映画人九条の会Mail No.42

2011.1.28発行
映画人九条の会事務局

目次

あまりに露骨な財・米べったり!あぶない菅政権

 2011年が始まってすでに1ヶ月が経とうとしていますが、映画人九条の会の皆さま、今年もよろしくお願い申し上げます。
 ねじれ国会の打開と内閣の延命、支持率アップなどを狙って1月14日、菅首相は2度目の内閣改造を行いました。その菅再改造内閣、財界とアメリカべったりの姿勢を露わにし、消費税増税とTPP(環太平洋連携協定)参加に向けてまっしぐらに突き進んでいます。

 菅再改造内閣の目玉は、「たちあがれ日本」から与謝野薫氏を引き抜いて経済財政担当大臣に据えたことです。与謝野氏は麻生内閣時代の財務大臣で、自民党の比例区で当選したのに「たちあがれ日本」に移った人で、消費税増税論者として有名です。与謝野氏は早速、これまた消費税増税論者の藤井裕久副官房長官(元財務相)とともに消費税増税に向けて動いています。
 しかし菅政権は、昨年の参院選で消費税増税を口にして惨敗し、消費税増税を先送りしたのではなかったか。いつからまた消費税増税の急進内閣になったのでしょう。その原因は、消費税の大幅増税を目論む財界の強い意向によるものだと言われています。
 大体、トヨタ、日産、ソニー、キャノンなど輸出を中心とする大企業は、消費税を負担しないどころか、国から「輸出戻り税」を貰っているのです。2009年の調査では、上位10社だけで消費税の還付金は8014億円に達しています(税理士・元静岡大学教授の湖東京至さんの推算)。トヨタや日産の本社がある豊田税務署や神奈川税務署などでは、消費税還付金が消費税収を上回っています。
 消費税は元々その逆進性が問題となっている税制ですが、現在の消費税は制度としても欠陥だらけです。その消費税の大幅増税を声高に叫ぶ財界の言いなりになって増税に突き進むとは、あまりに国民不在です。
 「消費税増税は財政改革のため」という主張もありますが、「政治とカネ」の問題も解決できず、軍事費など政治の在り方を根本的に見直すことをしないでバラマキ政策ばかりやるような内閣では、消費税を増税したところで財政の立て直しが進むとは思えません。いや、その前に国民生活が崩壊しかねません。

 TPP参加も同様です。TPP参加で潤うのは輸出大企業。日本の農業やその関連産業は崩壊し、食料自給率は14%に低下します。これも財界の意向を受けてのことですが、前原外相はTPP参加を「日米同盟のため」と言い切っています。それもそのはず、環太平洋連携協定とは名ばかりで、TPP交渉参加国のGDPによるシェアを見てみると、アメリカが7割、日本が2割です。肝心の中国や韓国などは参加していません。TPP参加は、まさに財界とアメリカのためであり、「関税自主権を失った日本は内側から滅びる」と警告する学者もいます。

 また菅政権は昨年末、新「防衛計画の大綱」を発表しましたが、その内容は自民党政権でさえ出来なかった日米軍事同盟の強化と軍拡の連鎖を進めるものになっています。新「防衛大綱」は、北朝鮮や中国の脅威をあおりたて、「専守防衛」すら投げ捨てて「動的防衛力」へと即戦体制を強めようとしています。「武器輸出三原則」についても、国際共同開発・生産に参加する方策を「検討する」と述べています。
 また集団自衛権の行使、周辺事態法の改正、海外派兵恒久法の制定も狙っています。これらはアメリカ追随そのものであり、憲法9条をないがしろにし、日本国民の平和への願いと逆行するものです。
 さらに菅政権は衆参両院の比例定数削減も推し進めようとしていますが、それは民意の切り捨て、護憲政党の排除となり、容易に改憲へとつながります。

 こうした菅政権の行き着く先は、どこでしょうか。驚いたことに最近の大手メディアは、スクラムを組んで菅政権に消費税増税とTPP参加を迫る始末です。でも東京新聞や地方紙は菅政権批判を強めています。私たち国民の生活が壊され、平和が壊される前に、「あぶない菅政権」に、マスコミも無視できない大きな国民の声をぶつける必要があります。今年一年、皆さまとともに頑張りましょう。

映画人九条の会運営委員一同

「映画人九条の会6周年の集い」成功!──山田朗先生の講演録が小冊子に──

 昨年12月3日、東京・文京シビックセンターで行われた「映画人九条の会6周年の集い」は、情勢にマッチした内容で成功しました。

 集いは代表委員である高畑勲監督のあいさつで始まり、明治大学教授の山田朗先生が「民主党政権の危ない防衛政策と憲法」をテーマに1時間の記念講演を行いました。

 山田先生は「民主党の防衛政策は自民党の防衛政策を継承しており、基本的な骨組みは変わっていない」と主張、「軍需産業の要求が露骨になり、武器輸出三原則そのものが変えられようとしている」「武器輸出三原則の最後の拠り所は憲法である」と訴え、参加者に軍拡の連鎖を断ち切ることの重要性を教えてくれました。

 この山田朗先生の講演録が小冊子になりました。ニュース郵送会員には同封し、メール配信の会員には本ニュースとともに添付いたしました。メール配信会員で小冊子の実物が欲しい方は、送り先をご連絡ください。会員は無料ですが、会員外には1部300円です。

●日本映画産業の状況 興行収入は2年連続で2000億円を超えたが

 日本映画製作者連盟(映連)が1月27日に発表した2010年の全国映画概況によると、興行収入は2年連続で2,000億円を超えて2,207億3,700百万円(前年比107.1%)となりました。公開された映画は合計716本(邦画408本、洋画308本)、観客動員数は合計1億7,435万8千人(前年比103.0%)です。

 これは米メジャーの3D映画のメガヒットが続いた結果だと言われていますが、邦画と洋画の興収比率は邦画53.6%、洋画46.4%となっており、邦洋逆転には至っていません。

 興行収入だけを見ると日本映画界は好調に見えますが、映画産業全体は構造的危機に陥ったまま、数年にわたりもがき続けています。日本の映画産業は、興行収入よりも大きいDVD市場を核とした二次利用の収益で支えられていますが、このDVDマーケットが2004年以降大幅に売上をダウンさせ続けており、インディペンデントの映画会社は特に厳しい状況に立たされています。

 興行会社も厳しい状況が続いています。2010年の全国の総スクリーン数は3,412で、1スクリーン当たりの興収は6,469万円に落ち込んでいます(2004年/7,466万円)。こうした収益性の低下に加えて、シネコンの地代の高さ、進出後も続く過当競争、より立地条件のいい後発シネコン出現による収益の急激な悪化、デジタルシネマ化によるコスト増、築年数による設備改善の必要などが経営を圧迫しています。

 松竹の100%子会社である松竹マルチプレックスシアターズ(SMT)は経営不振にあり、松竹は映画興行部門を分割して、SMTに吸収合併することを発表しています。

 一時期はブームとまで言われたミニシアター系劇場も、インディペンデント映画会社の凋落にあわせて劇場数を大きく減らしています。

 映画制作の現場の歪みも大きくなっています。公開本数だけは、2009年448本に対して2010年408本と400本台を維持していますが、製作途中で資金繰りに行き詰まり公開出来なくなるケースや、製作費の極端なダウンから現場スタッフの生活が圧迫され、才能あるスタッフが映画界を去っていくといった悪循環も起こっています。DVD市場の低迷など二次利用収益の後退が映画製作現場を危機に陥れているのです。日本の映画文化を守るためには、公的助成のいっそうの充実が必要です。またデジタルシネマ化は、フィルム現像を事業の核としてきた現像所の経営を直撃しています。

 映画会社の最大手である東宝は高収益を維持し、2010年度は一社で興行収入748億を上げました。邦画マーケットだけでいうと、東宝一社で50%を優に超えるシェアというのは、一社寡占化を意味しています。TOHOシネマズは入場料金を1,500円に引き下げる(レディースディの廃止やシニア割引の65歳引き上げを含む)ことを試験的に始めると発表しましたが、その是非は別にして、寡占的な力があるからできることでしょう。

 昨年の特徴は3Dの大作が多く公開されたことです。邦洋合わせた興収上位10本のうち、3D映画は6本にもなっています。米メジャーは完全に3D映画へ制作体制をシフトさせていますが、資本力に劣る日本映画界は果たしてこの流れについていくことが出来るかどうか疑問です。3Dを家庭で視聴する状況はまだ少なく、3D映画はDVD市場の凋落を止められません。日本市場における3D映画の伸長によって、邦画はかえって後退を余儀なくされるおそれもあります。

 日本は、国民1人あたりの映画視聴数が年約1.3本と、先進国の中でも極端に低い国です。二次利用のマーケットが総崩れになる中、それでもなんとか数字を維持しているのは一次利用の劇場上映だけです。ここを伸長させる以外に、産業構造自体が壊れかかっている映画産業を回復させる手だてはないと思われますが、テレビ局とのタイアップ・イベントと化している今の日本映画の在り様では、それも難しいかもしれません。多様な映画文化を多様な映画会社が担い、それが持続できる状況をいかにして作り出すかが、日本映画界の大きな課題です。

(映演労連2011年春闘方針書より抜粋)

【羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)のお薦め映画紹介・1】 「サラエボ,希望の街角」

社会の大きな変化の中で、若い女性が選択した人生とは──

 スクリーンに映像が映し出されると、間もなくルナ(女性/ズリンカ・ツヴィテシッチ)とアマル(男性/レオン・ルチェフ)の若い男女の濃厚で激しいセックスシーンが登場する。二人は仲睦まじく、子どもが授かることを切に望んでいる。翌朝、サラエボの街が覗ける古いマンションの二階のベランダで、二人は協同して洗濯物を干している。同棲生活をしていることがわかる。

 二人には悩みがある。もう二年間も同棲生活をしているのに、ルナが妊娠しないこと。病院で調べてみると、アマルの方に「活発な精子が少ないことだ」と告げられる。女性の医師は「人工授精で、きっと成功する」と励まし、ルナは自ら注射で人工授精の努力をはじめる。

 ボスニア紛争が終わって、2010年12月で15年目を迎える。かつてのサラエボは美しい古都で、異なる民族と宗教が共存する寛容さのある街であった。ところが紛争後、イスラム教徒が人口の大半を占め、イスラム教が規律を厳格にし、市民生活に大きな変化を作りだしている。このことは二人の関係にも影響を与える。

 ルナの職業は航空機の客室乗務員。アマルは失業中。アマルがイスラム原理主義に傾倒するようになり、二人の間に溝と亀裂が生まれる。あれだけ愛し合っていたルナとの性交渉に、アマルが背を向け拒絶するようになる。理由は「婚前交渉は犯罪だ」「婚前交渉は禁止だ」というのだ。さらにイスラム教のモスクでの若いカップルの結婚式。指導者は女性に二人の夫を持つように強要する。ルナは「それは人権蹂躙、法律違反だ」と強く抗議する。アマルは「宗教が上だ」と言い返す。

 最後の場面、サラエボの街角。しばらく別居していたルナとアマルが立って話し合っている。ルナは幾度となく自問自答しながら、苦しんだ結果、アマルとの関係に結論を出す。

 ルナはどういう選択と決断を出したのか。女性監督のヤスミラ・ジュバニッチは、若い女性のルナの生き方を通して、サラエボの希望と未来を鋭く描き出している。

 この作品は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、オーストリア、ドイツ、クロアチア合作映画。2月19日(土)より東京・岩波ホールから順次全国公開される。

【羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)のお薦め映画紹介・2】 「学校を作ろう」

兵法ではなく、経済、法律で日本の国作りを

 今日、NHKドラマ「坂の上の雲」では、幕末から明治への時代、日清、日露戦争の賛美と陸軍、海軍のエリート軍人らの英雄化を描いているが、他方、「学校を作ろう」の、この映画の方は、知力(経済、法律)で新しい日本作りをしようとした、前者と同じ時代の若き青年たちを描いている。

 つまり、日本で最初の法律と経済の専修学校(現在の専修大学)を作った四人の若者たちである。リーダーは彦根藩の留学生としてアメリカに渡り、コロンビア大学で法学を学び、エール大学で経済を学んだ相馬永胤(三浦貴大)。あとの三人はエール大学で経済学を修め、日本最初の法学博士となった田尻稲次郎(池上リョヲマ)、ハーバード大学を卒業した目賀田種太郎(橋本一郎)、そして経済学を学んだ駒井重格(柄本時生)。

 相馬ら四人はその時代、日本からのアメリカ留学生として、ニューヨークなどで交流し、当時の日本社会の現状が、法学、経済学を求めていることを背景に、日本で「日本人のより多くの人たちが、法学を学べるように専修学校を作ろう」と決意し、それを実行に移す。

 1879年(明治12年)8月、田尻と駒井が帰国する。相馬と目賀田は9月に日本へ帰国。その後、銀座煉瓦街の「二階建て」を拠点として、「専修学校」設立の準備が進む。学校開校前にも、慶応義塾の福沢諭吉の支援で、夜間の授業に取り組む。

 京橋区木挽町に校舎が見つかり、新聞に生徒募集の広告を出す。そして1880年(明治13年)9月16日、開校入学式が行われる。 この作品は歴史的事実について、精査して映画作りが行われている。専修大学創立130周年記念映画。監督は神山征二郎。2月19日(土)から全国上映される。

【情報コーナー】

6月4日(土)に 「九条の会講演会」を予定
今年も「九条の会講演会」が6月4日(土)午後、東京・日比谷公会堂で行われます。詳細は未定。

映画人九条の会事務局
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