映画人九条の会Mail No.35

2009.03.04発行
映画人九条の会事務局

目次

中川財務相、酩酊辞任の陰で 「グアム移転協定」に署名!

 中川財務相が酩酊会見で辞任した2月17日、米ヒラリー・クリントン国務長官が来日し、中曽根外相は米海兵隊の「グアム移転協定」に署名しました。

 この「協定」で日本は、沖縄の米海兵隊の一部8000人とその家族をグアムに「移転」させる費用61億ドルを拠出することを再確認するとともに、米政府への直接の資金提供となる28億ドルの使用手続きを取りきめました。この協定が国会で承認されると、条約と同じ効力を持ちます。

 また「協定」は、米海兵隊普天間飛行場を沖縄でたらい回しにするため、2014年までに名護市辺野古に新基地を建設することを「パッケージ」にして、日本国民の血税を使った「移転」資金のいっそうの拠出を求めています。

 こんな暴挙が、中川財務相の酩酊辞任の陰で、大した報道もされずにスッと行われてしまったのです。「百年に一度」と言われる経済危機の中で、内需拡大や雇用、社会保障のためにこそ税金が使われなければならないのに。ぼうっとしていたら米軍基地強化に3兆円とも言われるお金が投入されかねません。目と耳を見開き、政府・財界とマスコミの動向に感覚を研ぎ澄ませておきましょう。

【お薦め映画紹介1】
「宣伝」ではわからぬ意外な収穫 大作「オーストラリア」と現代史

山田和夫(映画人九条の会代表委員/映画評論家)

 「映画を見に行く」のではなく、「映画の評判、映画の宣伝を見に行く」とまで言われるほど、内外映画の成績に「宣伝」が支配的な影響を及ぼしている。だから「宣伝」ではそんな映画とはわからないが、見てはじめてわかることが少なくない。こんど公開された大作映画「オーストラリア」(監督バズ・ラーマン)がそう。

 「アメリカ映画」と表記され、米大手フォックスが配給しているけれど、監督、主演はじめ主要なスタッフとキャストはオーストラリア出身者がズラリ。撮影はオーストラリア現地とシドニー近郊にあるフォックス撮影所。そして何よりその題名にふさわしく、オーストラリアの現代史、その大切な要素がキチンと描き込まれていることだ。

 第一に映画の主役は第2次世界大戦中、英本国から夫を追ってオーストラリアに所有する大牧場にやってきた貴族夫人サラ(ニコール・キッドマン)と、現地で出会い結ばれる“ドローヴァー”(牛追い男)と呼ばれる野生の男(ヒュー・ジャックマン)だが、全編を通じて不可欠の役割を果たすのは、牧場で働いていた先住民アボリジニの混血少年ナラと彼女を導く老アボリジニ、キング・ジョージだ。

 先住民アボリジニは、英国の植民地化とともに一時絶滅に追い込まれ、白人との混血児は白人化教育を受けるため、強制的に収容された。孤児になったナラはそのために警察に追われる。オーストラリア映画「裸足の1500マイル」(2002年、監督フィリップ・ノイス)は、その収容所から裸足で脱出して故郷をめざす3人のアボリジニ混血児の話だった。また西ドイツ(当時)映画「緑のアリが夢見るところ」(1984年、監督ヴェルナー・ヘルツォーク)は、ウラン鉱開発にブルドーザーで乗り込む業者に座り込んで抗議するアボリジニを描いた。捕えられ裁判にかけられたアボリジニの証言を通訳できる人はいない。事実上絶滅している部族の悲惨。そしてこの「オーストラリア」では言及されていないけれど、米英合作の「グランド・ゼロ」(1988年、監督M・パティンソン、B・マイルス)は英国の核実験地となった内陸部で核被害にあったアボリジニたちを描く。

 今回の映画は、昨年オーストラリア政府が首相名で、かつてのアボリジニ差別政策を謝罪した言葉で終わる。

 もう一つのおどろきは、ラスト近くのクライマックスが、1942年2月19日の日本海軍機動部隊による北海岸の要港ダーウィン空襲のスペクタクルになっていること。アジア・太平洋戦争の南太平洋戦線が一番南に延びていた時期、日本軍はオーストラリア5ヵ所を空爆。同年5月31日には特殊潜航艇によるシドニー軍港攻撃も行った。太平洋戦争のとき、日本軍がオーストラリアまで攻撃していた事実は、戦争体験者でもほとんど記憶から消えていたのではないか。そして同じ年、フィリッピンのコンヒドール要塞から脱出してオーストラリアにたどりつき、そこから連合軍の総反攻を指揮したのが、米極東軍司令官ダグラス・マッカーサー、のちの日本占領軍最高権力者だ。大がかりな戦争スペクタクルが、私たちの記憶をゆり動かし、日本現代史の過去に思いをいざなったのも、思いがけない収穫である。

 さらにつけ加えれば、この映画の実態はオーストラリア映画人の実力の結果であり、主演女優のニコール・キッドマンをはじめ、いまハリウッドの演技陣の大きな部分がオーストラリア出身者であることも、この機会に思い起こしていいのではないか。オーストラリア政府の映画助成策の一端として、6つの州にはすべて演劇学校があり、俳優養成に成果をあげているからである。

 映画「オーストラリア」は、「風と共に去りぬ」ばりの大ロマンが“売り”だが、オーストラリア映画人が自国の歴史をしっかりと見つめ、描き込んでいるところを、私は忘れないでいたいと思っている。「宣伝」ではわからない、意外な収穫である。

(2009年2月27日)

【お薦め映画紹介2】
19歳の女性監督がアフガニスタンの「今」を描く 「子供の情景」 (2007年イラン・フランス合作)

羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)

 舞台は2001年にタリバンによって仏像が破壊されたアフガニスタン・バーミヤン。この映画の主人公の6歳の少女バクタイは、隣の男の子アッバスが教科書を読んでいるのを見て、自分も学校に行きたくなる。学校に行くにはノートと鉛筆が必要。やっとの想いで一冊のノートを手に入れ、鉛筆の代わりに母親の口紅をもって、「これで学べる」と喜びと楽しさで胸をふくらませて学校に出かける。

 ところが、である。学校へ行く途中、十数人の男の子供たちの“戦争ごっこ”の標的にされる。少年たちは彼女のノートの1ページ1ページを破り取り、紙飛行機を作って飛ばす。この無数の紙飛行機が、空襲にやってきた爆撃機の来襲のようになる。彼女の大切なノートの紙が相手を威嚇する道具へ、と変わる。さらに、彼女はブルカに似せた紙袋をかぶせられ、岩山の洞窟に連行される。そこには同じように紙袋をかぶせられた数人の少女が、恐怖に震えている。

 少年たちの“戦争ごっこ”の暴力は、それだけでは終わらない。学校からの帰り道、少年たちは彼女を枯木の枝を銃として追いかけてくる。少女は必死に逃げる。隣の男の子アッバスが“助け舟”の言葉を叫ぶ。

 「バクタイ! 死んだふりをするんだ! バクタイ! 自由になりたいなら死ぬんだ!」

子供たちは、戦争を続ける大人たちが作り出す世界で生きるのか

 アフガニスタンの戦争と暴力といえば、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに続く、アメリカの空爆に始まる戦争状態のことだけではない。1979年の旧ソ連軍のアフガニスタンへの侵攻、その後の内戦、23年間という長きにわたっての戦争にある。アフガニスタンの若者や子供たちは戦争の時代しか知らない。ハナ・マフマルバフ監督は、少年たちの暴力の「情景」は、長く続く大人の戦争と暴力が起因する、と訴える。

 アメリカの新大統領オバマ氏は、いまイラクから撤退し、アフガンに増兵する方針。日本の麻生首相も、それに追随しようとしている。監督はイラン人で19歳の女性(現在20歳)。4月18日(土)から東京・岩波ホールで公開される。

2008年映画統計、入場人員・興収ともに前年ダウン!

 今年1月29日に映連が発表したところによると、2008年の映画館入場人員は1億6049万1千人(前年比98.3%)、興行収入は1948億3600万円(前年比98.2%)で、入場人員・興行収入ともに前年を下回りました。

 スクリーン総数は前年比138増で3359スクリーン。23サイト213スクリーンの新規オープン、一方閉館は80スクリーン前後で、総スクリーンに占めるシネコンの割合は80%を超えましたが、1スクリーン当たりの興行収入は6000万円を割り込む見通しです。

 一方不調が際立ったのはメジャーを含む洋画各社で、08年の邦洋の興収比は邦画59.5%:洋画40.5%となり、再逆転しました。邦画興収は1158億5900万円(前年比122.4%)で、洋画興収は789億7700万円(前年比76.1%)。

 2008年の公開本数は邦画418本(前年比11本増)、洋画は388本(15本減)でしたが、今年は不況によって映画の製作本数の減少は避けられない情勢で、制作会社やフリーランスの技術スタッフは失業の危機にさらされそうです。(映演労連ニュース6号より)

日本映画復興会議が3月29日(日)に全国集会

 日本映画復興会議は来る3月29日(日)、東京・文京シビックセンターで「第41回日本映画復興会議全国集会」を開催します。基本テーマは「世界的危機の時代、日本映画はどうなる?」、報告者は黒井和夫氏「崖の上の映画興行界」(角川基金代表)、新藤次郎氏「映画製作のいま」(日映協理事長)、関口裕子氏「ハリウッドはどうなる」(元キネ旬編集長)の各氏です。

第41回日本映画復興会議全国集会
日時
3月29日(日)10:00〜17:00
場所
東京・文京シビックセンター4階B会議室
参加費
1000円

 また同日夜18:30から、文京シビックセンター・スカイホールで「第26回日本映画復興賞贈呈式&祝賀会」が行われます。詳しくは復興会議事務局へ。

★京都・映画人九条の会より
2月11日「蟹工船上映と映画人と平和を語る集い」報告

 2月11日に「京都・映画人九条の会」は「京都右京革新懇談会」との共催で、「蟹工船」上映と現在の社会状勢について映画人と語る集いを行いました。定員は120名でしたが、会場は170名で満席、立見の盛況となりました。

 上映前に革新懇談会代表の元・関西大学長砂實氏から「蟹工船時代の社会背景と小林多喜二の短い生涯」の説明があり、映画を観賞する上で大いに参考になりました。

 上映後、映画監督・土橋亨氏、脚本家・高垣博之氏、元大映・総務部長の海老瀬弥一氏と、現在「派遣切り」になった青年、彼とともに闘う西右京ユニオンの青年がパネラーになり、村主哲夫事務局長が司会を担当し、「蟹工船」の感想、貧困と戦争の関係について、それぞれの立場と年代(80代、70代、60代、40代、20代)から発言されました。

 「労働者を物扱いするのは、本質的に蟹工船の時代と変わらない」「貧困と格差の増大は戦争と無関係ではなく、貧困層が戦争にかり出されるのは、世界共通と思う」「NHKをはじめ、マスコミの権力迎合……例えばNHKの来年の大河ドラマ『坂の上の雲』(作者の司馬遼太郎氏・故人は映像化に反対)ではないかとの疑いなど、大いに問題」──等の意見がパネラーから出されました。約一時間のデスカッションは、反戦と平和の思い、映像の威力と魅力を確認して終了しました。

報告:村主哲夫(京都・映画人九条の会事務局長)

【情報コーナー】

加藤周一さんのお別れ会に約1000人
 「九条の会」の呼びかけ人、加藤周一さんのお別れ会が2月21日、東京・有楽町の朝日ホールで行われ、約1000人もの人が参列しました。弔辞を述べた大江健三郎さんは、加藤さんの代表作である「日本文学史序説」を引用しながら、「相手を理解し、同時に自分の弱点を見抜け」という若者たちへのメッセージを紹介しました。
 なお、「九条の会」は6月2日(火)18:30から、東京・日比谷公会堂において、「加藤周一さんのこころざしを受け継ぐ講演会」(仮称)の開催を予定しています。
 
3月14日に「九条の会」事務局主催学習会「深刻な経済危機と憲法9条」
 「九条の会」は3月14日(土)午後6時から、事務局主催の学習会「深刻な経済危機と憲法9条」を行います。場所は東京・千代田区の東京しごとセンター地下講堂(JR飯田橋駅又は営団地下鉄九段下駅下車)、講師は二宮厚美さん(神戸大学教授)、小沢隆一さん(「九条の会」事務局、東京慈恵医科大学教授)、参加費は1000円です。
「おくりびと」と「つみきのいえ」が米アカデミー賞を受賞!
 2月23日に行われた第81回米アカデミー賞授賞式で、滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞に、加藤久仁生監督の「つみきのいえ」が短編アニメーション賞に輝きました。
 これは日本映画の快挙です。映画人の一員として喜び合いたいと思います。これをきっかけに日本映画が世界にもっと注目され、発展することを期待しましょう。

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