうし、遅れ、重要な情報は国民に届いていません。
 また原子力関係の「学者」や「ジャーナリスト」などが「チェルノブイリのような事態には至っていない」「放射線の拡散は直ちに人体に影響はない」などを繰り返していますが、事態はどんどん悪化し、放射線被害も拡大する一方です。菅首相自身、「原発事故の収束について見通しを言える状況にない」と述べざるを得ない事態です。
 私たちは、福島第一原発の危機収束に総力を挙げて取り組むよう強く訴えるとともに、事態の正確な報告、正しい情報の的確な開示、危機収束の戦略と見通しなどの説明を求めるものです。そして原発の「安全神話」と決別し、原子力政策とエネルギー政策の抜本的な転換、原発の総点検、東海地震の想定震源域の真上にある浜岡原発や老朽化した原発の即時停止、原発の新増設の中止などを求めたいと思います。この実現に向けて国民的な大運動を起こしましょう。

高畑勲監督の初監督長編アニメーション映画 「太陽の王子ホルスの大冒険」
5・17上映会にご参加を!
★高畑監督も参加し、「ホルス」にかけた想いを語ります!

──日本アニメーションの転換点となった記念碑的作品!──

 映画人九条の会は5月17日(火)夜、ついに長編アニメーション映画「太陽の王子ホルスの大冒険」の上映会を行います。この映画「太陽の王子ホルスの大冒険」は1968年に東映動画で作られた、日本アニメーションの転換点となった記念碑的な作品であり、高畑勲監督の初長編アニメーション監督作品です。
 この映画は、子ども向けの楽しいだけのアニメとは異なり、映画には製作当時のベトナム戦争が影を落とし、人間たちの不和、ヒロインの迷いと苦しみ、働くものの連帯の素晴らしさなどが描かれています。またオオカミとの格闘シーンや巨大カワマスとの格闘シーンなどは、驚くほど躍動感にあふれていて惹きつけられます。
 この映画には、作画監督として大塚康生さん、場面設計・美術設計が宮崎駿さん、原画には森康二さん、小田部羊一さんなど日本のアニメーションの歴史を支えてきた人たちが一堂に会しています。まさに今に繋がる日本アニメーションの原点のような映画です。
 上映会には高畑監督も参加され、上映の前後で「ホルス」製作当時の想いなどを語っていただきます。皆さん、ぜひご参加ください!

「太陽の王子ホルスの大冒険」 5・17上映会
(35ミリプリント上映/シネスコ/82分/1968年東映動画)
日時
5月17日(火)18:50より
場所
東京・松竹試写室
地下鉄東銀座駅下車6番出口、東劇ビル(松竹本社)3階
参加費
1000円
但し試写室が狭いため、90名限定予約制です。事前に必ず映画人九条の会にお申し込みください。
主催
映画人九条の会・松竹労組

【お薦め映画紹介】
モノクロームの美しい映像が描く、老いた女性の人生最後の日々── 「木洩れ日の家で」

高橋邦夫(映画人九条の会事務局長)

 私は長年、映画の製作現場と映画の労働運動に身を置いてきた人間だが、なぜか最近観る映画で感動することが少なくなった。テレビ局が大宣伝する映画ほど底の浅さを感じてしまう。だがこの映画「木洩れ日の家で」は違った。久しぶりに出逢ったモノクロームの映画で、その瑞々しい映像が描き出す91歳の老女の、人生最後の美しくも切ない日々が私の胸を打った。

 ポーランドの首都、ワルシャワ郊外の木々に包まれた古い木造の家。木洩れ日がやわらかく美しい。映画は、その家で愛犬フィラと静かに暮らす老女アニェラの晩年の日々を描くのだが、出だしのシーンがまず秀逸だ。
 医者に行ったアニェラは、「裸になって横になれ」と言う女医の言葉に腹を立て、誰があんたになんか診てもらうかと帰ってしまう。女医の横柄な態度への憤懣や、車が多く歩きづらい町への愚痴を語り続けるアニェラの顔を、カメラはずっとクローズアップで捉える。アニェラの老女としての誇りや苛立ち、人生への姿勢、そして美しさまでが、この冒頭のシーンだけで観るものに染み透ってくる。うまい。
  アニェラの日課は、二階の窓ガラス越しに木洩れ日の庭を眺めることや、古い双眼鏡で両隣の家を「観察」することだ。左の家は成金の愛人宅のようで、右の家は若い夫婦が開いている子供たちの音楽クラブだ。楽器の音や子供たちの声が騒がしい。窓ガラス越しに外を眺めたり、双眼鏡で「観察」していると、ふとした瞬間に昔の思い出が蘇る。一人息子ヴィトゥシュの可愛い少年時代や、自分の美しい娘時代のこと──。窓ガラスの歪みとともに、思い出も幻想のように美しく歪む。

 私はポーランドという国のことをほとんど知らない。戦後、ソ連の影響下に置かれ、「社会主義」国となって東側陣営に組み込まれたとか、1980年頃に自主管理労組「連帯」が出来てその委員長がワレサ氏だったとか、民主化が進んでそのワレサ氏がのちに大統領となったことぐらいしか知らない。
 この映画の中では、「社会主義」時代に政府から強制された間借り人がようやく家を出て行ったことなどが語られ、そうした時代の残滓が映画に影を落としている。息子夫婦や孫娘も、アニェラと一緒に住もうとしない。8歳の太った孫娘は、「この家を修復するよりも燃やしちゃえば?」と言い放つ。世代間の断絶や確執がアニェラを悩ませ、苛立ちと虚しさ、そして寂しさを募らせている。
 ある日、隣りの成金宅の使いの不動産屋風の男が、アニェラの家を売ってくれと言ってくる。このボロ屋を破格の値段で買い取ってやるというのだ。アニェラは愛犬フィラをけしかけて男を追い出すのだが、その後も売却を迫る電話が執拗にかかってくる。
  そんなある夜、フィラの吠える声で目を覚ましたアニェラは、ショッキングな出来事を目撃する。あまりのショックで生きることが嫌になったアニェラは、自ら命を断とうとまでするのだが、彼女の誇りと性格がそれを許さない。思い直したアニェラは、ある決断をする。それは、アニェラの91年の人生の誇りを賭けた決断であり、未来への希望に繋がる行動だった。
 アニェラは、庭のブランコに乗りながら「フィラ、あなたの飼い主はイカレちゃったわよ!」と嬉しそうに叫ぶ。その輝きに満ちた笑顔がまるでいたずらっ子のようで、可愛くて、少し怖い。

 この映画は、「感動」を仕掛けて観客の涙を誘うことを狙った映画ではない。抑制が効いて、理性的な映画である。その分、観るものの胸にジワジワと沁みてくる。
 監督・脚本は、気鋭の女性監督ドロタ・ケンジェジャフスカ。そして主人公アニェラを演じるのは、ポーランドの伝説的な名女優ダヌク・シャフラルスカである。ドロタ監督は、彼女のためにこの映画のシナリオを書き上げたのだという。
 またモノクロームの美しい映像を作り上げたカメラマンは、ドロタ監督の夫で、この映画のプロデューサーも手掛けたアルトゥル・ラインハルト。ヨーロッパ最高のカメラマンの一人、と呼ばれているらしい。
 映画「木洩れ日の家で」は2007年のポーランド映画で、2007年のグディニャ・ポーランド映画祭で主演女優賞・録音賞・観客賞・批評家賞を受賞したのをはじめ、多くの映画祭で数々の賞を獲得している。当然だと思うが、私は愛犬フィラの名演技に助演女優賞をあげたい(役では雌犬だが、演じた犬は牡だったらしいので、助演男優賞か)。
 日本では、ようやく今年4月16日から東京・岩波ホールでロードショー公開される。岩波ホールの客層の多くは中高年であり、この映画はいわば「老人映画」でもあるから、観客はやはり中高年中心になると思うが、この映画を中高年だけのものにするのはもったいない。映画好きの若者にはぜひ観てもらいたい映画だ。

(「学習の友」2011年4月号から転載)

【情報コーナー】

5月3日(火)に「5・3憲法集会&銀座パレード」
 今年も5月3日(火)13時30分(12時30分開場)から、東京・日比谷公会堂で「5・3憲法集会」が行われます。今年のスピーチは三宅晶子さん(千葉大教授)、伊藤千尋さん(ジャーナリスト)、福島みずほさん(社民党党首)、志位和夫さん(共産党委員長)、音楽は「寿」。集会後は銀座パレードです。ぜひ参加しましょう。
5月28日(土)には、「第25回憲法フェスティバル」。新藤兼人監督の最新作「一枚のハガキ」も上映!
 5月28日(土)には、13時30分(13時開場)から、東京・日本教育会館(一ツ橋ホール)で「第25回憲法フェスティバル」が行われます。講演は作家の早乙女勝元さん。
 そして、第1回フェスティバルに木下恵介監督が寄せた言葉──「せめて、せめてです。せめて吾々が平和憲法を守りぬかなければ、愚かな戦争で死んだ人たちの魂は安らかに眠れません。それが誓いであり、手向けです」に、映画「沈まぬ太陽」の音楽監督・住友紀人さんが曲をつけ、高瀬麻里子さんが歌う「25周年記念曲」が発表されます。
 また新藤兼人監督の今夏公開予定の最新作「一枚のハガキ」が、公開前特別試写会として上映されます。
 参加券は前売2,200円、当日2,700円。申し込みは「憲法フェスティバル実行委員会」へ。電話・FAX 03-5211-0936。
6月4日(土)には、「九条の会講演会」
 今年も「九条の会講演会」が6月4日(土)午後、東京・日比谷公会堂で行われます。詳細はまだ未定です。

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