映画人九条の会Mail No.32

2008.10.20発行
映画人九条の会事務局

目次

近づく!4周年の集い

 11月6日(木)の「映画人九条の会4周年の集い」が近づいてきました。

 自民党の解散・総選挙用に生まれた麻生政権ですが、これまで政府が「憲法上許されない」としてきた集団自衛権の行使について、「基本的に(解釈を)変えるべきものだ」と言い(9月25日、国連本部での記者会見)、「憲法審査会を早く動かして議論してほしい」と語っています(9月30日、自民党・中山太郎憲法審議会長らとの会談)。

 この「憲法審査会」とは、昨年強行成立された改憲手続き法に基づく機関です。どうやら麻生内閣の狙いは、アメリカの要請に応えて集団自衛権を解禁するために憲法解釈を変更すること、改憲策動を公に推し進める場として憲法審査会を始動させることにあるようです。これが改憲勢力の新しい戦術かもしれません。

 改憲の狙いは、日本を戦争できる国、戦争をする国にするためです。でも、戦争でテロはなくせません。イラクやアフガンの例を見ても、軍事行動はかえって戦火を拡大・泥沼化し、和平を逆行させています。改憲(=戦争する国化)こそ時代錯誤です。

 11月6日の「映画人九条の会4周年の集い」は、ジャーナリストの伊藤千尋さんを講師に迎え、「活憲の時代──世界から見た9条」を熱く語っていただきます。

 新作DVD「地球の温暖化を止めて」も特別上映します。大勢の方のご参加をお待ちしています。

11・6映画人九条の会4周年の集い
■日時
11月6日(木)18:45〜20:40
■会場
東京・文京区民センター3A
■参加費
700円
●記念講演
伊藤千尋「活憲の時代─世界から見た9条」
●映画人九条の会代表委員のあいさつ
●特別上映
「地球の温暖化をとめて」(DVD/18分)

総選挙間近! 改憲NO!の審判を

 解散・総選挙用に生まれた麻生政権なのに、以外な不人気にまごまごしていたら全世界的な金融危機、株価暴落が起こって景気対策を優先せざるを得なくなり、解散・総選挙が不透明になっていましたが、ようやくここに来て11月末投票の可能性が強まってきました。

 総選挙の争点は、自公政権と「構造改革」への審判、政権交代、生活危機の打開、年金問題、後期高齢者医療制度問題、景気対策、新テロ特措法延長問題、地球温暖化問題などいろいろありますが、改憲問題も重要な争点です。いや、重要な争点というより、根本問題といった方が良いかもしれません。

 改憲が、アメリカが行う戦争に日本を参加させようとするアメリカの圧力によって進められてきたことはご存知の通りですが、今、私たち日本国民を苦しめている問題も、その大半がアメリカから押し付けられた問題です。改憲も、「構造改革」も、生活危機も、根っこは同じなのです。

 改憲を推し進めようとしている政治家は、アメリカべったりの市場原理主義の立場で経済のルール、福祉や医療、そして食料までもアメリカの言うがままに「改革」してきました。ですから私たちは、今度の総選挙では改憲問題を根本問題としてとらえ、改憲NO!の審判を下す必要があると思います。皆さん、ぜひ考えてみてください。

 ところで民主党は、早期解散を求める党略から、こともあろうに新テロ特措法延長法案の早期採決に応じました。まるで憲法破壊の連係プレーのようです。この民主党の姿勢は、厳しく批判されてしかるべきです。

11月4日の米大統領選に注目! しかし……

 11月4日には、全世界注目のアメリカ大統領選挙が行われます。最近の世論調査では、民主党オバマ候補が優勢のようです。世界の平和と経済ルールを壊し続けたブッシュ政権からの「チェンジ」に期待する人も多いでしょう。日本への海外派兵圧力や改憲圧力が強まったのも、ブッシュ政権になってからですから。

 でも、オバマ政権になったらこうした圧力は消えるのでしょうか。今年3月27日、全労連会館で行われた「派兵恒久法学習集会」で、渡辺治さん(一橋大学教授)はこのように語っていました。
「私はいろいろ変化することはあっても日本の自衛隊を海外派兵させ、一緒に戦えという要求は消えることはないと思います」
「オバマは今のところタイムスケジュールも出して(イラクから)撤兵すると言っていますが、私は難しいと思います。アメリカの権益を放棄しなければできませんから。オバマ政権になっても、中東和平に本格的に手をつけ、イスラエルを屈服させて、パレスチナの独立国家建設を認め、イラン、シリアを含めて、中東の平和保障の体制をつくらなければアメリカは撤退できません。しかもアメリカは、大規模地上軍撤退ののちもイラクに米軍基地を建設して米軍駐留を継続することは確かです。ですから撤退はできないと思います」
「ではアメリカの世界戦略は全く変わらないのかというと、民主党政権になったら、間違いなく世界戦略の一定の手直しはあります。アメリカの財政赤字も経済不況も非常に深刻化している。まず大統領はこの問題に手を付けなければいけない。そうすると、歴代のアメリカ政権と同じことで、世界各地の米軍の直接介入をできるかぎり同盟国に委ねるという路線が打ちだされる公算が強いと思います」
「同盟国として残るは、NATO諸国と日本です。これに任せざるを得ない。民主党政権の場合には、より強くこの方針が出てくると思います。東アジアについての軍事的なプレゼンスを強化しろというアメリカの圧力は大きくなるのではないでしょうか。市場解放と構造改革を進めろという経済的圧力とともに、日本の自衛隊の海外派兵、特に『不安定の弧』と言われてきた、アフリカの角から中国大陸、朝鮮半島に至る広大な地域について、日米共同作戦、そのための自衛隊の派兵要求というものが、民主党政権の場合にはむしろ強くなってくる。経済的な圧迫とミックスされて出てくるので、日本の場合には、相当に強い派兵圧力になる。アメリカ頼み、オバマさんだったら良くなるかもしれなというようなことは、絶対にありません。私たちが自力で、解決をしなければいけないということになります」
──どうですか。この渡辺教授の分析は、的を射ていると思います。民主党オバマ候補が優勢だからと言って、自衛隊海外派兵恒久法に反対する闘いを緩めるわけにはいきません。

【お薦め映画紹介】 日本映画にもっと現実への“怒り”を 「花は散れども」と「闇の子供たち」

山田和夫(映画人九条の会代表委員/映画評論家)

 新藤兼人監督が95歳(現在96歳)で完成した新作「石内尋常高等小学校・花は散れども」が話題になっている。多くのメディアが日本映画界最長老の現役監督へのオマージュを捧げ、おどろくべき監督の“若さ”“パワー”をとくに強調しているけれど、私は新藤監督が生涯一貫して追い求めてきた自己主張がこの老境の新作にも、しっかりと光り輝いていることに注目。監督自身が学んだ広島県農村の小学校教諭の回想で、とりわけ少年時代の監督が出る小学校の教室で、先生(柄本明)が居眠りする生徒をどなりつけるシーンがある。その生徒は家の農作業を手伝い、満足に寝ていないからとわかると、先生は即座に手をついて生徒に詫びた。最近話す機会があった東京都教職員組合の先生方が、このシーンに感動、「いま、ああいう先生がいなくなったんですよ」と語った。新藤監督が昔をなつかしむ回想は、見事に今日の教育現場と響き合っていた。

 その先生が定年退職することになり、昔の生徒たちが謝恩会を開いた。新藤役/良人(豊川悦司)はもうシナリオ作家になっていて、小学校時代に仲の好かったみどり(大竹しのぶ)は謝恩会の会場となった料亭の女将に。再集合したのは16人。一人ひとりがあいさつを兼ねて戦争をはさむ自分の生き方を語る。ここに監督の一番強い思いが込められ、一人ひとりのクロースアップを押し出し、明確に戦争体験を披露させる。半面をケロイドでおおわれた被爆者もいる。このとき、あっ、この映画は新藤版「二十四の瞳」(いや、16人だから「三十二の瞳」かも)だったんだと胸に落ちた。このあと、良人とみどりの恋愛エピソードが入り、先生の死で回想を閉じる。

 忘れ得ぬ恩師への追憶でありながら、そこに人間の生きざまが込められ、戦争と平和への抑えがたい怒りがうずく。それがこの老巨匠の新作の本当の“若さ”と“パワー”の根源であると思う。私はそう見る。

 この新藤作品の大きな力、“怒り”への主張を思い切って突出させたのが、坂本順治監督の「闇の子供たち」(原作/梁石日)である。

 江口洋介のバンコク駐在記者、現地で福祉活動に献身する宮崎あおいの若い女性らを主人公に、タイ社会の闇に切り込む。そこで行われている恐怖の子ども虐待を即物的に直視する。貧困家庭の子どもたちがマフィアの手であつめられ、監禁状態で外人観光客に性的サービスに従事させられる。主として欧米白人の醜悪な肉体と、徹底した差別感情なくしてはあり得ないような幼児暴力。目をおおうシーンがいくつもあり、私は二度と見ることは遠慮したいぐらい。そのような行為に日本人も加わっている。さらに幼児の臓器売買が登場し、日本の高級サラリーマンが心臓移植を求めてタイの貧しい子どもの命をあがなう。死体からの移植ではなく、生体から! つまり日本の子どもの生命の代償としてタイの子どもが一人生命を奪われる。そんな恐ろしいことまで行われていた。それを坂本順治はまじろぎもせず直視し、ためらうことなくリアルな映像で告発する。

 いま日本では「貧困」と「格差」が流行語のように使われている。実は「貧困」と「格差」の真実は、この映画のように二度と見たくなくなるほど醜悪な地獄絵図である。タイの国内でも「貧困」とは縁のない富裕層は外人観光客並みのぜいたくを楽しんでいるに違いない。しかしそれを支えるのは、彼らに搾取される人たちとの「格差」である。その上部にかつてタイを支配した日本や欧米の植民地支配者的富裕層がある。そして幼い子どもの生命を金で買うビジネスさえまかり通る。私たちはこのすさまじい闇の映画に、それを見すえ、告発する坂本順治たちスタッフの激烈な怒りを感じざるを得ない。

 いま日本映画界には、さまざまな世代の映画人による“愛”“やさしさ”“涙”“いやし”の作品が溢れている。いずれも大切な映画のありようだが、これだけ多くの腹立たしいこと、理不尽な現実が眼前にあるとき、日本映画にあまりに少なすぎるのは、このような“怒り”である。

【情報コーナー】

10月24日(金)、九条の会東京連絡会発足集会
 東京には800以上の九条の会があると言われていますが、10月24日(金)18:30から、東京・豊島公会堂(みらい座いけぶくろ)で「九条の会東京連絡会発足集会」が行われます。伊藤真さん(伊藤塾塾長)、アーサー・ビナードさん(詩人)、小森陽一さん(九条の会事務局長)が賛同のあいさつをする予定です。参加しませんか。
11月24日(月)、九条の会第3回全国交流集会!
 九条の会は11月24日(月・祝日)10:30から、日本教育会館で第3回全国交流集会を行います。映画人九条の会も2〜3名が代表として参加し、スタッフとしても参加します。
地球温暖化問題DVD「地球の温暖化をとめて」が完成
 私たち人類にとって待ったなしの課題になってきた地球温暖化。その深刻な事態とメカニズムを明らかにし、日本で二酸化炭素削減が進まない原因、どうすれば温暖化を防止できるか、までを明らかにした地球温暖化問題の入門&決定版DVD(18分)が完成しました。地球温暖化問題の本質に切り込んだDVDは、この作品が初ではないかと思います。
 製作は「公害・地球環境問題懇談会」(JNEP)で、映演労連が製作協力しています。「11・6映画人九条の会4周年の集い」でも上映しますが、全国の映画人九条の会の皆さんにはぜひ見ていただきたい作品です。
 DVD(頒価1,000円)の申し込みは、〒160-0022 東京都新宿区新宿2‐3‐1 サニーシティ新宿御苑10F 公害・地球環境問題懇談会 FAX 03-3352-9476 MAIL:info@jnep.jp

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