映画人九条の会Mail No.22

2007.07.20発行
映画人九条の会事務局

目次

参院選、九条を守る力の前進を!

映画人九条の会運営委員会は、7・29参議院議員選挙に当たって、映画人九条の会の皆さまに以下のことを訴えます。

 「5年以内に憲法を改正する」ことを公然と掲げて誕生した安倍政権ですが、その安倍政権の初の国政選挙である参院選が、いま闘われています。

 ウルトラ右翼政権と言われた安倍政権は、誕生以来、教育基本法を改悪し、改憲手続き法の制定を強行するなど、国民無視の強硬路線をつき進んできました。

 しかし安倍政権は、昨年12月には政府税制調査会の本間会長、佐田内閣府特命担当大臣が辞任、今年1月には柳澤厚生労働大臣が「女性は産む機械」と発言、5月には松岡農林水産大臣が自殺、年金記録消滅の大問題が浮上し、6月には自衛隊の国民監視活動が発覚、7月には「原爆投下しょうがない」発言の久間防衛大臣が辞任、また赤城農林水産大臣の実態のない事務所の経費計上も発覚するなど、発足わずか9ヶ月でボロボロの状態となっています。

 それでも安倍政権は、年金問題や大臣任命の責任などをあいまいにしたまま、参院選の争点として「憲法改正」を掲げて、暴走を加速させています。

 自民党はマニュフェストのトップに、「平成22年の国会において憲法改正案の発議をめざし国民投票による承認を得るべく、新憲法制定推進の国民運動を展開する」と掲げ、自民・公明の連立与党重点政策では、「新しい時代にふさわしい憲法をめざす」として、「平成22年以降の国会を視野に入れ、次期国会に衆参両院に設置される『憲法審査会』の議論を深め、同時に、憲法に関する幅広い国民的な議論を深めていく」との政策を掲げています。

 また民主党は、参院選の主要公約では憲法問題に触れていませんが、マニフェスト各論では「自由闊達な憲法論議を」として、「現行憲法に改めるべき点があれば改める」立場を打ち出しています。

 参議院議員の任期は6年ですから、今度の参院選で選出される参議院議員は、安倍政権が「憲法改正」を強行しようとした場合、「憲法改正」の国会発議に関わることになります。その意味でも今度の参院選での一票は、日本という国の針路を決める重大な一票となるのです。

 しかも安倍首相が「憲法改正」論議の基本としている自民党の「新憲法草案」は、憲法の一部改正のレベルではなく、九条改憲を中心に国の仕組みの根幹を変えてしまおうとするクーデターにも等しい「新憲法制定」案ですから、ことはいっそう重大です。

 映画人九条の会の皆さん、今度の参院選では、候補者や政党の主張をよく聞き、よく見極めて、憲法九条を守る力を応援し、必ず前進させようではありませんか。私たち映画人九条の会は、今度の参議院議員選挙に当たって、そのことを心から訴えるものです。

2007年7月20日
映画人九条の会
(2007年7月3日、映画人九条の会運営委員会)

3年後をにらんだ憲法闘争の構築をどうするか ──会員の皆さまのご意見をお寄せください──

 改憲手続き法を強行成立させた安倍内閣は、改憲手続き法が発動される3年後(平成22年/2010年)に改憲を国会で発議し、国民投票にかけることめざす、と公言しています。改憲が政治日程化されたのです。

 こうした情勢を踏まえて映画人九条の会運営委員会は、3年後をにらんだ憲法闘争の構築をどうするか、議論を開始しました。「どうしたら国民的な共同闘争の輪が作れるのか」「映画人九条の会として、外に向かった運動をどうしていくか」「各地に映画人九条の会が作れないか」「小学習会を継続して行おう」などの意見が出され、熱い議論が闘わされていますが、会員の皆さまもぜひご意見をお寄せください。よろしくお願い申し上げます。

「美しい国」とは「憲兵」政治の「おそろしい国」! ──自衛隊の国民監視活動に直面して──

山田和夫(映画評論家/映画人九条の会結成呼びかけ人)

 去る6月6日、日本共産党は自衛隊関係者の内部告発にもとづき、「自衛隊情報保全隊」の報告書一部を公表した。自衛隊が広範な諸団体や個人の行動を監視し、報告書にまとめ、対策を講じていること、つまり国民を守るはずの自衛隊が国民を敵視し、その行動を逐一スパイ的に調査していることが明らかになり、さすが一般メディアもこぞってこの問題を重大視した。しかし、久間防衛大臣(当時)はじめ政府当局者は事実を認めながら、「当然のこと」と開き直った。このような自衛隊の活動は、憲法の規定する国民の基本的人権を侵害するだけでなく、自衛隊法などの緒法律にも違反している。

 私たちはこのことが明るみに出たとき、すぐさま思い浮かべたのは、「憲兵」という言葉。防衛庁が防衛省に昇格、次は自民党新憲法草案のいう「自衛隊」の「自衛軍」化を警戒していた矢先のことである。「自衛軍」になれば、その機構の一つに軍事裁判所(軍法会議)が出来、それと連動する軍独自の司法機関=「憲兵」が公然と活動をはじめる。この「憲兵」なる存在こそ、治安維持法によって国民の基本的な人権を徹底的にじゅうりんした警察の「特別高等警察」(いわゆる「特高」)とともに、国民にとっては日常的に生活を監視し、脅かす恐怖の存在であった。

 そして「憲兵」は天皇の軍隊直属、強大な武装力を持つ暴力装置(軍隊)をバックにして行動するだけに、「特高」以上に問答無用の独裁的権力を握った。私たちはその実際を思いもかけず、アメリカ映画で見た。クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(2006年)である。

 硫黄島を守備する兵士たちは、本国から送り込まれた憲兵出身の兵士をそろって警戒した。いささかでも軍隊や戦争に批判的な言辞を弄したら、直ちに密告されるからだ。しかし、当の兵士はあるとき、意外な事を告白した。彼は日本にいたとき、上官とともに市内巡察に出た。上官は言った。「日の丸を出していない家は非国民だ、行って警告しろ」。彼はすぐさま日の丸を出していない家を訪れ、家人に注意した。家人はあわてて日の丸を出した。その家の犬が吠えたてた。上官は「あの犬を始末せよ」と命じる。彼はやむなくその家に戻り、拳銃の音だけ聞かせ、「始末しました」と上官に報告する。二人が戻りかけるとまた犬が吠えた。上官は激怒して彼を殴打し、自らその家に戻り犬を射殺した。幼い子どもを含む家人たちのおどろきと嘆きは、胸に痛い光景だった。

 いま東京都で石原都政下の教育委員会は、「日の丸・君が代」に起立しない教職員を不当に処分する蛮行を続けているけれど、その行為は上記のような戦時中の「憲兵」の暴挙と少しも変わらない。「憲兵」はそのような心なき行動を平気でやる。そして「特高」以上に国民の自由な言論・行動を抑圧し、逮捕・投獄・拷問の不法を日常的とした。その「憲兵」の基礎的な仕事こそ、国民を敵視し、ひそかに団体や個人の発言や行動を監視し、必要に応じて直接行動でこれを抑圧する。今回の「自衛隊情報保全隊」の国民監視活動は、実質的に「憲兵」政治の実行である。

 私たち日本映画界の民主的な再生を願うものには、表現と言論の自由は創造と普及と鑑賞のゆたかな発展にとって、映画の生命にひとしい。イラクへの陸上自衛隊派兵に対し、「黄色いハンカチ」運動が奨励されたとき、毎日新聞社が「幸福の黄色いハンカチ」の山田洋次監督にコメントを求め、監督は「それは違うんだよね」と控え目に答えたことも「自衛隊情報保全隊」の「反自衛隊的活動」に分類されていた。こんなことも言えないような環境で、自由で創造的な映画芸術が生まれると思っているのだろうか?

 事態はここまで来ている。久間防衛大臣はその直後、「原爆投下はしようがない」発言で辞任し、後任に安全保障担当の首相補佐官・小池百合子が就任した。小池新防衛大臣は、とっくに「日本核武装容認論」で物議をかもしたタカ派(靖国派)の1人だ。そして安倍首相は参院選挙の公約として、3年後に改憲を発議するタイムスケジュールまで発表した。彼の言う「美しい国」は、間違いなく「憲兵」政治の「おそろしい国」になるのではないか。 (2007年7月17日)

【お薦め映画紹介】 『TOKKO 特攻』 (ドキュメンタリー) ──日系二世が見た、究極の特攻──

羽渕三良(映画人九条の会運営委員/映画評論家)

 7月29日を投票日として、いま行われている参議院選挙に、安倍自民党は「マニフェスト」の公約の第一に、改憲を明記している。

 映画分野では、この5月、6月、政治的テーマ・特攻を描いた二つの映画が、公開上映された。一つは、石原慎太郎製作・総指揮・脚本の映画『俺は、君のためにこそ死にいく』、もう一つは、井筒和幸監督の『パッチギ!LOVE & PEACE』。前者は、死んでいった(殺されていった)特攻隊員に対して、「素晴らしか、美しか」と賞賛し、戦前・戦中への回帰を狙った作品。後者は、映画の中で、『太平洋のサムライ』という映画制作のストーリーを取り入れ、在日韓国人の若い女性が、特攻で死んでいく恋人に、「お国のために死んでください」というセリフは言えないと拒絶、かつ「戦中、徴兵から南の島に逃れ、生きのびた父を誇りに思。その父が生きのびて、私が生まれ、生命がつながっています」という。石原映画とは対極にあるものだった。

 さらに、この7月、同じ「特攻」をテーマに、日系二世の森本リサさんが『TOKKO・特攻』(原題『Wings of Defeat(敗北の翼)』/ドキュメンタリー)を制作。この作品が7月21日(土)から、渋谷シネ・ラ・セットその他順次公開で、上映されている。

生存している特攻隊員は語る──「生きたかったよ」「死にたくなかったよ」

 森本リサさんのこの映画制作の動機は、特攻について、前述の『君のためにこそ』のように、哀悼の意を捧げる考え方や、他方、“KAMIKAZE”といって狂信的な象徴のようにも言われるが、リサさんの神戸に住んでいた元特攻の叔父は、そういう風に見えなかった、として──。そこから、元特攻隊員の生存者や叔父を知る親族などへの取材の旅を、彼女は始める。

生存者が突撃直前に想っていたことは、一体何だったか

 「ラジオを持っていましたから、アメリカが発表する特攻による死者の数と、日本軍が明らかにする死者の数の違いもわかっていました」「エンジンが故障し、(生きたかったから)相棒と話し合って『引き返そう、帰ろう』と引き返し、辛くも生還、戦後を生き抜いてきました」「一言で言えば、『生きたかったよ』『死にたくなかったよ』ということです」「本当に死にたくなかった。生きたかったんだよ」。

 エンジンが故障し、日本本土から75キロ南の黒島沖に不時着し、島民から芋をもらって生き延びた江名武彦氏は、今日、黒島の戦己慰霊式に出席し、次のように語っている。「特攻について謙虚に語らなくてはならない」「国の対立の手段として戦争はしてはならない。人類の英智で解決しないと、この地球はもたない」。

天皇と特攻について、踏み込んでいる

 天皇と特攻作戦とは、どういう関係にあったのか。興味深いところ。この作品は、そこに踏み込んでいる。1944年、レイテ海戦での大西瀧治郎中将が創始の特攻作戦を実行。ここの所をこの映画は、大西中将が「ここまでやれば、天皇が戦争をやめるのではないか」と考えていたことを紹介する。その中将の想いとはあべこべに、天皇は「特攻はよくやった」という言葉を、指導指揮官が隊員に伝達することをも紹介。これは、日本映画では、まったくといってよいほどに見られないし、聞かれないことだ。

 そしてこの映画は、日米双方の貴重な記録フイルムとニュース映像を駆使して、アジア・太平洋戦争は、白人からのアジア人の解放でなく、「自存自衛」の侵略戦争であったこと。日本国内にあっては、明治以来の教育による好戦的洗脳、耐乏生活の強制などを描出。さらに、ジョン・ダワー(アメリカの代表的な日本近現代史研究者/『敗北を抱きしめて』の著者)や、日高恒太郎(元特攻隊員取材のジャーナリスト、『不時着』の著者)などのコメントで編集している。

 ジョン・ダワーは、国体維持・本土決戦に向けて、「特攻を国民のお手本」とし、「国民のモラルとした」と指摘する。

 安倍政権は、日米同盟の価値観の共通認識を強調してきたし、しているが、米下院外交委員会で採択された「慰安婦」問題決議に見られるように、アメリカとの重要な問題での価値観の不一致が明るみになっている昨今。日系二世の女性映画作家がアプローチする、アジア・太平洋戦争観と、特攻への本質と実相に迫るこのドキュメンタリーは、見逃せないのではなかろうか。

【情報コーナー】

BE BRAVE!7・31マッスルミュージカル支部支援の集いに
 超絶パフォーマンスショーで人気のマッスルミュージカルで、一方的な賃金カット・組合脱退強要・職場排除・舞台降ろし・労災隠しなど、信じられない事件が起こっています。パフォーマーや実演家の人権を無視するワンマン経営者の卑劣さに、映画人としても怒りを禁じえません。
 7月31日(火)18:50から、東京都文京区・全労連会館で行われる「BE BRAVE!7・31マッスル支部支援の集い」に参加して、マッスルの仲間を励ましましょう。マッスル組合員のパフォーマンスも見られます。詳しいことは映演労連まで(電話03-5689-3970)。
11月24日に「九条の会第2回全国交流集会」
11月24日は、映画人九条の会の結成3周年の日でもありますが、九条の会は「第2回全国交流集会」(東京・日本教育会館)を行う予定です。詳細は後日ご報告します。

映画人九条の会事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷2-12-9 グランディールお茶の水301号
TEL 03-5689-3970 FAX 03-5689-9585
Eメール: webmaster@kenpo-9.net