映画人九条の会Mail No.36

2009.05.25発行
映画人九条の会事務局

目次

総務省「国民投票制度準備経費」に46億9400万円の予算を計上!

 「戦後レジームからの脱却を掲げ、自らの在任期間中に明文改憲を押し進めた安倍晋三元首相が政権を投げ出してから一年半。憲法改悪の動きは一見止まったように見受けられます。

 しかし、安倍首相時代に強行された憲法改悪手続き法ともいうべき国民投票法が、来年5月18日の施行にむけ、着々と準備が進められていることを知っている人は少ないのではないでしょうか。

 総務省の09年度の予算には、「国民投票制度準備等関係経費」として、08年には7200万円だった予算が、一挙に46億9400万円に増額されているのです。

 その主な内訳は―――

  1. 投票人名簿システム交付金 46億2400万円
  2. 法内容の周知徹底 2300万円(リーフ300万枚、ポスター5万枚)
  3. 投票、開票の速報体制の整備に関する経費 1700万円
  4. その他事務経費 3000万円

 ―――というものです。

 しかも、この300万枚配布されるパンフレットの表紙には、「ご存知ですか?平成22年5月18日から『憲法改正国民投票法』が施行されます」とあり、まだ議論が不十分な同法に対して、さも来年には「国民投票」が実施されるという誤解を与える中身となっているのです。

 投票は何才からにするのかなど、この国民投票法にはこれから検討すべき18項目の付帯決議が付けられています。

 「憲法改正(改悪)案」を審議する憲法審査会の規定すら無い段階で、このような予算をかけ、パンフまで作る政府のやり方は、まさに、海賊退治を名目にした海上自衛隊のソマリア派遣と同様、既成事実を先行させるものです。

 このような動きに注意を払いながら、「憲法改悪阻止」「9条を守り、暮らしに憲法を生かす」運動を進めていきましょう。

民主党・鳩山新代表は改憲派!

 民主党は5月16日、辞任した小沢代表の後任に鳩山由紀夫氏を選出しました。これによって民主党は世論の支持率を回復させていると言われています。

 しかし鳩山新代表は、昨年3月に自民党、民主党などの改憲派議員でつくる「新憲法制定議員同盟」の顧問に就任しており、5月17日のNHK番組でも、改憲手続き法によって衆参両院に設置されている「憲法審査会」について「議論は始めて結構だと思います」と述べ、憲法審査会の始動を容認しました。

 また鳩山氏は、2005年に著書「新憲法試案 尊厳ある日本を創る」を出版し、その中で「天皇を元首とする」「自衛軍を保持する」などとした改憲試案を発表しています。

 鳩山氏の新代表就任で民主党の支持率が回復し、政権交代の可能性が強くなったと報道されていますが、私たちは鳩山新代表がれっきとした改憲派であることを心に留めておかなければなりません。

「海賊対処法案」を廃案に!

 政府与党は4月23日、「海賊対処法案」を衆議院本会議で可決しました。いま政府与党は、参院での審議を急ぎ、「海賊対処法案」の成立を急いでいます。

 「海賊対処法案」は、「海賊対策」を口実にして自衛隊の海外派兵をさらに広げるものであり、派兵地域と期間の限定を取り外し、武器使用もこれまでの正当防衛・緊急避難から「任務遂行」まで拡大するものです。自衛隊が初めて外国人を殺傷する可能性が高くなります。また、国会の承認すら不必要とし、首相の承認も緊急時には報告でよいとする驚くべき内容が盛り込まれています。

 このように「海賊対処法案」は憲法9条を形骸化するものであり、この「海賊対処法案」の先には「海外派兵恒久法案」が用意されています。

 この間、各国はソマリア沖に軍隊を派遣していますが、逆に海賊事件は急増し、発生海域はインド洋にまで広がっています。このことは、軍事力による対処では解決できないことを示しています。ソマリアの無政府状態を解決し、国民生活の安定を図ることが重要なのです。そのための国際協力に日本が積極的な役割を果たすことこそが求められていると思います。

 憲法9条をもつ日本が、軍事優先で対処すべきではありません。「海賊対策」でソマリア沖に派兵した自衛隊を撤退させること、「海賊対処法案」を廃案にすることを強く求めていきましょう。

6月2日、「九条の会講演会〜加藤周一さんの志を受けついで」

 今年6月10日に発足5周年を迎える九条の会は、来る6月2日(火)18時30分より、東京・日比谷公会堂において「九条の会講演会〜加藤周一さんの志を受けついで」を開催します。

 「『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を」と訴えたアピールは、多くの方に支持され、急速に広がりました。全国各地の7000を超える九条の会は、世論の形成に大きな役割を果たし、今後いっそうの発展が期待されています。そうした中で、残念なことに昨年12月5日に加藤周一さんが亡くなられました。

 発足からいつも前向きな発言で九条の会の牽引車であった加藤周一さんは、惜しみない愛情と大きな期待を次世代に抱いて、思考と感性の回路を閉ざすことは決してありませんでした。この講演会は、その加藤さんの志を次の世代につなぐためのものです。

 なお九条の会事務局によれば、すでに前売券の申し込み数が会場の定数に達したということで、前売券の発行は停止となりました。当日は、一定枚数のキャンセルがでることを想定して、2日午後5時頃から会場入り口において、当日券受け取りのための整理券を発行する予定だそうです。しかし、これはどれだけ入場が可能になるか分からず、お待ち頂いても入場できないことがある、とのことです。

核兵器のない世界を ──2010年核不拡散条約(NTP)再検討会議に向けて、国際署名に取り組みましょう。

 2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議に向けて、私たち映画人九条の会でも「アピール:核兵器のない世界を」の国際署名に取り組むことを先日の運営委員会で確認しました。

 NPT=核不拡散条約とは1970年に発効したもので、核兵器保有国を米英ソ仏中の5カ国に限定し、その他の国の核兵器保有を禁止するとともに、その第6条では加盟各国が核軍縮に向けた交渉をするよう規定したものです。

 しかし、実際にはこの条約は機能停止状態とまで揶揄されるほど有名無実化していました。NPT再検討会議は5年毎に開催されますが、直近05年の際には軍縮に反対する米ブッシュ政権の強烈な横やりもあって、合意文書の採択どころか議題すら決めることもできずに決裂していました。ところがいま、このNPTに再び光が当たり始めています。

 来春開催予定の再検討会議に向けた準備会が今月5日より国連本部で開かれましたが、今回は核軍縮と核拡散防止を柱とする20項目の議題が、なんと加盟190カ国の全会一致で決定されたのです。5年前と余りにも違うこの変化、米国ブッシュ政権からオバマ政権への変化を最大要因としながらNPT体制の再始動に大きな期待が高まっています。

 「私はプラハで、核のない平和な世界を目指すため、米国が最初の一歩を踏み出すことを約束した。私は協力と相互理解でNPTを強化し、信頼を回復するという希望に満ちている」。オバマ大統領のメッセージが準備委2日目に読み上げられると、会場にどよめきが走ったと言います。

 唯一の戦略被爆国である日本からは、広島・長崎の市長が出席。秋葉市長が「二度と被爆者を生んではならない」、田上市長が「核のない世界に向けた流れを確実なものに」と訴えると、会場の拍手は鳴りやまなかったそうです。こうした核廃絶に向けた機運が一気に加速する中、来春の再検討会議では「核軍縮の進展」「核拡散防止のための措置」「原子力平和利用の権利」などが中心議題となると見られます。

 しかし、課題も山積しています。NPTを批准する核保有5カ国の核廃絶に向けた具体化はもちろん、NPT未加盟のインド・パキスタン・イスラエルや、NPT脱退を表明している北朝鮮への対応、米ブッシュ政権によって死文化されたCTBT(包括的核実験禁止条約)の再構築などなど。

 来春のNPT再検討会議は、人類の将来にとって転機となる可能性を秘めています。核軍縮に向けたこの流れを核廃絶の実現へと飛躍させるためにも、唯一の被爆国であり九条を持つ日本に住む私たちの役割は重要です。来春のNPT再検討会議が多くの課題を乗り越えてその本来の機能と役割を果たすよう、国際署名にその思いを託しましょう。

【情報コーナー】

117億円の予算で、国がマンガ・アニメ・ゲームの「殿堂」!?

 麻生内閣の「経済危機政策」の中に、「我が国のアニメ、マンガ、映画、放送番組などのソフトパワーを新規市場創出や若年雇用拡大に活用する」というものがあります。この政策に基づいてのことか、文化庁は4月28日、消費税増税を前提にした14兆7千億円という大バラマキ補正予算の中で、アニメ、マンガ、ゲームなどの作品を展示するための美術館「国立メディア芸術総合センター」(仮称)を新設するという構想を発表しました。東京・お台場が候補地で、来場者数の目標は年間60万人、2009年度補正予算案に建設費用117億円を計上し、2011年度の完成を目指す、としています。

 またもハコモノ作りですが、アニメ文化などの振興のためにこんな巨額の金をかけたハコモノが必要なのでしょうか。しかもこの「殿堂」から実写の映画は、「すでに国立フイルムセンターという拠点があるから」という理由で外されそうです。

 また運営は、「独立行政法人国立美術館が外部に委託する」となっていますから、ちゃんとしたポリシーも計画もないまま、どこかの外郭団体に丸投げされる匂いもしてきます。

 政府が「ソフトパワー」の中心的な産業として期待しているアニメ産業は今、「アニメバブル崩壊」と言われる状況です。テレビアニメはピークの2006年から半減しそうな状況であり、DVDの売上げも減り続けています。

 アニメ界にとって今必要なことは、こんなハコモノ作りではなく、“動画1枚200円前後”というワーキングプア状況を改善し、人材が育つ環境をつくることではないでしょうか。

 そういえば、今年度から文化庁と芸術文化振興基金の支援事業が「一元化」されましたが、日本映画の「映画製作への支援」は、合計で1億4400万円も減額されています。バラマキとハコモノの大盤振る舞いの陰で、文化政策の後退が進んでいるのです。

映画人九条の会会員の皆様へ、投稿のお願い

 この「映画人九条の会mail」は、年に4〜5回発行していますが、映画人九条の会会員の皆様に、その時々の社会の動きや九条への思い、映画のこと、映画人九条の会の運動への提案などについて投稿をお願いいたします。匿名可。字数は一応500時前後とします。
 なお、投稿数などによって掲載されないことがあることをご了承ください。


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