【講演録】 ★映画人九条の会6周年の集い・記念講演★

民主党政権の危ない防衛政策と憲法

講師・山田 朗(明治大学教授)

2010年12月3日(金)/東京・文京シビックセンター5階・区民会議室C

イントロダクション

 皆さん今晩は。ご紹介頂いた山田です。映画人9条の会6周年、おめでとうございます。私はこれまで何回かこの映画人九条の会でお話させて頂いていますが、私が登場する時はたいてい情勢が良くない時と申しましょうか、改憲の危機が迫っているとか、そういうような時ばかりでして、私の出番が無い状況の方が良いわけです。(笑い)
 今回は民主党政権の防衛政策と憲法ということでお話をしますが、この間に中国との関係が悪くなったり、朝鮮半島の情勢が不穏であったりというようなことがありますが、いったい民主党政権の防衛政策にはどういう特徴があるのか、ということを改めて考えたいと思います。
 実は民主党政権になってから、それ以前もそうだと言えばそうなんですけども、軍需産業の圧力が、新たな分野に活路を見出したいという──非常に不況の時期ですから兵器産業をもっと振興させよう、という動きが確実に出てきています。現在も「武器輸出三原則」を変えようという動きが強まっており、その中でこんな理由付けがされています。「日本の国産武器は非常に高価である。これをコストダウンすることによって国民の負担が減る。だから兵器のコストを下げるためには、輸出を認めるべきだ」という議論です。
 国民の負担が軽減するという、美味しい話がぶら下がっているわけですが、「武器輸出三原則」というのは、後でも話しますが、あらゆる武器の輸出を禁止している原則ではありません。しかし現在では、紆余曲折があって武器輸出をしない、という原則になっているんですね。その理由が重要なんです。詳しくは後でも話しますが、まさに憲法9条の精神によって支えられているのが、この「武器輸出三原則」でありまして、その改定をめざすというのは、やりようによっては9条の根本的な理念を崩壊させる恐れがあります。

自民党政権の防衛政策の基本的な継承

 改めて民主党政権の防衛政策の特徴点を見ると、自民党政権とあまり変わらないということです。これが民主党政権の特徴と言えるかどうかは判りませんが、かなりよく似ています。基本的なところは全て継承しているということなんです。民主党からすればもう少し変わっても良さそうな部分もあるのに、基本的な骨組みは変わらない。
 まず一番目に、在日米軍を抑止力とみなしているという安全保障観は、全然変わらない。ですから普天間基地問題も、基本的に自民党時代にできた日米合意をさらに強行しようとしているということがあります。
 それから、弾道ミサイル防衛や宇宙の軍事利用、これについては民主党政権に代わるちょっと前に自民党政権が強く打ち出したことです。弾道ミサイル防衛は、なんと言っても北朝鮮の核兵器、あるいは弾道ミサイルに対抗するということで始まった防衛構想です。もう一つは宇宙の軍事利用ですが、これは民主党政権に代わる直前に宇宙基本法というものができました。それまでは国会決議によって「日本の宇宙開発は平和利用に限る」という縛りがありました。ところが、それがあっさり覆され、防衛目的のための宇宙開発は認める、という具合に原則が大きく変わったんです。
 具体的に言うと、軍事偵察衛星を配備するとか、軍事通信衛星、これが実は具体的な要求としては非常に強かったと言われています。イラクに自衛隊が派遣され、派遣されたイラクの自衛隊が日本の防衛省や国内の自衛隊まで直に連絡する時に、専用の軍事通信衛星が無いとやりづらい。民間衛星が使うに当たっては、容量が限られるなど非常に使いづらいという問題があるそうです。自衛隊が海外に展開するようになって、特にイラク派遣によってその必要性が叫ばれるようになりました。
 また、弾道ミサイル防衛とも関連して、軍事偵察衛星を打ち上げて、北朝鮮がミサイルを発射した瞬間に直ぐに対応できるように、宇宙から見張っていたいということになりました。(ミサイルが)打ち上げられてからレーダーでそれを追おうとしても、しばらく上昇して来ないと判らないんですが、宇宙から偵察していれば、発射の瞬間に判るんです。ですから、そういう意味からも軍事偵察衛星を配備したいということです。
 現在でも、商業用衛星でミサイルが発射したことは判るんですが、もっと厳密、詳細なデータが欲しいのだと思います。打ち上げが判るというレベルではなく、さらに打ち上げ前の細かい様子まで、例えばミサイルに燃料注入が始まったとか、そうした細かいデータまで整えようとすると、軍事衛星が必要だということなんだと思います。この路線は自民党政権時代に敷かれたものなのですが、全く見直されることなく、仕分けにかかることもなく、ずっと継続され、むしろ促進されている感じがします。

「従来型の更新」と言って、護衛艦が軽空母に

 また、非常に象徴的なこととして、自民党政権時代に始まった海上自衛隊の艦艇リニューアルがあります。中でも目立っているのがヘリ空母の建造路線で、これがはっきりと継承されているということです。具体的には資料の【写真1】ですが、これは自民党政権下で建造された「ひゅうが」型ヘリ搭載護衛艦というものです。従来の駆逐艦型のヘリ搭載護衛艦は、ヘリコプター3機を積み、5千トンの排水量でした。この護衛艦を更新しますといって出来たのが、排水量1万3500トンの「ひゅうが」型ヘリ搭載護衛艦なんです。
 これは、一応公式にはヘリコプター5機搭載となっていますが、機能的には10機は積めると言われています。ヘリコプターも積んでいる護衛艦、ということになっています。護衛艦は記号で「DD」と記されていますが、デストロイヤー(Destoryer)、国際的には駆逐艦の略なんです。つまりヘリコプターも積んでいる駆逐艦ですよ、という範疇なんです。しかし、これはどう見てもヘリコプターも積んでいる駆逐艦というより、ヘリコプターの運用を中心とする“軽空母”であると言わざるを得ない。国際的に見ても1万トンを超える駆逐艦は歴史的にも無いはずで、ここまで大きなモノは駆逐艦ではなくなっちゃうわけです。
 この「ひゅうが」型ヘリ搭載護衛艦が出来、現在はこれの2番艦が建造中です。すでに進水式も終え、名前もついています。「いせ」という名前です。1番艦が「ひゅうが」、2番艦が「いせ」。この名前、実は旧日本海軍が持っていた戦艦の名前なんです。但し、順番が逆で帝国海軍の時代は「伊勢」が先で、2番艦が「日向」でした。これは明らかに帝国海軍の名前の付け方を伝統的に踏襲している訳です。
 「ひゅうが」とか「いせ」というのは旧国名ですね。前近代の「○○の国」という、長門だとか武蔵、陸奥といった旧国名を戦艦の名前につけるということが旧海軍ではありました。海上自衛隊では従来、旧国名というのは付けたことがなかった。ところが遂に、踏み切ったんです。つまり、今までのある種のタブーを破って、旧海軍時代に戦艦につけていた名前を「ひゅうが」型から始めた。
 実は、この「ひゅうが」は、「はるな」型ヘリ搭載護衛艦の代替艦として作られました。「はるな」(榛名)は山の名前です。山の名前というのは、旧海軍では重巡洋艦か巡洋戦艦など正式な戦艦よりも下のランクにつけられていた名前です。現在、海上自衛隊では山の名前を「イージス艦」に使用しています。「こんごう」(金剛)とか「みょうこう」(妙高)とか、イージス艦クラスの大きな護衛艦に山の名前を付けて、さらに大きいヘリ搭載護衛艦には遂に国の名前を使用した。これは旧海軍と全く同じやり方なんですね。となれば、次に出てくるのは何か、ということになります。
 現在、民主党政権下で計画が進んでいるのは、資料の【図1】にある「22DDH」。これは平成22年度予算で承認されたDDH、DDは駆逐艦を示し、Hはヘリを示す記号です。これを見ると、「ひゅうが」型がさらに大型になっており、「ひゅうが」は1万3500トンで海上自衛隊で最も大きい艦なんですが、「22DDH」に至っては1万9500トンで、全長248mとなっています。
 ここではヘリ9機搭載と書いてありますが、いつも最初は控えめな発表をするんですね。「ひゅうが」も最初はヘリ3機搭載ということで発表されていました。元々「はるな」がヘリ搭載3機で、これを引き継ぐ形だから3機だということで発表し、出来あがる寸前になると5機ですとなって、出来あがってみたら10機は積めますという具合に段々と大きくなる。この「22DDH」も、発表段階で9機ですから、実際には12機ほど積めるのではないかとも言われています。
 2万トン近い船になったということは、単に「ひゅうが」型が更に大きくなったというだけでなく、さらに機能がプラスされているんです。ところで、「22DDH」は建造中で進水式も迎えてないので名前が未だないんですが、これを皆さんも予想すると面白いかもしれません。「いせ」「ひゅうが」よりも大きいクラスとなると、帝国海軍で言うところの「長門」「陸奥」クラスになるんですね。まあ「大和」「武蔵」はさすがに付けないと思いますが、「長門」なんて付いたらすごいですね。すごいというか、全く日本海軍と同じですから。

22DDHは、ヘリ空母として上陸作戦などの拠点に!?

 実は「ひゅうが」型の場合は、「海上交通の安全確保のために」という予算請求の理由ついていました。今度の「22DDH」は、「海上交通の安全確保」プラス「洋上拠点となる輸送機能」という理由が加わっています。輸送機能を持たせるということは、これまで3隻作られてきた「おおすみ」型輸送艦(8900トン)の機能も加わったということです。物資や兵員も輸送するし、ヘリ空母として洋上の拠点となり、さらに海上交通の安全確保、つまり対潜水艦制圧ということなんです。潜水艦を制圧しながら、同時に洋上拠点として物資の輸送や上陸作戦などの拠点ともなるという考え方ですね。
 もう一度【図1】の、防衛省の発表のイメージ図を見ると、「大型車両・大型ヘリ等の輸送能力」と書いてあります。大型ヘリを輸送するのは、ヘリ空母ですから当たり前かも知れませんが、わざわざ「大型車両」と書いてあるところ──これは今まで「おおすみ」型輸送艦が担っていた「戦車」等の輸送ということです。
 そうなると、これはどうなるのか。大きな車両輸送であってもヘリで移動できる程度の車輛なら良いのですが、戦車はヘリでは運べませんから、「おおすみ」のようにホーバークラフトを積むと言った選択肢もでてくるのかと思います。イメージ図は普通は前から書くので、後ろ側が隠れて判らないのですが、軍事的には後ろ側がどうなっているのかが大事なんです。つまり、後ろ側が開いて、中から上陸用のホーバークラフトが出て来るということになると、相当に強力な軍艦ということになります。これは上陸作戦において「おおすみ」が半分担っていた役割ですが、攻撃力も併せ持つ、米軍で言うところの強襲揚陸艦というタイプになりつつあるのかも知れません。
 「22DDH」の基本設計はできているんでしょうが、どういう強化をさらに付加するかは、世論が大事なんです。つまり世論の反対が強ければ、ちょっと変わる可能性も出てくるんです。見せていない部分は、世論の反対が強くなければここまで行っちゃおうという計画があると思うんです。民主党政権ができてすぐに「22DDH」の予算が防衛省から要求され、それがすんなり通ってきたんです。
 こう考えると、基本的には兵器体系の構築という点でも民主党政権はあまり独自性を出していない、自民党政権が敷いたレールで走っていて、場合によっては更に強化されているということです。

防衛予算も自民党政権時代と変わらず

 防衛政策を探るに当たって何処を見ると判りやすいかというと、やはり予算です。どういう点に予算が配分されているか。民主党政権は仕分けなどをやって、色々と政治主導で予算配分を変えるんだという意志表示をしていますが、しかし主だった防衛予算というのは仕分けの対象になっていません。
 中身を見ますと、平成22(2010)年度の防衛予算というのは、少し減って、前年度比0.4%減の4兆6826億円です。一般会計の歳出では5.1%を防衛予算が占めています。前年度比では0.2%減と一般会計に占める割合もちょっと縮小しています。
 防衛予算が減っているということで、自民党政権と違うカラーを出しているかと思いきや、実はしかし、GDPに占める軍事費の割合は、1%を超えるかどうかがこれまで議論になっていたんですが、0.985%と前年度比では若干プラスです。また米軍再編経費は前年度比50.98%増ということで、ここはかなり重視された配分となっています。ここでも自民党と比較して、それほど大きな特色が出ていないということなんです。
 重点項目を見てみると、「弾道ミサイル攻撃とか特殊部隊攻撃、島嶼(しょ)部における事態への対処」という、これもずっと自民党政権下で言われていたことの踏襲です。「平素からの常時継続的な警戒監視・情報収集」「大規模・特殊災害への対応」と続いています。この特殊災害とは、化学兵器による攻撃などを想定したものです。災害と書いていますが、化学兵器あるいは生物兵器による攻撃への対応です。「宇宙関連施策・サイバー攻撃への対処能力の強化」というのも、おおよそ従来から言われていたことです。
 そういう点で言うと、自民党政権の防衛政策の基本的な継承ということと、自民党時代に重点だぞ、と言われていたことまでが、ほぼそっくりそのまま重点項目としてやはり継承されているということが言えます。先ほど言ったように、防衛予算全体としてはちょっと減っていますが、これは主な省庁予算も圧縮されつつあって、別段特色を出したとは言い難いわけです。

軍需産業の要求が露骨に

 少し気をつけなければいけないのは、この間に弾道ミサイル防衛や宇宙の軍事利用、そして武器輸出三原則がすごく焦点化されていて、これはまさに防衛産業、軍需産業の要求というものが露骨に出てきているということです。明らかに背景にある軍需産業の要求というものを見ておかなければいけないと思います。
 軍需産業というと、日本ではあまりイメージされません。アメリカでは軍産複合体と言って軍需産業がすごく強大な力を持っているイメージがありますが、軍需産業はアメリカに限らず非常に強靭というか、強い生命力があるんです。
 極端なことを言えば、国が滅びても軍需産業は滅びない。大日本帝国や旧日本陸海軍は崩壊しましたが、三菱重工は今もある。中島飛行機がなくなったかというと、富士重工として残っているんです。ナチスドイツは滅びてもクルップ社は残っているという具合に、戦争の勝ち負けに関係なく、負けたとしても軍需産業というのは消えないんです。これは日本でも、ドイツでも、イタリアでも同じです。こうして考えると、軍需産業のしたたかさ、強靭さというのは、私たちがあまりイメージを持っていない部分です。しかしここは重要なところです。
 防衛予算というのはおよそ5兆円弱ですが、人に消えるお金とモノに消えるお金で考えると、ちょっとモノに消えるお金が多くて55.5%が物件費です。人件費として消えるのが44.5%。主として軍需産業に支払われるお金が1兆円規模です。1兆円という産業規模はそれほど大きいとは言えないかも知れませんが、決して小さな額でもありません。
 防衛省発注総契約額として、年間1兆3千億円前後が軍需産業に流れて行きます。三菱重工、三菱電機、川崎重工が上位三社です。三菱電機と川崎重工は時々順位が入れ替わりますが、三菱重工は不動の1位です。三菱重工は例年2500億円前後の受注で、2位、3位は1000億円前後ですから、ダントツの受注額なんです。なにせ三菱重工は戦前からの総合的な日本を代表する兵器メーカーで、「ゼロ戦」から「武蔵」まで作った実績があるわけです。
 2009年度の契約金額上位20社を見ると、三菱重工、三菱電機、川崎重工、日本電気、富士通。その後には東芝も入っているように、電気メーカーが結構入っているんです。これは、兵器がほとんどコンピュータによって制御されているということなんですね。こうしたIT関係企業が上位に食い込んでいます。それから伝統的な重工ですね、三菱重工、川崎重工、小松製作所、日立製作所など。三菱商事や中川物産というのは、外国から武器購入をしますので、こうした商事会社も入って来ます。それと燃料としての石油関連ですね。あと自動車メーカーがあり、当然ながら造船関係ですね。これは、入れ替わりもありますが、だいたい上位は変わらないですね。
 軍需関係は財界団体がいくつかあって、日本経団連の防衛生産委員会とか、日本防衛装備工業会、日本航空宇宙工業会、日本造船工業会。こういった業界団体は正面装備の予算が減っていることを非常に憂いて、毎年政府や自民党、民主党に陳情を繰り返しています。
 特に弾道ミサイル防衛というのは、軍需産業だけでなく民生関係の産業も潤すということで、かなり期待されています。どういうことかと言うと、純粋に軍需的な技術でなくても、弾道ミサイル防衛等は民生用として開発された技術を取り込んでいるんですね。そういう点では、元々日本は戦後、軍需産業が小さくなったので、民生分野で技術開発が蓄積されてきた。その技術がストレートに軍事転用されてくる。世界的にも歴史的にも軍事技術が民生技術に転用されるというのが一般的な流れですが、日本では逆にむしろ民生技術が軍事技術にどんどん転用されています。センサーの技術などは、随分と軍事技術に転用されているようです。
 宇宙の軍事利用ということでも、非常に期待が持たれています。単価が高いですからね。ロケット1機打ち上げるだけで何十億という額ですから。

日本製兵器の価格は

 そこで日本製兵器の価格なんですが、資料の【表1】をご覧ください。兵器の王様というか高額兵器は、今も昔も軍艦です。海上自衛隊が調達しているイージス艦が単体兵器としては一番高額で、「あたご」型イージス防衛艦(7700トン)は、一隻当たり1475億円です。これに武器弾薬を積めばもっと高くなります。
 さきほどの「ひゅうが」が1056億円。デフレなものですから、先ほどの「22DDH」も「ひゅうが」型と同程度の予算要求が行われていますが、だいたい後から色々と付け足されるという流れです。兵器産業の場合はなるべく最新技術を取り込んだ方が良いですよ、というメーカー側の勧めがされます。これから今ある技術で作り始めても完成時点で旧式になってはもったいないということで、作っている途中でどんどん最新装備に切り替えられていくんです。結果的には絶対に予算額に収まるということはないんです。これは兵器生産の特徴です。特に艦艇のように長期間製造にかかるものは、どんどん追加で予算が増えていくんです。
 それから、現在日本では少し航空関係の兵器開発が停滞していますが、やはり戦闘機などは非常に高い。それから陸海空それぞれヘリコプターを持っていますが、ヘリコプターは意外に高額なんです。例えば海上自衛隊の哨戒型ヘリが65億円です。とすると、先ほどのヘリ搭載護衛艦が約1000億円だったとしても、それに10機ヘリを積んだら、それだけで650億ということですから、ドンと経費は跳ね上がるわけです。
 この金額を見ると、陸上兵器の安いこと。90式戦車はたった8億円、自走砲もたった9億です(笑い)。もちろん、とても買えない金額ですが。しかし、これはとてつもなく高いんです。一点物で作っているので、アメリカの戦車に比べればおよそ倍の単価です。
 あまりに高額になったので、もう少しコンパクトな戦車を作ろうということになっています。この主力の90式戦車は重量50トンを超えるという、まさにソ連脅威論華やかなりし頃に設計されたもので、ソ連の大型戦車の上陸時に対抗しようとしたものです。この90式というのは、1990年に採用されたということです。採用されたと同時に冷戦が終わるという、兵器開発はだいたい間が抜けたことになるんですね。
 この90式戦車は余りに大きすぎて使いにくいということで、【表1】の下の方に「新戦車」とありますが、実はこれは今年(2010年)完成しました。名前は多分、10式戦車となるはずです。何式というのは旧陸軍からの伝統で、採用された年号をつけるということです。明治時代は元号を付けていました。38式歩兵銃という具合に。昭和になると、皇紀2597年であれば97式戦車となります。戦後は西暦をつけるようになりました。
 この「新戦車」、コンパクトにして経費も安上がりにしようということで、40トンクラスと少し軽くなるんですが、1台当たりの単価は9億円と、むしろ高くなっちゃったんです。だいたいそういうものなんですね、最初はもっと単価を下げると言って作り始めたものが決してそうならない、というのが兵器なんですね。ある種の「言い値」と言いましょうか、国産のものを買うという前提で作り始めますから、途中で高くなったので外国から買ってくるという選択肢がないんです。高くなっても買わざるを得ないんです。90式戦車も一台当たり高額になり過ぎて、予定数が調達できないので、もっと昔に作った74式戦車をちょっと改修して使っているのが現状です。この90式戦車の価格高騰を踏まえて新しい戦車を作ってみたら、もっと高くなっちゃったということです。

国産兵器が高いのは「武器輸出三原則」があるから?

 国産兵器は単価が非常に高いということです。ここで出てくるのが、輸出できない、大量生産できないからコストが嵩むんだということですが、確かにそうでしょう。一点ものですし、年間に戦車であれば5〜10台という単位で作っていれば、当然単価は高くなります。また今の兵器はコンピュータの塊ですし、素材も特殊なレアメタルをふんだんに使った塊ですから、非常に高価です。
 それで、輸出ができないのは「武器輸出三原則」があるからだ、という議論が出てきて、だからこれを取っ払いたいと。もちろん、武器輸出をどんどんやりたいとあからさまには誰も言いませんが、武器の単価を下げようというのなら、必ず武器が大量に輸出できなければ単価は下がらないわけですから、やはり武器輸出を目指しているということなんです。
 しかし、ここにはトリックがあります。戦車の価格が高いからこれを下げるために「武器輸出三原則」を撤廃しますと言っても、本当に単価下げるためにはかなりの受注を得て大量生産しないことには単価は下がりません。それこそ5台、10台輸出したところで単価は下がりません。輸出ができれば単価が下がって、国民の負担が減るというためには、膨大な輸出が可能でなければ出来ないことです。
 兵器の世界市場は、高額兵器はだいたいアメリカ、イギリス、フランスが押さえてしまっています。やや廉価なものはロシア、中国が押さえています。そこに食い込んで市場を獲得するというのは難しい。そうなると大量の輸出はできないので、仮に「武器輸出三原則」を変えて輸出を可能としたところで、急に武器の単価が下がって国民生活が楽になるというような図式はあり得ないことです。

「武器輸出三原則」とは

 すでに「武器輸出三原則」の話をしていますが、自民党政権下ですでにこの「武器輸出三原則」の空洞化は進んでいたんです。これを今度は空洞化だけじゃなくて、原則を変えて行こう、変質させようということです。
 「武器輸出三原則」はそもそも何かというと、マスコミレベルでも日本は「武器輸出三原則」によって法的に武器輸出が禁止されているという言い方がされることがありますが、これは正しくありません。
 元来、「武器輸出三原則」は、武器輸出一般を禁止したものではないのです。また、「武器輸出三原則」は法律でもありません。もともと戦後は、通商産業大臣、現在の経済産業大臣の許可があれば、武器輸出は可能でした。
 朝鮮戦争の当時に軍需産業が大いに復活して、アメリカに武器を納入していたんです。しかし、大臣の許可が必要であった。この許可の基準が曖昧だということで、1967年佐藤栄作内閣の時に、「武器輸出三原則」を閣議決定しました。
 武器輸出が認めらない場合というのは、1番目が「共産圏諸国向けの場合」。当時はまだベトナム戦争の最中ですから、これを念頭においていました。2番目は「国連決議により兵器の輸出が禁止されている国・地域の場合」、それから「国際紛争当事国またはその恐れのある国の場合」。戦争を明らかにやっている国、あるいはやりそうな国に輸出してはいけない、これが「武器輸出三原則」なのです。
 ですから、あらゆる武器を輸出することを全般的に禁止しているわけではなくて、こういう場合はダメですという規定が、もともとは佐藤内閣時代の三原則なんです。
 ところが、これが再定義されるんです。三木武夫内閣の1976年2月に武器輸出に関する政府統一見解です。日本が経済大国になったことで、場合によっては武器輸出をするのではないか、あるいは軍事大国になるのではないかという懸念がアジア諸国や国内からも表明されるようになり、いやいや日本は違いますよということを三木内閣は言おうとしたんですね。
 で、次のように政府統一見解を決めました。第一に、「三原則対象地域については兵器の輸出を認めない」。このように従来の三原則を継続しつつ、二番目に「三原則対象地域以外の地域については、憲法および外国為替および外国貿易管理法(いわゆる外為法)の精神に則り、兵器の輸出を慎むものとする」。ここで根拠になっているのは外為法と、大もとにあるのは憲法なんです。しかも、憲法の精神に則って兵器は輸出しないじゃなくて、「慎む」と言っているのが微妙な表現なんですけれど、これを強く捉えれば、輸出しないと捉えられます。その根拠になっているのが憲法です。憲法の精神に照らして武器輸出はよろしくない、とここで言ったわけです。ですからここからなんです。「武器輸出三原則」によってすべての武器輸出は禁止されているという解釈は、この三木内閣の三原則再定義から始まっていることなんです。

三原則再定義直後から空洞化が始まる

 ところが、一見すると非常に完璧に武器輸出ができなくなったかのように見えるんですが、この直後から空洞化が始まります。
 これは、「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)が1978年にできて、日米防衛協力が言われるようになってからです。中曽根内閣の時にこの方針が転換され、アメリカの要請によって対米兵器技術協力、つまりアメリカに対して兵器の技術を供与する、これは当然現物の輸出も含むわけです。明らかな武器輸出なのですが、アメリカは「武器輸出三原則」の適用外となったんです。つまりアメリカに兵器や兵器技術を輸出する分には、この三原則の例外にするという措置を取ったんです。
 アメリカは、考えてみれば「武器輸出三原則」からするとほとんど紛争当事国ですね。だいたいの戦争に絡んでいる訳ですから、紛争当事国または当事国になる恐れのある国です。まさに三原則の一つの原則が、これによって取り崩されたわけです。これをもって空洞化と言っていますが、現実にはこのアメリカに対する例外規定によって、当事国に実際に日本が武器を渡したり、技術を供与するということが現実のものとなってしまったんです。
 アメリカに供与された兵器技術というのは1986年以降、今年2010年までに少なくとも18件あります。だいたいミサイルや航空機関係、あるいは化学兵器対処などの共同開発です。また、日米軍事一体化が進んで行きましてACSA(日米物品役務相互提供協定)が結ばれます。最初このACSAが結ばれた段階では、兵器を含まない物品と役務の相互提供でしたが、次第にテロ特措法を経るなどしてACSAも改訂され、現実問題として戦時においては自衛隊の武器をアメリカに提供するということが可能になって行きます。ただ、これはあくまでも相手が米軍ということで、「武器輸出三原則」の大きな例外ということなんです。

今度は、「武器輸出三原則」そのものを変えてしまおうと

 ところが今回、さらにこれを変えてPKOなどで自衛隊が出て行った時に、現地で武器を相手に──相手といっても反政府じゃない方の相手ですが──渡すということも自由にやりたい、そういうことも可能にしたいということなんですね。それからアメリカ以外の国とも武器の共同開発をやりたい。これはアメリカが許すかどうかという問題もありますが、アメリカの兵器産業も実はイギリス、フランスとも複雑に入りくんだ関係になっていますから、日本が例えばイギリス、フランス、ドイツと共同開発する分には、アメリカにとってもそれほど支障ではないんです。
 例えば、先ほどの90式戦車で言えば、主砲はドイツの技術を導入して国内でライセンス生産したものです。元々の技術はドイツのラインメタル社から入れたものなんです。そういう点では日本の兵器を作るにしても、アメリカや欧州の技術がすでに取り入れられているんです。これを逆に日本から諸外国に技術を提供できるようにしようという議論ですね。
 しかし、これは「武器輸出三原則」を大きく変えなくても、今までも例外としてやってきちゃったことなんですね。だから良いとは言いませんが、こういうことを理由にして「武器輸出三原則」の本体を捻じ曲げて行ってしまうのは、やはり危険だということです。
 それから、何といっても最も通りやすい議論は、武器のコスト高を抑えて国民負担を軽減するという議論です。先ほども言いましたように、多少の輸出ではコストが下がるという具合には行きませんから、これは危険ですよ。大量に輸出して行くわけですから、大量に使ってもらわなければいけません。使うことを期待するようになり、どこかで戦争が起きれば、「やった、武器が売り込める」ということになるわけです。アメリカやイギリス、フランスの兵器産業は皆そうした感覚なんですね。場合によっては、謀略を仕掛けてでも戦争を起こしたいわけです。 日本はそれだけは戦後やってこなかったのです。戦前の日本と比較すれば、戦後は謀略行為までして戦争を仕掛けることはできませんでした。しかし、武器輸出が絡み出すと、戦争を待望する考え方は必ず出てくるものです。
 今、この「武器輸出三原則」を変更する上でよく言われているのは、三原則自体は守るんだけれども、今までの例外部分をさらに拡大していくということですね。
 しかし、先ほども言ったように、この例外がそもそも原則を侵している。例外と言いますが、原則と正面から衝突するものは、本来例外とは言いません。アメリカが例外と言って、紛争当事国に兵器技術を供与しているというのは、本来は原則を侵している行為なんです。ですから、本当はそこが問われなければならないのに、例外部分を膨らまそうというんです。結局空洞化どころか、原則が全くなくなるということになりかねません。

「武器輸出三原則」の最後の拠り所は憲法

 「武器輸出三原則」の最後の拠り所は憲法です。憲法の精神に則って武器輸出は慎むという、この再定義が生きているから、あらゆる武器輸出はできないとなっているわけです。ここがなし崩しになれば、次には憲法そのものが狙われることになります。ですから「武器輸出三原則」の問題は、これが法制化されていないということもありますが、憲法の平和主義である9条の根幹に関わる問題なんです。
 「武器輸出三原則」が変わったところで、さほど何も変わらないという見方もあります。現にアメリカとはすでに色々とやっているわけですし。しかし、こうした不況の時代ですから、どういうところに活路を見出そうとするか判らないところもあって、儲かるところに徐々に企業がシフトするということになります。
 アメリカの事例で言えば、ベトナム戦争時代にアメリカ自動車メーカーは、儲かるもんですから、みんな軍事の方にシフトしたんです。一般の民間相手の小型車を作るよりも、戦車を作る方が儲かる。そこで一斉にアメリカの自動車産業は兵器にシフトした。その結果、民間相手の競争力が低下してしまい、そこに日本車が入ったんです。
 ですから、もしこういうことで日本の中で軍需産業が肥大化していくと──まだ今は大きなものではありませんが、肥大化する素はあるんです。三菱重工を中心に技術は蓄積されていますから、肥大化して行くと、戦後の日本の産業は民生中心で技術を向上させてきましたが、この部分が危うくなります。軍需に頼った方が手っ取り早いし、単価も高くて儲かりますから。民間相手に商品を薄利多売するよりも、ドンと兵器を売った方が儲けとしては美味しいものがあるんだと思います。ところが、これは麻薬のようなもので、本来の民生技術は蝕まれて行くんですね。これは非常に恐ろしいことで、しかも軍需産業というのは国が滅びても残るものであることは、歴史が示すところです。
 こうしたことを私たちは押さえたで、「武器輸出三原則」と日本の軍需産業を考える必要があります。

軍拡の連鎖を断ち切ろう

 日中関係が悪化したり、北朝鮮がいろんなことをやったりすると、やっぱり軍事力で対応しなければいけないという議論が必ず出てきます。
 しかし結局、軍事には軍事だという悪循環にはまってしまうと、例えば日本が北朝鮮に対抗して弾道ミサイル防衛をやっています。これによって誰を刺激するかというと、中国とロシアなんですね。北朝鮮そのものじゃなくて、中国やロシアを刺激し、中国の軍拡に拍車をかける。中国が軍拡するとインドが軍拡する。間違いなく中国とインドのライバル関係から言って、そうなる。そしてインドが軍拡すると、パキスタンが軍拡するのも間違いないんです。パキスタンが軍拡すると、中東諸国が軍事費を増やすんです。とすると、そこに世界の武器が流れ込んで、紛争が終わらないという構造になってしまうんです。
 ですから私たちは、目の前の北朝鮮が怖いとか、中国がどうも恐ろしいということで対応すると、それが世界的な軍拡の連鎖の発端になってしまう。発端というと、必ず相手が悪いからという議論になります。相手が軍拡するからこちらもやらざるを得ないんだとなりますが、しかし私たち気がついていないのは、中国が現在かなり本格的な航空母艦を建造していますが、その中国が航空母艦を建造する理由にされたのは何だったのかというと、それは日本の「ひゅうが」型なんです。
 ヘリ搭載護衛艦を日本が作り始めてそれが「ジェーン海軍年鑑」などに載ると、すぐに日本は空母を作っている、だから中国もそれに対抗するんだ、という格好の口実ができてしまったんです。さらに日本は22DDHまで作ろうとしているわけですから、これは軍拡の連鎖がすでに起っている。
 ところが、日本ではこの軍拡が意外に報道されなくて、諸外国の軍拡だけが報道されるので、さらに日本国内の軍拡に拍車が掛るという構造なんですね。
 ですから、ここを注視して行かないと、知らず知らずのうちに軍拡の連鎖をどんどん増幅させることになるんじゃないかと思います。
 と、いうことで本日のお話といたします。どうもありがとうございました。

質疑応答

【質問1】普天間基地の辺野古移転問題についてどう考えるか。

山田: 普天間問題は大変重要なことで、普天間の海兵隊は、岩国の海兵航空団と、それから佐世保の海軍部隊との連携が強いものとして成立しているんですね。ですから普天間の問題だけではなく、岩国、佐世保と、このアメリカの軍事力が密接に結びついているので、これをなかなかアメリカは切り離したがらないわけです。
 しかし、そんなに大事なものだったら、ごっそりアメリカに帰ってもらうのが一番良いだろうと思うんです。そのユニットを崩したくなければ、そういう策しかないんじゃないかと思うんですね。
 実際、抑止力と言っていますが、現実に佐世保を中心とする──佐世保というのは上陸部隊の基地です。強襲揚陸艦なんかがあります。それに海兵隊なんかが乗って出撃していくわけです。それを護衛する、支援する空母部隊が横須賀に居るわけです。ですから、このパワーというのは並はずれて大きなものがあるわけでして、これが存在していることで抑止力になっているというのではなくて、非常に恐ろしい破壊力をもったものがウロウロしているということで、極東における軍縮の一番の障害になっているわけです。
 これがどんなふうに──つまり北朝鮮も中国も、ロシアもそうなんですが、軍拡の最大の口実になっているわけです。で、それを日本はサポートする形を取っているわけです。ですから普天間基地の問題というのは、沖縄から基地を少しでも少なくするというのは一番良いことですが、それは本当に(どこかに)持っていくことで解決するというんじゃなくて、総体として米軍基地を減らしていくという、その流れがないと、結局どこへ持って行っても、極東における軍事的な火薬庫の役割、発火点としての役割というのは変わらないわけです。
 ですから当然、沖縄の負担をどんどん減らしていくという方向で考えなければいけないんですが、だからと言って本土に持ってきたら本当に変わるのかというと、そういうことではなくて、軍事力の脅威、軍縮の妨げになっているものを、なるべく丸ごとアメリカに引き取ってもらうことが一番良いんです。
 でも、日本が「思いやり予算」でお金を出している以上は、絶対にアメリカは撤退しない。アメリカの軍事基地は世界で──かつてのベトナム戦争のころに比べるとほとんどないんです。有る場所というのはどこかというと、アメリカに対して金銭的な支援をしているところだけに残っているのです。日本は一番濃密な支援をしているわけですね。
 そういう点で言うと、一方で日本が、そういうアメリカ軍が出て行けないというか、出て行かない方が(アメリカにとって)得なわけですから、そういう構造を作っちゃっているんです。
 現在、位置関係から言うと、何十年か前の戦略爆撃の時代とはちょっと違ってきているので、どうしても日本になければいけないという理由は、だんだん薄れてきています。むしろそこに基地を維持することが、安上がりだということなんですね。これが、日本に米軍基地が存在している決定的な要因になっているということだと思います。
 ちょっと前までは、位置ということが重要だったんですね。それは軍隊の機動力とか、そういうものが今と比べると低かった時代は、なるべく重要な場所に直接軍隊がいることが大事だった。しかし今は、必ずしもそういう議論が成り立たないというふうに思います。

【質問2】新しい防衛大綱が作られようとしているが、そのなかで「武器輸出三原則」はどういうふうに見直されようとしているのか。

山田: いま、「防衛計画の大綱」という話が出てきました。私は今日の話ではそれにほとんど触れませんでしたが、皆さんは昔、日本の自衛隊が「第何次防」──第3次防とか第4次防とか、そういう計画で大きくなってきた時代をご存じだと思います。これは、1958年から1次防が始まり、1975年に4次防が終わって、その翌年の1976年から「防衛計画の大綱」というものに基づいた軍事力の整備が始まったのです。
 どう違うのかというと、「何次防」と言っていた時期は量的な拡大、つまり数値目標を定めてどこまで拡大しますよ、ということをずっとやって来たんです。「防衛計画の大綱」は基盤的防衛力という概念を導入して、量的には増やさなくていいから、質的に高めていくんだという論理を導入しました。
 で、最初の「防衛計画の大綱」は1976年から、実に95年まで同じ「防衛計画の大綱」で軍拡が行われたのです。つまり、20年間変えなかったのです。その間、デタントと言われる時期から、新冷戦になり、その冷戦まで終わっちゃうという、国際状況が大変動したのに、実は同じ方針でずうっと20年間やっていたんですね。
 そのあと、最初の改定が96年に行われ、2005年にもう一回改定されて現在の「防衛計画の大綱」になり、それをいま変えようとしているんですね。
 この「防衛計画の大綱」と実際の軍事力の相関関係を見ると、これは方針があって軍事力が作られるのではなくて、現状を追認していくというのがこの「防衛計画の大綱」なんです。
 ですから、明らかにすでに行われていること──さっきの宇宙の軍事利用であるとか、実際に「武器輸出三原則」が空洞化していっているその現状を、オーソライズするというのが「防衛計画の大綱」の特徴なんですね。方針が出て新しいことが始まるのではなく、いま始まっていることの方が重要でして、現実に「武器輸出三原則」は空洞化しつつあって、アメリカは例外となり、またアメリカ以外にも例外を拡げていこうという流れが明らかに出てきている。それを追認しようとするのが「防衛計画の大綱」であるということなんです。
 ですから、問題としては何が作られつつあるのかということを見た方が、流れが分かりやすいんです。つまり、大方針が出て、それに基づいて何かが作られていくんじゃなくて、「防衛計画の大綱」ができて、方針が出たときにはもうそれは作られているんです。いままでの流れはみんなそうです。「防衛計画の大綱」で謳われていることは、もうすでにその時に有るんです。
 これが実は「防衛計画の大綱」のからくりでして、それを基盤にまた新しいことが行われるんですが、基本的にはここから何かが始まるんじゃなくて、すでに始まっていることを追認していく──こういう性格が「防衛計画の大綱」にはずっと昔から有るということなんです。というか、作っちゃったものの言い訳なんです。こんなのを作っちゃったというのを、さっきのヘリコプター搭載護衛艦とか、こういうものを作っちゃって、どうやってあとからその辻褄を合せるかという、どうもそういうもののようなんですね。
 しかしだからと言って、これは無視して良いものではありません。当然、これで新しいスペックへ、「防衛計画の大綱」に書いてないことにまた踏み出していって、次の「防衛計画の大綱」ができたときにそれを追認するという流れになっていると思います。 ですから「防衛計画の大綱」に対して批判をして、それによって内容に影響力を与えれば、現在行われているそのものにブレーキを掛けられるということになります。「防衛計画の大綱」に対する批判というのは非常に重要で、いま進んでいること自体に対する批判に繋がるということですので、皆さんそこは注目をしていただければと思います。

【質問3】新安保防衛懇が今年8月27日に出した報告書は、「基盤的防衛力」から「所要防衛力」に転換するとしているが、これは大変な方針転換であり、憲法9条をなし崩しにするものではないか。

山田: おっしゃる通りなんです。「基盤的防衛力」というのは、これぐらいの防衛力があれば、まあかなりの事態に対処できるという──仮想敵国を定めるのではなくて、もうちょっと一般的な、まさに基盤的な防衛力を作ろうという論理で始まりました。これが始まったのはデタント期、ちょうどベトナム戦争が終わって緊張緩和だと言われた時期だったんですね。
 ですから、明確にここに敵がいるから軍拡をするんだという論理が成り立たなくなったときに、それでも軍拡をしようと思った人たちは、「基盤的防衛力」という考え方を作って、先ほどのヘリコプター搭載護衛艦を見ていただくと分かるんですが、あれは同じものなんですね、あれは。つまり空母になる前も後も、「基盤的防衛力」の中の一隻の護衛艦で、同じものなんですよ。質は全然違います。ここに実は「基盤的防衛力」のカラクリがあったんです。質が変わっちゃったものでも、あくまで護衛艦一隻は一隻なんです。中身がまったく違う、性格がまったく違うものになったとしても、古いものを代替する、更新するんだという論理で、実は違ったものを次第次第に作ってきた。
 それをもう、そんなレトリックはやめて、あからさまに認めちゃおう、違うものを作っているというふうに認めちゃおうというのが、新しい「防衛計画の大綱」に盛り込まれようとしている考え方です。つまり、何次防と言われた時代、量的にも質的にもどんどん拡大していた時期と同じ論理、古いものを更新するんじゃなくて、新しいものをどんどん作っていきましょうという論理を盛り込もうとしているんです。
 実は、新しいものは作ってきたんですね、さっきのヘリコプター搭載護衛艦を見ていただくと。これをもう堂々と承認していくという、こういう考え方がここで出てきたということですから、ある意味でもう歯止めがなくなってしまうということなんですね。新しいものをどんどん兵器開発して、所要の軍事力──所要の軍事力というのは、要するに中国はこういうものを持っているから我々もこういうものを持たなければいけないという、まさに軍拡の連鎖そのものになっていくわけです。
 今までは、新しいものを作ってもごまかしの論理を働かせていたんですが、もうごまかさないで堂々と新しいものを作って対抗していくという話になるということです。22DDHのあとにはもう、ヘリコプター搭載護衛艦とは言わずに、軽空母、あるいは空母という名前にして、さらに垂直離発着機も使えるようにしようということに必ずなっていくということです。ですから歯止めを失うということだと思いますね。

【質問4】アジアにおける軍拡の連鎖について、日本のジャーナリズムの現状はどうなっているか。軍拡の連鎖を断ち切るためにどういうことが必要か。

山田: ジャーナリズムの現状というのは、「週刊金曜日」とか、そういうところで議論されたことはあると思いますが、まあ目立たない。そういう状態であることは間違いないですよね。
 どうしても日本の軍事力というのは、私たちが考えている以上に大きくなっているという認識がないんですよ。例えば日本の海上自衛隊というのは、世界第5位の海軍なんですね、トン数で言えば。ただ、憲法の縛りがあって原子力潜水艦を持ってない、本格的な空母を持ってないということで、なにか大したことがないように見えているんですが、トン数で言うと世界第5位のところまで来ているんです。
 そういう実態というのが、私たち自身があんまり認識していないということがあります。ですから周りの国が軍拡すると、日本だけが取り残されて丸裸でいるような気になって、やはりアメリカに居てもらわないと、という議論になってしまうんです。
 そこで軍縮を、日本が提起していかなければいけない。つまり、軍拡の連鎖から、軍縮の連鎖にしていかないといけないんだ、ということなんですよ。日本は憲法9条を持っているわけですから、軍縮を進めていく明確な論理を持っているわけです。その時に、中国や北朝鮮に、あんたのところが軍縮しなさい、うちは何もやりません、では絶対に話は進まないわけで。つまり相手の口実をまず奪うということですね。
 米軍がここに大きな軍事力を維持している以上、その周辺諸国が軍縮に踏み切ろうとしたって踏み切れないわけです。ですから、まずその条件を変えていくということと、日本自体がなし崩しに拡大してきた軍事力を転換していく、縮小して行くんだという方針を示さないかぎり、他国にいくら軍縮しましょうと言ったって、説得力は全然ないわけです。
 日本が軍縮する原動力というのは、やはり世論です。脅威論に押されちゃって、軍事力を持っていないと心配なんだという話ばっかりでは駄目で、軍縮することによって流れを変えるんだという、こういう議論がもっと出てこないと駄目なんですよね。
 どんどん(軍拡を)やればやるほど、相手に軍拡の口実を与えてしまっているばかりなんですよ。明らかな軍拡の連鎖が、もう起きてしまっているわけですから、まずそのことを認識して、それをまず食い止める。そして逆回しして行く、ということがなければ、難しいですよね。それは必要なことだと思いますし、やらなければいけないことなんだと思います。

【質問5】北朝鮮がヨンピョン島を攻撃した背景は何か。なぜ砲撃したのか。

山田: あの国の真意が解説できたら、これは大変なことだと思いますが(笑い)、まあ当然、韓国や米軍側の演習だとか、軍拡だとか、ということはあるんだと思います。それを北朝鮮が口実にして、ということなんですが、しかしやっぱりああいうお国柄で、権力の継承が行なわれるときには、今までと違うぞという、何か新しいものを出したいんだと思うんですよ。これが一つ、そういう動きと繋がっているのかなという感じがします。
 哨戒艇の沈没と、それから今回の砲撃──特に砲撃というのは、逃れようがないですね。哨戒艇の沈没は誰がやったか分からないじゃないかと逃げられますが、砲撃はどこから弾が飛んできたか分かっちゃいますから、逃れようがない。ということは、一歩踏み込んだということなんですね。
 で、一歩踏み込んだことをやったぞという実績──。なんというんでしょうね、ああいう専制主義的な国家体制においては、権力が継承されるときには、前よりももっと凄いんだぞということをアピールしたいということがあるんです。
 例えば、他国のことを悪く言えないですよ。日本だって、昭和天皇が天皇になった直後に何が起きたかというと、田中義一内閣の田中義一首相を天皇が叱責して辞めさせちゃうという凄い事件が起きたんですね。天皇が怒って、内閣が崩壊するということは、これまで近代では一回もなかったことが起きるんです。つまり、大正時代と違うぞ、ということを見せつけたわけです。で、老練な政治家である田中義一──陸軍出身ですね──これをやっつけて、天皇の力を見せつけたんです。でもやり過ぎたんですね、これは明らかに。しかしそういうことは、君主制的な国では、代替わりの時は何か起きる可能性があるんです。
 まあ、これだけで説明できないと思いますが、そういう可能性があるということは、言えるんじゃないかと思います。

司会: はい、これで質疑応答を終わりたいと思います。先生、どうもありがとうございました。大変有意義なお話だったと思います。(大きな拍手)

資料

【写真1】「ひゅうが」型ヘリコプター搭載護衛艦(DDH) (13500t、ヘリ10機搭載)

「ひゅうが」型ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)

出典:『世界の艦船』2007年11月号〈特集・現代の軽空母〉

【図1】22HHD (イメージ図)

22HHD (イメージ図)

出典:『世界の艦船』2009年11月号

【表1】自衛隊主要兵器の平均単価と主な契約企業

22HHD (イメージ図)

出典:『自衛隊装備年鑑』 (朝雲新聞社) 1997/2001/2002-2003/2004-2005/2005-2006年/2007-2008年版。


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