映画人九条の会Mail No.38

2010.01.15発行
映画人九条の会事務局

目次

民主党政権の憲法姿勢が問われる年!

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年、あまりにひどい政治を続けていた自公政権がついに国民に見放されて、政権交代が起こりました。今年はどういう1年になるでしょうか。

 自公政権にとって代わった民主党中心の鳩山政権は、「国民生活第一」をスローガンに掲げていますが、就任わずか4ヶ月で内閣支持率を大幅に下降させ、普天間基地問題でも迷走を続けています。経済不況は2番底のおそれを日々強めており、雇用破壊は止まりません。本当にどうなるのでしょうか。

 今年は2月に冬季オリンピック、5月に核不拡散条約(NPT)再検討会議、6月にサッカーのワールドカップ、7月に参院選が行われますが、私たち九条の会にとって最大の関心事は、5月18日に予定される改憲手続き法(国民投票法)の施行です。

 改憲手続き法は当初から国民各層の激しい批判を浴び、衆議院では3つの附則がつけられ、参議院では18項目の付帯決議が付けられたほどの欠陥法律でした。

 この3つの附則と18の付帯決議の実行は、改憲手続き法を施行するうえで乗り越えなければならないハードルです。しかし、それから3年近くが経過したにもかかわらず、そのほとんどが実行されていません。民主党が突き付けた「18歳投票制」や「国政事項国民投票」というハードルも、未達成のままです。そして政権は民主党政権に代わりました。

 改憲手続き法は、自公によって与党案が強行採決されましたが、民主党は衆院でも参院でも独自の修正案を出して与党案に反対しました。与党となった民主党は、自ら反対した法律であり、議会がつけたハードルを一つもクリアしないままの欠陥法である改憲手続き法の施行を、どうするつもりでしょうか。まさに民主党政権の憲法姿勢が問われることになります。

 鳩山首相は昨年末の12月26日、憲法改正について「心の中に、ベストな国の在り方のための憲法を作りたい気持ちはある。議論することは議会人としての責務ではないか」と述べ、首相就任後、はじめて憲法改正問題に言及しました。

 鳩山首相はもともと改憲論者であり、かつて「天皇を元首とする」「自衛軍を保持する」などの改憲試案を発表たこともあります。小沢幹事長の解釈改憲路線も要注意です。

 改憲手続き法の施行がどうなるのか、映画人九条の会と映演労連は共同で2月16日に学習集会を計画しています。講師は、改憲手続き法阻止の先頭に立って闘ってこられた自由法曹団の田中隆弁護士です。この学習集会を皮切りに、私たち映画人九条の会は2010年の運動を意気高く進めていきたいと思います。今年もよろしくお願いいたします。

映画人九条の会運営委員一同

映画人九条の会 & 映演労連学習集会のお知らせ

2010年5月18日施行予定 どうする?改憲手続き法

映画人九条の会 & 映演労連学習集会
日時/2010年2月16日(火)18:45〜20:40
場所/東京・文京シビックセンター5階・区民会議室AB
資料代/500円
講師/田中 隆弁護士(自由法曹団)

2010年の映画産業はどうなるか

梯 俊明(映演労連書記長)

 依然として経済情勢の厳しい中ですが、映画界は復活の兆しが見えたという人もいます。果たして本当でしょうか。昨年は3D映画が本格参入したり、今正月映画も昨年の3割増しとの情報もあります。従って、年間興行収入は再び2千億円に達するだろうと言われています。

 しかし、これだけで一面的に「復活」と言えるほど状況は単純ではありません。劇場側の立場でいうと、最後に2千億円に達した06年のスクリーン数は3,062。それが09年末では3,397に増えました。1スクリーン当たりの収入は10年前より年間1千万円近く減少しています。さらには登場した3D映画に対応するため、同じく1千万円をかけて設備投資する必要があります。今後否応なく押し寄せるデジタル上映の波は、資本力の小さな興行主を窮地に追い込んでいます。今以上に映画館不在都市が増えかねないのですから、観客の立場からも好ましくない状況です。

 一方、配給側の立場では興行収入の増加はうれしいことです。ところが、昨年の邦画トップ10を見ると、1位「ROOKIES卒業」、2位「ポケモン・ダイヤモンドパール」、3位「20世紀少年<最終章>」を筆頭に、8作品が東宝配給で占められています。要因は様々あり単純に一社独占という表現には馴染みませんが、その陰では中堅どころの配給社2社が昨年中に倒産するという出来事もありました。

 製作側の立場から見ると、メガヒット作のほとんどがテレビ局による出資と大量宣伝によって生まれている状況があります。一社だけの資金力では、製作も宣伝も到底太刀打ちできない構造になっているのです。そこにきて今回の世界的な不況は、映画への出資減という事態も招いています。

 このように、多額の設備投資がなければヒット作を上映できない、大ヒットするのも一部の企業に限られる、せっかくヒットしても収益が映画産業の外に流出する、資金がないので製作も見合わせる、といった状況を考慮すれば、とても真の復活ということはできないでしょう。2010年、この状況に変化は訪れるのでしょうか。

映画人九条の会5周年記念イベント「原爆の子」上映会、大成功!

 昨年11月24日に東京・文京シビック小ホールで行われた映画人九条の会5周年記念イベント「原爆の子」上映会は、200人を超す参加者で大きく成功しました。

 上映に先立ち、映画人九条の会代表委員の大澤豊監督が最新作「日本の青空II いのちの山河」に触れて挨拶。続いて登壇した劇団民藝の俳優・日色ともゑさんは、「原爆の子」を小学5年生の時に学校の校庭で見て、広島に原爆が落とされたことが深く胸に刻みこまれ、その後自分が俳優になったのもこの映画がきっかけだった、と語りました。

 そして上映された映画「原爆の子」は、さすがに傑作で、会場に大きな感動を呼び起こしました。映画はプリント状態も良く、巨匠・新藤兼人監督が作った日本で最初の反核映画をじっくりと堪能できました。参加者の皆さま、ありがとうございました。スタッフの皆さま、ご苦労様でした。

【お薦め映画紹介】
ひきこもりから、新たな自立の物語 内容があり、かつさわやかに 「アンダンテ〜稲の旋律〜」

羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)

 精密機械のような厳密さと、異常な効率性が求められ、他人のことを思いやる気持をなくしている今日の日本の社会。そうした中で、対人恐怖症の苦しみを持ち、悲鳴をあげる子どもたちや青年たちが増加している。この社会的問題を、この映画はテーマとしている。

 主人公の藪崎千華(新妻聖子)は、対人恐怖症ひきこもりの30歳の女性。母親の自分勝手な期待と、一方的な誤った押しつけの愛情によって、子どものころから不自由で、やがて登校拒否。大学は入学できたものの中退。アルバイトや就職も長続きはせず、カーテンを閉め切った、一日中暗い部屋に閉じこもっている。

 ところがある日、電車に乗って、千葉県の九十九里浜近くの横芝光町の田んぼの中に、「誰か私を助けてください」という手紙が入ったペットボトルを置いてくる。それを拾ったのが、自然農業に取り組む中年男性の広瀬晋平(筧利夫)。ここから二人の交流が始まり、千華の一段と高い人間性回復への物語がスタートする。

 この映画の大きな見所は、春、5月の稲の田植えから、9月中旬の稲刈りまでの、その稲の成長と、主人公千華のひきこもりからの成長とを、重ね合わせて描いていることだ。

 千華は晋平から、「ぜひ一度こちらに来て農作業でも体験してみて下さい」とさそわれる。出かける時、千華は化粧を何度もやり直す。晋平の家では田舎料理のもてなしの数々。千華は人が怖かったはずなのに、晋平の両親ともわだかまりなく接する。鶏小屋では、ヒヨコを頬にすり寄せ、「ふわふわであったかい」と声をあげる。

 田植えの時期、かつての職場の友人・逸子(秋本奈緒美)と晋平宅を訪れた千華は、田植え機を使い、使い切れずに田んぼの中に倒れ、泥んこになって、笑いを抑え切れず、笑い出す。青年の新や、晋平の姪の奈緒らとともに身体を動かし、非効率な作業を積み重ね、汗をかき、自然を相手に四苦八苦しながら自分たちの食べ物を作る充実感を味わう千華。次第に生きる喜びとともに、晋平への恋心を抱き始める。

 私は最初の大見出しで、この映画には「内容がある」と言ったが、それは次のことだ。一つは千華のひきこもりからの人間性再生の物語を描くとともに、彼女の母親(宇都宮雅代)の人間としての自立──娘が自由になることと、「効率性こそが大事」という夫(村野武範)の拘束から抜け出す小物語をも、重層的に織りなして描いていること。このことによって、この映画に深さと厚みをつけ加えている。

 もう一つは、日本人の食卓のほとんどを海外からの輸入に頼りきり、日本の食料自給料が41パーセントであるという、日本の農業問題をも考えさせる内容になっていることだ。

 ラストでは、千華は晋平とは結婚できず、晋平は千華の友人の逸子を結婚相手として選ぶ。それにもめげず千華は乗り越えて、娘と夫から自立した母親と二人で、横芝光町の人たちから招待されて、コンサートに出かける。千華はそのコンサートの主役で、田んぼの中の黄金の稲穂の中で、「ひきこもりだった私が初めてこの街に来て、風にそよぐ稲を見た時、ある旋律が聞こえてきました」とパッフェルベルのカノンを奏でる。聞き惚れる横芝光町の人々──。

 東京・ポレポレ東中野で、1月23日(土)から2月12日(金)までの公開を皮切りに、全国各地で上映される。

6年目の活動を支えるカンパをお願いします。

 皆様のカンパで運営してきた映画人九条の会ですが、そろそろ財政が苦しくなってきました。6年目の活動をさらに飛躍させるために、皆様方のカンパを改めてお願い申し上げます。

郵便振替口座
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口座名: 映画人九条の会

【情報コーナー】

ドキュメンタリー映画「しかし それだけではない。加藤周一 幽霊と語る」公開
戦後の日本を代表する知識人として発言を続けた加藤周一さん(九条の会呼びかけ人)が最後に残したメッセージを、彼自身の歩みとともに構成したドキュメンタリー映画「しかしそれだけではない。加藤周一 幽霊と語る」(95分・予定)が、2月27日より渋谷シネマ・アンジェリカ(TEL 03-5459-0581)で公開されます。
2008年12月にこの世を去った加藤周一さんが最後に試みたのは、“決して意見が変わることのない”幽霊たちとの対話。戦時中に、自らの運命との共通性を感じた源実朝、自由な言論が失われた中でも意見を曲げることのなかった神田盾夫、渡辺一夫といった恩師たち、そして学徒出陣で戦地に向かい若い命を落とした友人。彼らに語りかける加藤さんの言葉の中から、日本の今と未来が浮かび上がります。
加藤周一さんの言葉に示唆を与えられてきた人だけでなく、加藤周一という人物をこれから知ろうとする人にとっても最良の出発点となる、貴重な映像作品です。
  • 出演:加藤周一
  • 製作:加藤周一映画製作実行委員会 矢島翠/桜井均
  • 監督:鎌倉英也
  • 協力:スタジオジブリ ウォルト・ディズニー・ジャパン
4月4日に九条の会関東ブロック交流集会
九条の会の関東ブロック交流集会が4月4日(日)午前10時から、東京都港区芝公園の正則高校で行われます。詳しいことは後日お知らせいたします。

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