映画人九条の会Mail No.39

2010.04.16発行
映画人九条の会事務局

「九条の会」呼びかけ人の一人である井上ひさしさんが4月9日、死去されました。残念です。心から哀悼の意を表します。

目次

改憲手続き法の5月18日施行に反対!

 改憲手続き法の成立時に付けられた「3つの付則」と「18の付帯決議」が求める法整備などがまったく行われないまま、民主党政権は改憲手続き法の5月18日施行を進めています。

 「満18歳以上」とした投票年齢の問題は、「法整備が施行に間に合わなかった場合、満20歳以上とする」という付則の読み替え規定を使ってそのままにし、国民投票に際して公務員の意見表明が制限されないように公務員法上の政治活動禁止規定に「検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」(付則)ことは、放置したままです。

 付帯決議で指摘された「最低投票率制度の検討」「テレビ・ラジオの有料広告規制の検討」なども、まったく検討されていません。しかしそれでも総務省は、民主党自身が反対した改憲手続き法の5月18日施行を進めているのです。これはどうしたことでしょうか。

 与謝野馨元財務相や平沼赳夫元経済産業相らが4月10日に結成した新党「たちあがれ日本」は、改憲(自主憲法制定)と増税を党の基本方針にしています。改憲勢力は改憲を諦めていないのです。改憲勢力は、改憲手続き法の施行をきっかけに活動を復活させようと狙っています。

 私たちの運動で、必要な法整備も進まない欠陥・改憲手続き法を凍結・廃止させましょう。

(なお、総務省は改憲手続き法施行令案等へのパブリックコメントを求めています。期限は4月25日。意見を集中しましょう。詳しくは「日本国憲法の改正手続に関する法律施行令案等に対する意見の募集」でネット検索してください。)

成功した「どうする?改憲手続き法学習集会」

 映画人九条の会と映演労連が共同で2月16日に開催した「どうする?改憲手続き法学習集会」は、会場の東京・文京シビックセンター区民会議室をいっぱいにする40名の参加で成功しました。

 講師は、改憲手続き法阻止の先頭に立って闘ってこられた自由法曹団の田中隆弁護士。

 しゃにむに明文改憲を推し進めようとした安倍政権によって2007年の暴走国会で強行採決された改憲手続き法は、当初から国民各層の激しい批判を浴び、「3つの附則」と「18項目の付帯決議」が付けられた欠陥法律でした。

 田中弁護士は、「この3つの附則と18の付帯決議の実行は、改憲手続き法を施行するうえで乗り越えなければならないハードルだ」とし、民主党政権に代わってもそのほとんどが実行されていない状況を指摘しつつ、「闘いはまだ終わっていない」と語りました。

 また田中弁護士は、民主党が「国会改革」「比例定数の大幅削減」を進めようとしていることにも触れ、「議会制民主主義の死滅につながる」と語りました。

 非常に内容の濃い学習集会となりました。このような学習会が全国で行われる必要があることを痛感しました。

「憲法を活かす活動を具体化しよう!」

──4・4九条の会関東ブロック交流集会の報告──

 4月4日(日)午前10時から、東京都港区芝公園の正則高校で「九条の会の関東ブロック交流集会」が行われました。これには東京、千葉、埼玉、神奈川、山梨、栃木、茨城、群馬で活動する「九条の会」の代表450人が参加しました。

 午前中は9つの代表的な地域、高校生、大学生の「九条の会」から活動報告がありました。「九条の会千葉地方議員ネット」の代表は、「九条を守る一点で地方議員のネットワークを作ろう」と呼びかけ、現在議員ネットの会員数は147名になって、千葉県下の地方議員数1004名の15%を占めていることを報告しました。また5月のNPT(核不拡散条約)会議に向けて核兵器廃絶署名に取り組む高校生の発言、首都圏50大学で「九条の会」を作る活動を進めている大学生の発言が続きました。

 午後からは11分散会と、職場と青年の分科会が行われました。今回の関東ブロック交流集会の特色の一つは、発言者に対する参加者の質問の時間が設けられたことです。第6分散会では、集めた署名をどうするかが集中的に討論されました。方向としては国会議員に、とりわけ地元の議員、特別に憲法にかかわる役職を持っている議員に対して署名を集中し、九条を守り、生かすことの重要性を訴えることが強調されました。そのほかには、相互に学習会などの講師の情報交換が行われました。

 全体会では、九条の会小森事務局長が、2004年の九条の会の立ち上げから現在までの情勢と経過を語り、全国各地の九条の会が、安倍元内閣をはじめとする改憲勢力を追いつめ、運動の広がりの中で改憲世論を逆転させたことを強調しました。また小森事務局長は故加藤周一氏の言葉を引用し、「九条を守る運動から九条を生かす運動」の中で、それぞれの地域でそれぞれの世代が多様な運動を広げ、日常生活におけるすべての問題を九条の会の運動につなげて行くことの重要性を提起しました。

憲法改正「賛成」減少し、「反対」と拮抗

 読売新聞社が3月27、28日に行った憲法に関する世論調査によると、「憲法改正賛成」が昨年の52%から大きく減少して43%となり、「改正反対」は42%でした。

 改正賛成派は、民主支持層で42%(昨年53%)、自民支持層でも41%(同54%)にとどまり、ともに反対派を下回っています。

 9条についても、「解釈や運用で対応するのは限界なので改正する」が32%(昨年38%)に減少し、「これまで通り解釈や運用で対応する」が44%(同33%)と上回りました。

九条のある国で、米軍基地が拡大!? 普天間基地は無条件撤去を!

 迷走を続けている普天間基地の移転問題ですが、政府案はキャンプ・シュワブ陸上案に加え、沖縄県うるま市の与勝沖に新基地を建設するか、鹿児島県・徳之島に移設し、普天間基地機能も当分は維持していくという案に固まりつつある、と報道されています。

 これでは米軍基地がさらに拡大・強化されることになります。憲法九条のある国で、なぜこんなことが進もうとしているのでしょうか。ラムズフェルド・米元国防相が「もっとも危険な基地である」と指摘した普天間基地は、即時・無条件撤去を求めるべきだと思います。

 普天間基地移設問題が迷走する裏には、沖縄返還交渉以来の様々な日米の密約が尾を引いている、との見方もありますが、4月9日、元毎日新聞記者の西山太吉さんら25人が、1972年の沖縄返還に伴い日米間で交わされた密約文書の開示求めた裁判で、杉原裁判長は密約の存在を認め、外務、財務両省に文書の開示を命じる画期的な判決を下しました。

 この沖縄返還をめぐる密約と、毎日新聞・西山記者が有罪とされた外務省機密漏洩事件を描いた1978年のテレビドラマ「密約 外務省機密漏洩事件」が、銀座シネパトスや新宿武蔵野館などで22年ぶりに劇場公開されています。監督は千野皓司さん、原作は「九条の会」呼びかけ人の澤地久枝さんです。

民主党政権の文化行政と映画支援

映演労連書記長 梯 俊明

 日本映画製作者連盟(映連)は1月28日に2009年の映画統計を発表しました。それによると2009年に公開された映画は合計762本(うち邦画448本、洋画314本)、動員数は合計1億6,929万人、興行収入は合計2,060億3,500万円となり、興行収入が3年ぶりに2,000億円を超えました。邦画シェアは邦画56.9%で、2年連続で洋画を上回りました。「アバター」など3D映画の登場のほか、「ROOKIES 卒業」「20世紀少年〈最終章〉」といった話題作が牽引した結果です。しかし、果たしてこの数字だけで現在の日本映画界が活況だと評価できるでしょうか。

 興収10億円以上のヒット作は邦洋あわせて57作品ですが、その興収だけで実に全興収の69.7%に達します。残り705本の映画は、平均興収8,862万円しか稼げなかったことになり、圧倒的多数の映画が公開しても製作費すら稼ぎ出せていないことを示しています。

 劇場スクリーン数はシネコンとともに急増し、昨年末で3,396スクリーンとなり、10年比で1.5倍に達しました。興行収入はこの10年ほぼ横ばいですから、当然1スクリーン当たりの収入は大きく減少し、大手シネコンでも赤字転落など厳しい経営実態が伝えられています。

 映画産業の苦境を象徴する出来事もありました。映連が興行成績を大々的に発表したまさにその日、「パッチギ!」や「フラガール」で有名なシネカノンが民事再生を申請したのです。

 このように、全体の売り上げこそ維持されているものの、その内容を具体的に検証すると、映画産業の危機が浮き彫りになります。

 産業の構造的な問題である一極集中による寡占化や劇場数の増加に加えて、一昨年来の経済危機が追い打ちをかけているのです。多額の製作費を要する劇映画は、いまや一社だけで製作することは稀です。リスク分散の目的から、「製作委員会」という日本独特の方式が発展しました。その中心はテレビ局・出版社・広告代理店だったのですが、不況のあおりから映画への出資は慎重になり、テレビドラマの焼き直しなど確実にヒットする企画に集中する傾向が顕著です。社会性のあるテーマや、映画でなければ描けないような意欲的な作品には出資が集まらないのです。これは映画の表現者だけの問題ではなく、多様な映画に接する機会が奪われる点で観客にとっても深刻な問題です。そこで求められるのが国の施策です。

 昨年、政権交代が実現し、民主党政権が誕生しました。民主党が掲げたマニフェストが改めて注目を浴び、その実現性をめぐってはマスコミだけでなく家庭や職場でも話題となりました。しかしその民主党のマニフェストですが、いくら読んでみても「文化」という言葉は一度も登場していません。

 そして11月になると「事業仕分け」がスタートし、科学予算や文化予算がやり玉に挙げられ、文化予算は「予算縮減」の烙印が押されたのです。

 文部科学省は「事業仕分け」に対する国民の意見を募集しましたが、文化分野についてはなんと約11万件もの意見が寄せられ、文部科学省によれば「そのほぼすべてが事業仕分けの結果に反対するもの」であり、「文化支援は国の責務であり、費用対効果で考えるものではない」といった意見が多数でした。ところが文科省は11万件もの意見を無視して、「優れた芸術活動への重点支援については3年で2分の1まで縮減する」との方針を打ち出しました。これによって文化庁の22年度予算の重点支援は、前年より4億1,900万円減の45億円9,800万円となりました。来年、再来年はさらに大幅な減額が迫っています。

 映画産業の危機にあって、そこに働く映演労働者の処遇は過酷を極めています。映画製作現場には正規雇用の労働者はほとんどいません。大半が作品契約と呼ばれるフリースタッフで、一作品が終了すると、途端に生活の心配をせざるを得ません。映画館の労働者も大半は非正規で構成されます。産業の危機は彼らを真っ先に直撃しているのです。

 映演労連は3月26日、「重点支援2分の1縮減に抗議する声明」を発表しましたが、ごく一部の陽の当たる映画だけでは産業の再生も人材の育成も望めません。費用対効果だけでは国内の映演文化は衰退するしかないでしょう。

 映画の源流である製作、その出口である映画館の実態を見据え、文化を国の施策として確立させることがいまこそ必要なのです。多くの若者が、この苦境にめげず映画や演劇の担い手を目指して日々奮闘しています。その努力に報いるべく、私たちも大きく声を上げていきたいと決意しています。

【情報コーナー】

5月3日、憲法集会&1万人銀座パレード
 5月3日に、第10回目の5・3憲法集会と1万人銀座パレードが行われます。首都圏の皆さん、ぜひ参加しましょう。
  • 日時: 5月3日(月)、開場:12時30分(11時から入場整理券配布)、開会:13時30分
  • 場所: 日比谷公会堂(第2会場あり)
  • 入場無料
  • 語りと朗読/市原悦子さん(俳優)
  • スピーチ/田中優子さん(法政大学教授・江戸文化研究者)/伊藤真さん(伊藤塾塾長・弁護士)/福島みずほさん(社会民主党党首)/市田忠義さん(日本共産党書記局長)
  • 銀座パレード: 15時30分出発〜
  • 呼びかけ: 2010年5・3憲法集会実行委員会
5月22日、憲法フェスティバル
 5月22日(土)には東京・日本教育会館一ツ橋ホールで「第24回憲法フェスティバル」が行われます。今年のテーマは「私の憲法」。ジャーナリスト堤未果さんの講演、ピアニスト崔善愛さんとチェリスト三宅進さんの演奏、青年劇場の群読などがあります。開場13時、開演13時半。参加費2500円(当日)。連絡先は憲法フェスティバル実行委員会、03-3261-4566
6月19日(土)、九条の会講演会
4月4日の関東ブロック交流集会で、6月19日(土)に行われる「九条の会講演会〜日米安保の50年と憲法9条〜」の概要が発表されました。講演予定者は大江健三郎、奥平康弘、澤地久枝、鶴見俊輔の各氏。日時は6月19日(土)13時30分開会(12時30分開場)、場所は東京・日比谷公会堂、参加費は前売1000円、当日1500円。連絡先は九条の会事務局、TEL 03-3211-5075

映画人九条の会事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
TEL 03-5689-3970 FAX 03-5689-9585
Eメール: webmaster@kenpo-9.net