映画人九条の会Mail No.34

2009.01.21発行
映画人九条の会事務局

目次

憲法を生かす年に!

 「100年に一度の経済不況」 「派遣切り」 「大量解雇」──。かつてないほど暗い世相で明けた2009年。日比谷公園の「年越し派遣村」がこんなにもマスコミの話題になるなんて、本当に驚きの社会状況です。

 アメリカ発の新自由主義、市場原理主義がもたらした100年の一度の経済危機ですが、それは同時に新自由主義の終焉を示しています。今年は、大いなる変革が始まる年になるのではないでしょうか。「派遣村」は新たな連帯の誕生です。九条運動にとっても決定的に重要な年になる予感がします。

 そのアメリカでは、国民の“ Change”の期待を集めてオバマ新大統領が誕生しました。日本では、解散のために生まれた内閣なのに解散もできない麻生内閣が、支持率を危険水域にまで下落させて、にっちもさっちも行かない状況です。でも、9月までには必ず総選挙が行われます。日本の政治状況も大きく動きます。国民の雇用とくらしを守り、憲法を守る勢力の拡大に大いに期待したいものです。

 「九条の会」呼びかけ人のお一人である澤地久枝さんは、新春インタビューで「昨年12月に亡くなった加藤周一さんは、『九条の会』は憲法を変えさせないということだけでなく、『憲法を生かす』という長丁場の課題に取り組もうと言われました。自衛隊海外派兵の恒久法による九条の掘り崩しに反対することや、生活擁護のたたかいは、そのことにつながると思います」と語っています。

 経済危機におびえた財界は、240兆円もの内部留保を貯め込んでいるにもかかわらず、労働者の大量解雇に盲進しています。政府もそれを阻止できませんが、国民の中から憲法25条の生存権を守れ、と反撃が始まっています。「憲法を生かす」活動が本当に求められているのだと思います。

 映画人九条の会もその立場に立って、大いに運動を進めていきたいと思います。今年一年、よろしくお願いいたします。

  
映画人九条の会運営委員一同

ガザ攻撃、死者1000人を超す! ──まるで市民大虐殺! 抗議の声を!──

 イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ攻撃が激化しており、パレスチナ人の死者はすでに1000人を超えたと伝えられています。その4分の1以上が子供です。

 ガザ攻撃には、人間の骨まで焼き尽くす白リン弾が使われていると言われています。また国連人道問題調整事務所は、ガザ市近郊のザイトゥン地区で1月5日、イスラエル軍が約110人のパレスチナ人市民を1軒の住宅に集めた上でそこに複数回砲撃を行い、子供を含む約30人が死亡したと発表しました。これはもう、市民虐殺にほかなりません。イスラエル軍によるガザ攻撃を直ちに中止するよう、抗議の声をあげましょう(現在、合意なき停戦状態ですが、いつ戦闘が再開されるか予断を許しません)。

オバマ新大統領に手紙を出そう!

 1月20日、バラク・オバマ氏がアメリカ大統領に就任しました。アメリカで黒人大統領が誕生したことは、本当に画期的なことです。しかしオバマ大統領は、イラクからの撤兵は公約していますが、アフガン戦争は継続する姿勢です。日本など同盟国にいっそうの負担を求めるものとも言われています。

 そのオバマ新大統領に、「武力では平和は生まれない」「日本には9条がある」ということを訴える手紙が、日本から数千、数万と届いたら、それは大きな意味を持つと思います。皆さん、ぜひオバマ新大統領に手紙を書きましょう。ガザ攻撃中止も要請しましょう!

【ホワイトハウスの住所】
President Barack Hussein Obama, Jr.
The White House, 1600 Pennsylvania Avenue NW
Washington, DC 20500, USA
米大統領のEmail: president@whitehouse.gov

 メールよりも手紙の方が効果があるかもしれません。英文で書かれるに越したことはありませんが、日本語でも構わないと思います。

映画人九条の会代表委員の神山征二郎監督と大澤豊監督が新作を!

 映画人九条の会の代表委員である神山征二郎監督と大澤豊監督が、新作に取り組んでおられます。新作にかける両監督の思いを、それぞれの作品の公式サイトから転載します。

「鶴 彬─こころの軌跡─」

「創作ノート」より──神山征二郎監督

 少年喜多一二(きた かつじ)は生れてまもなく子供のなかった叔父夫妻の養子となった。同じ町内に実父母兄妹がいたが、八歳の時実父と死別、やがて再婚した母とも遠く離れくらすことになった。やはり孤独は人一倍であったろうと想像できる。

 少年は詩を愛し、石川啄木に憧れた。目と鼻の先に日本海があり、海を見ては詩を書いた。

 暴風と海との恋を見ましたか

 早熟な少年詩人に成長していった。文学に夢中になった。しかし、少年の生きていたのは戦争の時代だった。暗く重い時代だった。その時代を生きた文芸者の多くが傾倒していったプロレタリア文学に彼もまた目覚めていった。
「弱き者を見捨るな」
 と活動をした。青年になったからだ。だが、暗黒の歯車は止らず、第二次世界大戦が現実のものとなりつつあった。
「その道を行くべからず」
 と両手を拡げたが
「邪魔者、そこをのけ」
 と権力は力ずくに出た。
「断じて退かず」と詩人。悲劇は必然であった。詩人の名は鶴彬=B

 だれよりも鮮明に時代の行末が見えてしまった、愛すべき詩人、その心の軌跡を追いかけてみようと思う。

 ドキュメンタリー・ドラマの様式をとるから、時間と空間をたやすく飛び越え、簡略化した映像で、かえって真実に迫る、という手法に挑戦してみたい。例えば現在の町並をカスリ着流しの鶴彬が歩いている─―といった映像の展開である。

 貴重な浄財によって製作が実現することになりました。ご関係の各位に感謝しつつ、完成にむかって一層のご協力をお願い申し上げます。

 (「鶴彬─こころの軌跡」は、本年3月29日初上映の予定です。)

「日本の青空II〜いのち輝く里〜」

演出にあたって──大澤豊監督

 「日本の青空」の上映成功を願って全国行脚をした際、多くの会場で「第2弾はいつできるのか」「早く次の作品をつくって欲しい」という要望があった。

 映画のつくり手としては望外の歓びであり、そのエールに押されて企画したのが今回の“沢内村”に材をとった作品である。衆知のように岩手県の寒村“沢内村”は「自分たちで命を守った村」であり、深澤晟雄村長のリーダーシップのもとに、村民総ぐるみで半ば諦めていた“豪雪・多病・貧困”という三悪に立ち向かい、見事に克服した村である。

 “生命行政”に徹した深澤村政は、全国の自治体で初めて60歳以上の村民と乳児の医療費を無料化し、やがて全国初の乳児死亡率“ゼロ”の偉業を達成する。

 いま、多くの国民が怒り、廃止を求めている「後期高齢者医療制度」が、いかに非人間的な老人いじめの制度であるかが判るような、同時に、国民の生存権を保証している憲法第25条の輝きが増すような、そんな映画にしたいと思っている。

【お薦め映画紹介】 世界にはこんな花嫁がいる──ご存知でしょうか 「シリアの花嫁」 (イスラエル・フランス・ドイツ映画)

羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)

 シリアとイスラエルの間にあるゴラン高原。ゴラン高原はもともとシリアの領土。1967年の第三次中東戦争からイスラエルが占領している。住民は先住のイスラム教ドゥルーズ派の人たちとユダヤ人入植者と、半々が居住している。ドゥルーズ派は占領地に約2万人、シリア側に約50万人が暮らす。1981年にイスラエルによって併合されたマジュダルシャムス村は、鉄条網で囲まれている。さらに2本の停戦ラインが接近する「叫びの丘」は、今日双方のドゥルーズ派の人たちが、拡声器を握って立ち、お互いの近況を尋ね合う、“叫び場”となっている。

 花嫁の結婚式の日、なぜモナと姉のアマルは物悲しげなのか

 イスラエルとシリアの間には、今日国交がない。断絶している。そのため、この映画の花嫁のように、ゴラン高原を離れてシリア側に移り、シリア国籍が確定すると、イスラエル側には2度と入国できない。それがモナとアマルの姉妹が物悲しくなる理由なのだ。

 シリア側の花婿は貸し切りバスで“境界線”に到着する。シリア側の花嫁の一家も、また“境界線”にやってくる。そして、いよいよ花嫁モナがシリア側に渡るための“手続き”が始まる。イスラエル側は花嫁の通行証にイスラエルの出国印を押す。そこに思わぬ障害が発生する。シリア側の係官は、通行証に押された出国印を見るや否や、顔面を変え、「承認できない。ゴラン高原はシリア側だ。花嫁はシリア内を移動するだけだ。通行証に印などいらない!」と通行証を突き返す。果たして結婚式はどうなるのか。

映画はラストで“勇気”と“希望”を表現する

 突然家族の視界から花嫁モナの姿が消える。姉のアマルが“境界線”のゲートに近づいてみると、ゲートを越えてシリア側に向かって、勇気をもって歩み出しているモナの姿がある。花嫁は“境界線”を越えていく。ふり返ってモナは姉のアマルを見る。物悲しかった二人の姉妹の顔はやがて微笑へと変わる。花嫁のモナはシリアへの道を進んでいく。他方、アマルもまた、晴れやかな美しい表情をしてイスラエル側に帰っていく。姉の名はアマル。アマルというのは“希望”という意味がある。

 この映画が作られたのは、2004年。近頃、時々「ゴラン高原の花嫁」が、“境界線”を越えてシリア側に嫁ぐ、というニュースが報道されることがある。

 この映画の監督エラン・リクリスは、シリア人でなく、イスラエル人。この地域に国連は、両国間の停戦、兵力引き離し、監視のための、HNDOF(国連兵力引き離し監視隊)が駐留している。日本の自衛隊もPKO(国連平和維持活動)の名で、ゴラン高原に派兵している。

 この映画は2009年2月19日(土)から、東京・岩波ホールで公開される。

【情報コーナー】

加藤周一さん逝去
 「九条の会」呼びかけ人の一人、加藤周一さんが昨年12月5日、多臓器不全のため逝去されました。89歳でした。加藤さんのお別れ会については、1月末に九条の会から発表されます。なお、「九条の会」発行のブックレット「加藤周一が語る――聞き手 小森陽一」(300円/送料別)が大変好評です。購読をご希望の方は、「九条の会」事務局にお申し込みください。
 「九条の会」事務局 TEL 03-3221-5075 FAX 03-3221-5076
第3回全国交流集会のDVD、ビデオも発売中
 昨年11月24日に行われた九条の会第3回全国交流集会のDVD、ビデオ(159分、1500円)が発売中です。お申し込みは上記「九条の会」事務局まで。
世界不況が映画業界にも
 世界的な経済不況の影響が、映画界にも出ています。アメリカや日本の映画は、その大半が企業などからの出資によって製作されていますが、この不況によって映画への出資が減っています。そのため、ハリウッド・メジャーのユニバーサル映画などは今年の製作予定本数を大きく減らしています。日本の映画界にも当然この影響は出てくるでしょう。映画界にとっても大変厳しい一年になりそうです。
京都・映画人九条の会が「蟹工船」上映会
 京都・映画人九条の会が右京革新懇と共催で、2月11日(土)13:30から右京ふれあい会館にて「映画『蟹工船』上映と、映画人と共に平和を語る会」を行います。詳しいことは電話075-861-2114(永井宅)まで。

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