映画人九条の会 講演録

護憲派のための軍事講座─自衛隊が《自衛軍》になるとどうなる?─

講師/明治大学教授 山田 朗

2006年1月25日(水)18:45〜20:45 全水道会館4F・大会議室

 皆さん今晩は。ご紹介いただいた山田です。今日は「護憲派のための軍事講座」ということで、現在の軍事力の問題、これがどうなっているのかを中心にお話をしたいと思います。

 今日の話の柱は三つあります。一つ目は自民党の改憲案の検討、二つ目が日本の軍事力の現実を知ること、三つ目がアジアの軍事情勢の特徴を押さえた上で、軍縮実現のためにはどうしたらよいのか、ということです。

 私はたまたま昨年10月に「護憲派のための軍事入門」(花伝社)という本を出したんです。そうしたら、ちょうどその月に自民党が「新憲法草案」を出して、その目玉は憲法9条の改正、いや改悪ということでした。どうしても軍事の問題というのを考えざるを得なくなりました。

 基本的には、憲法改正を進めようという人たちは、現在の日本国憲法第9条、特に第2項を──第9条第2項というのは、戦力不保持を謳っているわけですが、この戦力不保持の憲法の原則と、現在の自衛隊というのが、あまりにもかけ離れた存在になっている、憲法と現実がマッチしていないから、現実に合わせて憲法を変えるべきなんだ──これが改憲派の主張です。

 ここで気を付けなければいけないのは、現実に合わせて原則の方を変えようという議論なんですが、その現実というのを誰もちゃんと分かっていない。そこがポイントなんです。現実もはっきり分かっていないのに、その現実に合わせて原則を変えようとする、とんでもない原則になってしまうおそれがあるわけです。

 ですから、まず今日のお話しは、自民党の新憲法草案の問題点を明らかにすることは重要なことなんですが、なんと言っても現在の日本の軍事力、これが現実と言われているものが一体どういう特徴を持っているのか、ということをしっかり押さえなければならない。ここをお話しの中心にしようと思っています。

 それから、これはあとで質疑応答などもあると思うのですが、そうは言っても、例えばどこかの国が攻めて来たらどうするんだ、ということはよく言われます。で、日本周辺の軍事情勢というのはどういうメカニズムで動いているのか、ということを説明したいと思います。

自民党憲法草案の特徴点──「自衛軍」の創設

 まず、自民党の憲法草案の問題点ですが、なんと言っても一番大きいのは、「自衛軍の創設」です。軍を創設するというのは、憲法草案の最大の目玉になっています。第9条の第1項は変えずに、つまり戦争を放棄するという部分は変えずに、第2項の戦力不保持と交戦権の否認という部分を変えようというのです。第1項は変えないけれども、第2項はまったく違ったものにしよう、というのがこの草案の特徴です。

 【資料1】に現行の日本国憲法の第9条の部分と、それからそれに付随して、裁判所を定めた第76条を載せておきました。なんで76条が必要なのかと言いますと、実は76条は「特別裁判所はこれを設置することができない」という規程でして、この特別裁判所というのは、これは法解釈の問題ですが、戦前における「軍法会議」を含んでいるというふうに解釈されています。

 憲法第9条の第2項で、軍の保有が禁止されていますから、当然、軍法会議というのもあり得ないわけです。第9条の第2項と76条はセットになっているんです。今度の自民党新憲法草案は、第9条の二というところに「自衛軍を保持する」とありまして、これに対応するように76条に「特別裁判所はこれを設置することができない」と謳っていながら、3項で「軍事に関する裁判を行うため、法律で定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する」とある。これは軍法会議ですね。軍法会議というのは、軍人を裁くための特別な裁判所ということです。

 ですから、同じ76条に「特別裁判所は設置することができない」と謳っていながら、特別裁判所の概念を変えているんです。つまり現行憲法の解釈では、特別裁判所は軍法会議を含む、という解釈ですが、今回新しく出てきたものの中には、特別裁判所の概念の中から軍法会議を除いているんです。同じ言葉なんですが、実は概念が違うんです。そういうふうに、一見すると解かりにくい構造になっています。

 「自衛軍の性格」について言うと、この「自衛軍」というのは、日本を守るという──自衛という言葉からするとそういうイメージなんですが、完全に海外派兵を前提にしております。と言いますのは、この草案の条文の中に「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」に参加する、とありますから、当然──具体的にはアメリカが主導する海外派兵に参加するということを大前提にした「自衛軍」である、ということです。

 それから、「治安出動」も前提にしています。それは、「緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若くは自由を守るための活動」というのがありますので、これは「公の秩序を維持する」──まあ、今でも自衛隊には治安出動が認められてはいるのですが、それを新しい「自衛軍」にも当然認めるということです。ですから、海外派兵と治安出動を前提にした「自衛軍」である、ということがこの新憲法草案では謳われているんです。

 それから「軍事裁判所」「軍法会議」。当然これは「軍」ということになりますと、命令違反をどう裁くか、ということですね。「軍」の兵士が命令に従わない場合、どう罰則を与えるか、ということで「軍事裁判所」「軍法会議」が必要になってくる。これは当然、ミリタリーポリス──軍の中の警察、つまり「憲兵」が必要になってきます。ここには書いてはありませんが、「自衛軍」ができれば、当然「憲兵」が必要になる、ということになります。

 ですから新憲法草案を見ただけでは、どういう仕組みが出来上がってくるのか解かりにくいんです。現状を追認するんだ、というふうに説明するんですが、現状と変わらないんだったら、別に憲法を変える必要がないんです。わざわざ、現状と同じなんだと言いながら憲法を変えるということは、これに付随して、実はいろいろなものが続々と出てくることが考えられるのです。今の憲兵というのも、その最たるものです。

自衛隊と「自衛軍」はどう違うか

 自衛隊と「自衛軍」というのは、一字違いなんですが、全然違うんです。先ほどから言っているように、単なる現状追認ではありません。つまり、今の憲法では認められていない戦力、交戦権を保持するということですから、全然違った論理で新しい組織が出来上がるということです。

 先ほども言いましたように、「自衛軍」ができると、現在の自衛隊法では当然対応ができないので、新たにいろんな法律が出来上がるし、日米安保条約に基づくガイドライン、それからACSA──ACSAというのは日米物品役務相互提供協定と言い、日米間で武器・弾薬・燃料などを相互に提供できる協定のことです。これも当然改定になります。それから周辺事態法とか有事法制なども当然新たなものになります。これは、現状追認という範囲ではない、大規模な法の改定が行われることは間違いありません。

 いきなり軍事関係の法令の全面改定とまでは行かないでしょうが、じわじわとやって行くのでしょう。しかし原則(憲法)が変わってしまえば、当然それに付随する法制の整備というのも進むだろうと思います。先ほど言いました憲兵を設置するというのは当然でしょうし、現在無いスパイ防止法も当然、これは憲兵の仕事の一つですから、根拠になる法律が無いと困るという意見は必ず出てきます。スパイを取り締まるためにスパイ防止法を作れ、ということに当然なっていくでしょう。

 ですから、およそ簡単なる現状追認ということではなく、新しいものがいっぱい出てくる、ということです。それはもう、十分準備されています。と言いますのは、有事法制の研究で、長年にわたって防衛庁はいろいろと研究してきていますので、研究の蓄積は随分あるのです。有事法制として出していない部分は、いっぱいあるんです。それは、これから考えるんじゃなくて、出すタイミングを計るということになるんだろうと思います。

「自衛軍」が設置されると何が変わるのか

 「自衛軍」が設置されると何が変わるのか、ということですが、改憲を進めようという人は、何も変わらないんだ、と言うんです。何も変わらない、自衛隊が「自衛軍」になるだけで、皆さんの生活は何も変わりませんよ、とよく言うですが、何も変わらないのならば、別に憲法を変える必要がないわけです。

 大きく変わるんです。軍ができるということは、これは非常に大きなことです。軍の論理というのは──いま自衛隊は事実上、軍と言っていいものなんですが、それでも憲法の縛りがあるというのは非常に大きいんです。やはり軍として自立していないわけです。兵器にも大きな制限が加えられています。戦力を保持しないと言っているのですから、なんでも兵器が持てるわけではないんです。これはなんと言っても憲法第9条第2項の縛りがあるからなんです。なんでもかんでも持てるというわけではないのです。

 国会の答弁の中で、戦力に当たらない武器とは何なのか、という議論があって、これは矛盾した議論なんですが、一応憲法で定める戦力について、自衛上最小限度の武器は戦力に当たらない、とずっと政府は説明しているんです。例えば航空母艦とか、核兵器とか、長距離爆撃機とか、そういうものは駄目だということになっています。最低限度を超えてしまうという解釈です。

 ですから爆撃機は持てないので、自衛隊は爆撃機と名がつくものは持っていません。しかし、爆撃機という名前を付けるのはまずいので、「支援戦闘機」という名前を付けているのです。「支援戦闘機」は何を支援するのかというと、地上戦闘を支援する戦闘機なんです。地上戦闘を支援するということは、地上を直接攻撃するということですから、これは爆撃機なんです。爆撃機と言っちゃうと、国会答弁と矛盾が生じてしまうのです。これは最低限度ではなくて戦力に当たるものではないか、と言われてしまうので、爆撃機ではなくて「支援戦闘機」という名前にしているんです。

 当然、駆逐艦とか巡洋艦という名前も使えなくて、「護衛艦」という名前にしています。かつて戦車も「特車」と言っていました。これはいくらなんでも無理があるので、現在では戦車と言っています。かつて自衛隊が警察予備隊として発足した頃は、戦車を「特車」と言っていました。アメリカ軍が使っているものと同じものを警察予備隊も、保安隊も、のちの自衛隊も保有していたんですが、アメリカ軍が持っていれば戦車であり、自衛隊が持っていると「特車」と言ったんです。同じものです。同じものですけれど、そういうふうに名前を変えて誤魔化していたのです。

 ところが、「軍」ができればこんな誤魔化しはまったくいらなくなります。現在では自衛隊は歩兵連隊という言い方はしません。「普通科連隊」です。砲兵連隊という言い方はしないで「特科連隊」です。そういう言い方をしているんですが、そんな面倒くさい言い換えはまったく必要なくなってくるのです。軍が認められれば、堂々とどんな名称でもつけることが出来ます。

 現在は、例えば爆撃機という名前が使えないので、どう見てもこれは爆撃機だとしか思えないもの(戦闘機の機能をもたない爆撃専用機)は保有できないんですが、もし軍が認められとすると、世界のどの軍隊でも爆撃機はあるんですから、当然爆撃機は持つべきだ、という議論になって、歯止めなく強力なものを持つことになりかねません。

 よく改憲派の人たちは、あいまいな形で自衛隊を残しておくんじゃなくて、むしろ「自衛軍」にした上で法律で縛ればいいんだ、現在でもシビリアン・コントロールが利いているんだから法律で縛ればいいんだ、むしろそっちの方が重要だ、と言います。

 一見するともっともらしいのですが、現在でも縛れないのに、軍なったらどうやって縛れるのか。軍でないものを、その段階でもいろんな逸脱行為があって、ちゃんと縛れていないんです。シビリアン・コントロールと言いながら、コントロールが利いていないんです。それを憲法の後ろ盾をもって軍になったら、憲法がお墨付きを与えた組織になったら、それをコントロールできるかというと、現在でもちゃんとできないのに、軍になったらますますできません。

 それから、やはり一般の司法・行政とは異なる「聖域」が出現するのは、明らかです。現在でもこれはあります。米軍です。日本国内にいる在日米軍は、日本の行政・司法が直接介入することができない「聖域」です。軍ができると、これに似たようなものが出来ることになります。つまり、警察が軍を立ち入り調査するとか、捜査するということは、まず不可能になります。現在でも実は難しいんですね。警察が自衛隊をいきなり家宅捜索するとか、戦車を押収するというようなことは聞いたことがありません。現在だって難しいわけですから、これが軍になれば、ますます「聖域」化が強まることは間違いありません。

 それから、当然軍ができれば軍人が登場します。軍人が登場するとどうなるかというと、すぐに徴兵制は日程に上ってこないかも知れませんが、一番考えられるのは「体験入隊」です。あるいは2年間ぐらい入隊して経験を積むという、そういうことが奨励されることになります。そうすると、必ず企業の中には入隊経験者を優遇するという動きが出てきますし、大学なんかでも体験入隊や2年間ぐらい入隊したことのある人に単位を出して優遇するということになりかねない。いまでも職業体験を単位化するというようなことをやっている大学は結構ありますから。多分、そういうふうに優遇することになると思います。

 そうなると、次第、次第に──最初はまったくの任意であった体験入隊や一時入隊が、それをやらない人はおかしいんじゃないかとレッテルを貼られるようになってくる可能性がある。

 これは世論との力関係ですけれど、しかし今の自衛隊とはおよそ立場が変わってきます。今の自衛隊ですと、どうしても憲法の問題があるので、体験入隊などは大々的には宣伝できないんですが、憲法の許しを得たら何でもできるということになります。ですから、学校や企業を巻き込んでの入隊勧誘は必至になります。軍が成立すれば軍人経験者、体験入隊者が優遇されるという「軍の論理」が、社会の中にどんどん入り込んで来ることは間違いありません。

 それから、軍隊や軍人を基準にした統制が始まります。軍というものが憲法で認められると、それに対する批判というのは非常にしにくくなります。批判する人たちには、軍を認めるか認めないかを踏み絵にして選別していく。これは、現在の教育現場で「日の丸」「君が代」を踏み絵にして教職員を選別していくということが、特に東京都で行われていますが、それとまったく同じことが行われるということです。

 最初のうちは当然、強制するという部分はあまり出してこないでしょうが、軍が成立してそれが定着するようになれば、次第に強制する分野は多くなってきます。これは東京都ではっきり分かるのですが、「国旗・国歌法」が成立したときに、「絶対に強制しない」と言っていたんです。当時、政府はそう言っていたんですが、現実に東京都で起こっていることは強制以外の何物でもない。ですから、通っちゃったらどうにでもなるんです。

 実は私が恐れているのは、先程も言いましたように軍ができればそれに付随していろんな法律が変わりますが、そのときに、例えば現在、有事法制があるわけですが、あの中で一番重要なのは、もちろん法律の個々の問題で重要な点はありますが、軍が暴走したときに歯止めをかけるという発想が無い、ということなんです。現在ですら、そういう発想を持って法律が作られていない。そういう発想を持って法律を作ろうという発想が、そもそも無いんです。これは非常に危険なことなんです。軍が力を持っている、実力を持っているわけですから、これがもしコントロールが利かなくなったらどうするか、暴走したらどうするのか、ということを考え、それを抑制するシステムを作っておくのがシビリアン・コントロールなんですが、実はそういう発想が現在でも全然ないんです。

 この流れで憲法が変えられて、軍ができて、次々にいろんな法律が出てきたら、軍に歯止めを掛けるなんていう発想が出てくる可能性は非常に低い。これを私は恐れているのです。

現代日本の軍事力の特徴

 ここからが今日のお話しの特に重要なところです。現代日本の軍事力の特徴です。まずアウトラインを掴んで見ましょう。【表1】を見てください。数字ばっかりですが、これは「世界の軍事費ランキング」です。これは比較するのが難しいんです。為替レートの問題があるし、実は軍事費と言われているものは世界各国で千差万別なんです。また、当然公表している部分と、していない部分というものもある。例えば日本でも、軍人恩給みたいなものを軍事費に含めるのかどうか、ということで随分額が変わってきます。日本の統計では含めていません。日本では防衛庁が所管する予算についてのみ「防衛費」だとして、ここが軍事費だと言っていますが、世界各国みんなカウントの仕方が違いますので、なかなか難しいんです。

 ですから、ある程度一定の基準を持って、推定も含めてそれを行っているのが、ストックホルム国際平和研究所という機関です。通称、SIPRIと言いますが、ここが出している統計をもとに軍事費ランキングを作って見ますと、1983年から2004年までの流れはこういうふうになります。

 1980年代に世界8位ぐらいだった日本のランキングは、だんだん上がってきて、為替の問題もあって1993年にどーんと3位まで上がってくるんです。そしてしばらく、10年ぐらい不動の2位を占めていたんですが、イラク戦争の関係でイギリスとフランスの軍事費が増えた関係で、4位に後退しました。後退したと言っても、世界第4位の軍事費というのはすごいものです。

日本がアジアの軍拡モードを刺激している

 ただ、ここで気をつけなければいけないのは、中国の位置もジワジワと上がってきているんですね。それから、この表はベスト8までですが、ベスト10までの表を作ると、韓国とインドが時々入ってきます。アジアで戦争が行われていないにもかかわらず、日本、中国、韓国、インド、それに台湾、このあたりがしばしばベスト10に入ってくるということは、アジアが我々が想像している以上に軍拡モードになっているということなんです。

 実は、日本ではアジアが軍拡モードになっていることを全然意識していないんですが、それを引っ張っているのが日本なんです。日本の軍事費が増大する、あるいは日本の軍事力が増強されると、それに刺激されて──これは多くの日本人はそう思っていないのです。日本の軍事力が他国を刺激しているとはほとんど思っていないんですが、しかし、当然軍事費は多いものが少ないものに刺激を与えるに決まっているのです。

 日本が中国に影響を与えると、これが厄介なんです。中国に影響を与えると、必ずインドが軍拡するんです。インドが軍拡すると、パキスタンが必ず軍拡するんです。連鎖反応が起きているんです。当然、中国が軍拡すると台湾が軍拡しますし、そういうふうに一国が動き出すと連鎖反応的に玉突きでどんどん変わっていくんです。

 もっと言いますと、インドが軍拡すると、その周辺諸国、例えばタイだとかマレーシア、このあたりが軍拡をします。マレーシアが軍拡するとインドネシアが対抗して軍拡してきます。というふうに玉突きがどんどん起こってしまうんです。

 また、インドが軍拡すると今度はパキスタンが軍拡して、それに反応して中東諸国が軍事力を拡大するという、そっちにも走っていく。

世界第2〜4位の軍事費

 とにかく日本の軍事費というのは、これで見ますと、最近では絶対額で約5兆円弱というところなんですが、これはGNPで1%枠があるのかないのか議論になりますが、日本のGNPというのは日本人が考える以上に非常に巨大なものですから、1%であっても世界で2位、3位、4位というぐらいに位置する巨額の費用です。

 もっともアメリカは桁外れです。アメリカは桁外れで、世界の軍事費の半分を一国で出しています。アメリカの軍事費の巨大さというのは、ベラボウなものです。ですから、アメリカを基準にして考えては駄目なんです。アメリカという国は異常な国なんです。たった一国で世界中の軍事費の半分を出しているような超軍事大国ですから、ここを基準にして、いいとか悪いとか、少ないとか多いとか言い出したら駄目なんです。判断する基準が誤っているんです。

 まず以上のようにアウトラインを掴んでおきまして、その次は、自衛隊の絶対量と言いますか、軍事力の数の面ですが、【表2】です。「戦後日本の軍事力」ということで、警察予備隊ができた1950年から2005年までの変遷を辿っていますが、ここで最近の非常に顕著な変化は、海上兵力、つまり海上自衛隊の増強が著しいということです。

 この15年ぐらいを見てみると、例えば1990年の段階で海上自衛隊は75隻です。これは75隻しか船がないという意味ではありません。主要な艦艇(護衛艦・潜水艦などの主要戦闘艦艇)だけで75隻だということです。75隻で31万9千トンの総トン数であったのですが、2005年には69隻で43万8千トンになっています。ということは、この15年間で船の数はむしろ減っているのに、12万トンぐらい増えているのです。これはどういうことかと言いますと、一隻あたりが大きくなっているということです。

 実は船の大きさというのは重要なことなんです。一般的に日本の護衛艦というのは、もともとは日本近海だけで活動できればいいので、あんまりたくさん燃料を積む必要がない、だから小さな船でいい、ということになっていたんです。ところが船が大きくなっているということは、当然これは航続距離を伸ばすためにたくさんの燃料を積むようになってきたということです。

 軍艦ですから、あまりあちこちに寄港しないでもいいように、一回給油したら出来るだけ長い間走れるように作られています。軍艦があちこちの港に寄ってその度に給油しているということになると、これはスピードも遅くなるし、秘密も漏れることになるので、なるべくたくさんの燃料を積んで一気に目的地まで行く、ということを考えるんです。ですから当然船はどんどん大きくなっていく。つまり、遠征能力を高めているということなのです。もちろん艦艇の大型化には、武装が非常に大掛かりになってきているという要因もあります。

海上自衛隊は世界第5位の海軍

 先ほどから言っていますが、「現状に合わせて原則を変えましょう」と言った場合の、「現状」とは何かということです。これで見ても分かりますように、日本の軍事費というのは巨大なものですし、海上自衛隊は世界第5位の海軍です。

 1位はアメリカで、総トン数500万トンというベラボウなものですから、これは比較することはできませんが、第2位はロシアです。200万トン。しかしその半分以上はスクラップだと言われています。港に浮いているだけ、という状況ですね。半分沈没しかかったりしているものもある。海に浮いている船というのは、塩水で腐ってくるんです。だんだん鉄板が薄くなってくるんです。そのうち、知らないうちに沈没したりすることがあるんです。

 かつて、旧式のソ連の原子力潜水艦が老朽化して、非常に危ない状態になっているということが報じられて、ソ連が崩壊したあと、日本政府がロシア当局に問い合わせたことがあるんですが、「大丈夫だ。危なくなったらちゃんと日本海に捨てている」という返事があり(笑い)、ちっとも大丈夫じゃないことが判ったのですが、そんなことをしなくても、どこかで自然に沈んじゃうことも結構あるんじゃないかと思います。海に浮かんでいる船というのは、メンテナンスをしないと、あっという間に悪くなって、使い物にならなくなっちゃうんです。ですから、ロシアが200万トンと言っても、実態はよく分かりません。

 3位は、内水、つまり河川用砲艦を非常にたくさん持っている中国です。約100万トンです。外洋艦隊化していないにもかかわらず、結構トン数はあるんです。4位は、大英帝国の遺産があってイギリスです。70万トンです。その次が日本で43万8千トン。その次がフランス、インド、というふうに続きます。ですから海上自衛隊というのは大きな、世界的に見ると上位に食い込む海軍なんです。

自衛隊の軍事力の二重に歪んだ実態

 で、自衛隊の軍事力の特徴とは何なのかというと、私は「二重に歪んだ戦力」と言っています。なぜ二重に歪んでいるかというと、まず米ソ冷戦時代に、警察予備隊から保安隊、自衛隊となったわけですが、このときに基盤が歪んでいるんです。つまり対ソ戦、ソ連に備えるということで、まず非常に歪んだ軍事力になりました。どのように歪んでいるかというと、対潜水艦戦能力の過剰です。ソ連の潜水艦を追跡して撃沈するための能力が異常に肥大したんです。

 P3C対潜哨戒機──これはロッキード事件のもとになった飛行機ですが、これはよく飛んでいます。厚木に結構いますし、米軍のものもあります。日本はこれを約100機持っているんです。これはソ連の潜水艦を追跡して攻撃するための決め手となる飛行機なので、こんなにたくさん持っているんですが、世界でP3Cを100機も持っている国は、アメリカを除いて他にはありません。アメリカの同盟国では日本が一番持っているんです。持っているですが、今や使うところが無いんです。ロシアの潜水艦も、どこの潜水艦もそんなにたくさん活動していませんので、こんなにたくさん持っていてどうするのか。

 しかもこれは、たくさんあるなら一旦どこかにしまっておけばいいんじゃないかと思いますが、そういうわけには行かないんです。兵器というのは、常にメンテナンスをしていないと、使えなくなっちゃうんです。先ほど船のことを言いましたが、飛行機もそうなんです。10年ぶりに使う飛行機なんか、危なくて使えないわけです(笑い)。ですから、少なくても毎日点検して、飛ばさないと駄目なんです。こんなにたくさん持っていてどうするの、という状態になっています。これは冷戦時代の遺物なんです。

 それから、対潜水艦戦用護衛艦の過剰です。世界的に言うと、日本の護衛艦というのは駆逐艦のレベルなんですが、海上自衛隊の護衛艦は独特の構成になっていまして、ミサイル護衛艦(DDG)──イージス艦なんかもここに入りますが、それからヘリ搭載護衛艦(DDH)、それから汎用護衛艦(DD)、汎用というのはいろんな面に使えるということですが、国際的にはDD〜という記号は駆逐艦を表します。日本の護衛艦は、DDG・DDH・DD(汎用)の3本柱になっていて、どれにもヘリコプターを搭載するというのが日本の護衛艦の特徴です。どの護衛艦も大体ヘリコプターを積んでいるんですが、わざわざヘリ搭載護衛艦(DDH)というものがあるのは、この艦種が3機のヘリコプターを積んでいるからなんです。これは非常に独特です。駆逐艦レベルでヘリコプターを3機も積んでいるというのは、世界的にも珍しいものなのです。

 実はこのDDHがいま問題になっています。2004年度予算で新型のDDH、ヘリ搭載護衛艦の建造が認められました。これは、元々の古いヘリ搭載護衛艦、「はるな」型というのが艦齢30年に達していて、スクラップ寸前になってきている。だから新しいものを作ります、ということで認められたのです。「はるな」型は排水量約5000トンで、結構大きな船なんです。ヘリコプターを積むために大きくなっているんです。5000トンもあれば普通は駆逐艦の範疇ではないんです。昔だったら軽巡洋艦の範疇になるんですが、それでもまあ一応、護衛艦ということになっています。

 ところがその5000トンの旧式護衛艦を代替し更新するんだと言って、13500トンもの新しい護衛艦を作ることになったんです。5000トンの更新で13500トンというのは、いくらなんでも大きすぎると誰しも思います。新しいものに更新したときに、3倍近い大きさになってしまうというのは、これはちょっと詐欺ではないかと思います。古いものを新しくするんだというだけで予算が通って、それで作ってみたら実は違うものが出来ていた。単に古いものの更新ということでは済まされないものが出来ているんです。

 【資料2】に、防衛庁が発表しているそのイメージ図があります。新型ヘリコプター搭載護衛艦、これは16DDHというふうに通称されています。これを見ると、空母じゃないか、と誰もが言います。だけど、これは護衛艦です、駆逐艦です、ということになっている。なんでこれが空母じゃないのかというと、空母と名づけていないからです(笑い)。

 実は空母であるかないかというのは、ヘリコプターなり航空機を常時積んでいるかどうか、その積載能力があるかどうか、ということなんですか、その能力はあるわけです。で、従来のDDHはヘリコプターを3機積んでいるんですが、この16DDHは4機なんです。えらく大きいのに、ヘリコプター4機というのは、なんかおかしいですね。「4機常時積める」という説明なのですが、多分その説明はだんだん変わっていくんだと思います。「4機同時に離発着できる」とかにだんだん変わっていって、実はもっとたくさん積んでいるということに──。こんなに大きくて4機しか積めないなんてことは、およそ考えられません。

 これは空母なのかと問われると、「DDH、つまりヘリコプター搭載の護衛艦の更新なんです。その証拠に、今まで3機だったけど4機しか積めません。だからあくまでも従来の護衛艦の改良版なんです。ちょっと大きいけど」──という説明で多分逃げると思います。ところが、こんなのが出来上がってきて、どう見てもこれは空母ですよ。ああ、空母があるんだ、と多くの人が思っちゃったら、空母です。そういうふうにみんなが思ってしまったら、もうこれは空母であると名乗っても全然おかしくない。そういう鵺(ぬえ)みたいなものを作っているわけです。

 それで大きな反発がなければ、もっと大々的に堂々と軽空母、あるいはヘリ空母と言われるものを多分作ると思います。ですからこれは、世論との力関係です。それを、持っているんだからしようがないんじゃないの、と我々が言ってしまったら、次に出てくるのは堂々たる空母です。

 13500トンというのは、こういう船ばっかり載せた世界的な年鑑、「ジェーン海軍年鑑」というものがあるんですが、その中で「日本の新型ヘリコプター搭載駆逐艦」──駆逐艦というのはデストロイヤーです。直訳すれば破壊者ですが──クォーテーションマーク(引用符)が付いているんです。「これで“駆逐艦”だってよ」という、皮肉っぽい書き方がしてあるんです。13500トンで駆逐艦というのは無いだろう、ということです。かつて戦前においては1万トン以上は戦艦だったんですから、「13500トンで駆逐艦というのはないでしょう」というニュアンスを込めて、皮肉っぽく書いているんです。しかし防衛庁は、あくまでも「これは旧式ヘリ搭載護衛艦の更新なんだから、護衛艦です」というふうに説明しています。

 こういうふうに新しいものが作られており、特にここが対ソ連潜水艦戦という──なんでヘリコプターを積んでいると潜水艦戦なのかというと、ヘリコプターを使って潜水艦を探して攻撃するんですね。船よりも早いし、哨戒範囲が広いので、対潜水艦戦の切り札がこのDDH、ヘリ搭載護衛艦なんです。ですからこれは、冷戦時代からの名残りなんです。それをまたまた新しいものを作ろうとしているんです。大前提が変わっちゃって、追いかける潜水艦がいないのに。ときどき中国の潜水艦が変な所を通って問題になっていますが──。かつての旧ソ連の潜水艦の数というのは、日本近海だけで20隻とか30隻とか言われていたんですが、現在のロシアの潜水艦で日本近海で行動しているものは、確認できるものは1〜2隻です。冷戦時代の対潜哨戒機とヘリ搭載護衛艦で潜水艦を追いかけなければいけないという状況は、もう前提が無いんです。前提が無いにもかかわらず、歪んだ前提に基づいた軍事力がまた更新されているわけです。これが第一の歪みです。

湾岸戦争以降に肥大化した「情報収集能力」

 第二の歪みは湾岸戦争後──1991年に湾岸戦争がありましたが、それ以降に肥大化した遠征能力、遠くへ行く能力を備えた新しいタイプの軍事力。それを象徴するのが情報収集能力を強化したイージス艦です。

 本来イージス艦というのは、アメリカの空母機動部隊を守るための防空護衛艦なんですが、日本はそれを導入しました。これは単なる軍艦ではありません。情報収集という点に非常に重きを置き、強力なレーダーを積んでいます。ときどき日本海で北朝鮮がミサイルを撃って、どこから発射してどこに落ちたとか報道されますが、それを誰が確認しているのかというと、このイージス艦なんです。イージス艦が常に一隻日本海に居て、そのレーダーで北朝鮮の動向を常に見ているんです。で、どこからミサイルを撃って、どういう弾道でどこに落ちたか、というその一部始終を確認しているのがイージス艦なんです。

 これももちろん軍艦なんですが、実は非常に情報収集能力に長けて特殊な船なんですね。1993年に「こんごう」型というイージス艦が就航しまして、現在4隻います。

 そして昨年(2005年)、ずっと「改こんごう」型と仮称されていたんですが「あたご」型という名前になって、5隻目のイージス艦がすでに進水しています。これは多分、来年か再来年には就役するでしょう。海上自衛隊は4つの護衛隊群(昔でいう艦隊)になっていて、大体4の倍数で船を作っていますから、イージス艦は現在4隻ですから、将来的にはこのあと4隻作っていくんだろうと思いますが、これは一番お金が掛かるんです。自衛隊が購入している艦隊の兵器で一番高いのが、このイージス艦なんです。

 どれぐらいのお金が掛かるのかということを、【表3】に載せておきましたが、「改こんごう」型イージス艦1隻で1474億円です。この表を見ちゃうと、「戦車は8億円で安いなあ」と感じますが(笑い)、これは極端にイージス艦などの軍艦というのは建造費がとても高いんです。16DDHも1056億円です。これは承認された予算ですから、大体作るともっと増えるんです。作るときにいろんな能力を増強したという名目で、増えるのが普通です。海上自衛隊というのはすごいお金が掛かるんですよ。潜水艦を1隻作ると600億円です。「おおすみ」型輸送艦でも273億円です。補給艦、これは結構目玉なんです。ペルシャ湾やそういう所に武器弾薬・燃料などを運んでいく船ですが、それでも400億円以上掛かります。

 航空自衛隊も陸上自衛隊も随分お金が掛かると言っても、この海上自衛隊のお金の掛かり方というのは、もの凄いものです。これは、戦前からそうなんです。建艦、軍艦を作るというのは非常にお金が掛かるんです。

湾岸戦争以降に肥大化した「長距離輸送力の向上」

 湾岸戦争以降、遠征能力と情報収集能力というのは極端に向上してきて、特に遠征能力、遠くに出かけるということで、日本の軍事力はまた二番目の歪みが出てきました。

 対ソ戦に備えるというのが第一の歪み、もう一つ、遠征能力を持つというのが第二の歪みです。もし現在、日本を防衛するということだけを考えるのであれば、対ソ戦能力も要らないし、遠征能力はそもそも要らないんです。日本を守るための世界中のどこかへ行くというのは、まあ海が繋がっているからと言われればそうですが、きりのないことです。ですから、遠征能力を持たせないことが一つの歯止めだったんです。その歯止めが破れてしまって、遠征能力が増大したことは、第二の歪みに繋がっています。ですから船はどんどん大きくなっています。

 その遠征能力の向上を象徴する船が、「おおすみ」という8900トンの輸送艦です。これは従来、自衛隊は300人ぐらいを乗せられる輸送艦しか持っていなかったんですが、この「おおすみ」型になって、いきなり1000人と90式戦車を──これは陸上自衛隊の最新式戦車ですが、これを輸送できるようになりました。

 それから「LCAC」(エルキャック)という、これはホーバークラフト(本来は「ホーバークラフト」は商品名で、正式には「エアクッション艇」といいます)ですが、ホーバークラフトで人員や車両を上陸させるものがあります。これは、なかなか強力なものなんです。ホーバークラフトというとイメージが湧かないかも知れませんが、上陸作戦というのは水際が一番危険なんです。水際でもたもたしていると、守っている側に反撃されて損害が多くなるんです。ですから水際をサッと通り抜けられれば一番損害が少ないんです。それが出来るのがホーバークラフトです。ホーバークラフトは海の上から地上までノンストップで行けます。もちろんこれにも欠陥はあります。大きな障害物があったらそれを乗り越えるということは出来ませんが、しかし少なくとも砂浜のような所だったら、海の上から内陸まで一気にノンストップで兵員や車両を輸送できるんです。これは現在の上陸作戦の一番の中心に位置付けられています。

 このLCACというホーバークラフトを2隻積んでいるのが、「おおすみ」という輸送艦です。この「おおすみ」型輸送艦は現在3隻就役しています。輸送艦には半島の名前を付けるということになっていまして、「おおすみ」「しもきた」「くにさき」です。

 海上自衛隊の船の名前の付け方は、基本的に旧海軍の名前の付け方を踏襲しており、先ほどの「こんごう」というのは山の名前です。山の名前は、旧海軍では重巡洋艦(大型の巡洋艦)の名前なんです。旧海軍の「こんごう」は戦艦だったろうというマニアの方もいるかも知れませんが、実は旧海軍の「こんごう」という船は巡洋戦艦という範疇で作られた船なので、名前の付け方は重巡洋艦の名前の付け方をしたのです。その名前を引き継いでいるんです。

 海上自衛隊というのは、公然と旧海軍の伝統を引き継いでいるんです。現在でも旧海軍の軍艦旗を使っていますし、出航するときは軍艦マーチで送られて、週に一回は必ずカレーライスが出るという(笑い)、旧海軍の伝統を忠実に守っているんです。さすがに陸上自衛隊が旧陸軍の伝統を引き継いでいると言ったら、ものすごい批判を受けちゃうんですが、海軍は、海軍びいきの人が結構政財界に多いということもあって、あんまり批判の対象にならないんですね。ですから名前の付け方もよく似ています。

 こういう遠征能力に重点を置いた軍事力が増強されています。「ましゅう」というタイプの補給艦もそうなんですね。これはテロ対策特措法が成立したときにちょうど起工したのですが、一応もともと護衛艦の大型化、行動長期化に対応するという名目だったのですが、あきらかに米軍に物を輸送するということを考えての輸送艦なのです。この「ましゅう」の13500トンというのは、現在自衛隊の中で一番大きな船です。

迷走する「新・防衛計画の大綱

 海上自衛隊のことばかりお話ししましたが、実は2004年の12月に「防衛計画の大綱」というのが新しくなりまして──「防衛計画の大綱」というのはどういう軍事力を保有するかというガイドラインですが、それを見るとものすごく迷走しているんです。はっきりした方針が打ち出せなくて、かつての遺産、冷戦の時代に対ソ戦能力というのをすごく向上させたのですが、これがまず前提がなくなっちゃったんですね。これを本当だったら抜本的に是正しなければいけないわけです。それから湾岸戦争以来、我々から見ると歪んでいるということなんですが、遠征能力、つまり専守防衛とはかけ離れた遠征能力が増強されてきました。

 二重に歪んでいるんですが、「新・防衛計画の大綱」では、ようやく今になって冷戦型軍事力を変える、と言い出したんです。今頃言い出したというのは、今頃冷戦型軍事力の増強なんて言ったら大変なことになるんで、もう言えない訳ですが、しかし現実にはさっきのDDHの更新を見ても分かるように、結局は惰性で進んでいるんです。かつての軍事力のパターンというのが、踏襲されているんです。

 この「新・防衛計画の大綱」の目玉は、「弾道ミサイル防衛システム」です。防衛問題で一番問題になるのが、例えば北朝鮮がミサイルを撃ってきたらどうするのかということですが、これを撃ち落すためのシステムである、ということなんです。実はこの弾道ミサイル防衛システムというのは、元々アメリカが開発したシステムで、弾道ミサイル──大陸間弾道弾とか、あるいは潜水艦発射弾道弾が打ち上げられて、その瞬間に察知して、それを追尾して、撃墜するというものです。ですから、非常に大掛かりなシステムです。人工衛星などを使わないと出来ないシステムです。

 これはアメリカも何回か実験して、成功と失敗が半々なのです。これはなかなか微妙なところで、ときどき失敗するんです。ですからどうも信頼性がないんです。信頼性がないんですが、それとほぼ同じシステムを日本も導入しようと言っているのですが、多分これはあんまり意味がないんです。

 と言いますのは、アメリカが実験しているのは、例えば旧ソ連、ロシアだとか中国とか、ICBMを持っている国がミサイルを撃って、アメリカ本土が直接狙われるという想定で実験しているんです。撃ってから落ちるまでの時間というのは相当あるんです。何千キロも飛んでくるわけですから。ですから撃った瞬間探知して、対策を立てて、もちろん今から会議を開いてということではありませんが、少なくても何十分かの余裕はあるんです。弾道ミサイルというのは、打ち上げたあと一旦大気圏外に飛び出します。空気のないところは摩擦がありませんから遠くまで飛ぶんです。そして大気圏に再突入するんです。ですから、打ち上げて大気圏外に出るまでに撃ち落とすか、宇宙空間で撃ち落とすか、再突入してきたときに撃ち落とすか、3回チャンスがあるわけです。アメリカが考えている弾道ミサイル防衛構想というのは、撃った瞬間、かなりまだ余裕がありますので、弾道計算が必ず出来る。どういうふうに飛んでくるかということを計算して、宇宙空間なり、再突入したときに確実に撃ち落とそうという、そういうシステムなんです。

 ところが日本の場合、北朝鮮がミサイルを撃って日本に飛んでくるまで、どれぐらい時間が掛かるか。九州が攻撃された場合は、10分も掛かりません。そうすると、打ち上げました、弾道計算をしています、落ちました、という状態になります(笑い)。このICBMを想定したミサイル防衛構想というのは、本当に役に立つのかどうか、実に疑問なのです。

 だけど、これがないと予算が取れない。これは予算を取るための航空自衛隊の目玉なんです。何でミサイルが航空自衛隊なのかというと、高いところの空は航空自衛隊の縄張りで、弾道ミサイル防衛構想というのは航空自衛隊がパトリオット・ミサイルを導入して──パトリオット3型と言うんですが、それを導入して組み立てたものなんです。

 弾道ミサイル防衛構想は、私にも批判が出来るぐらいですから、多くの批判が出るんです。このシステムを導入しても役に立たないんじゃないか、という批判は当然出てくるわけです。ところが、ここに絡んでくるのが、先ほどのイージス艦です。ここでイージス艦を使って、まだ大気圏外に出る前に、打ち上がって上昇しているミサイルを撃ち落とすんだ、ということにしているんです。それを入れないと、役に立たないんじゃないかという批判が出てくるものですから、そういうことにしているんです。そうなると、今度はイージス艦をいっぱい張り付けなければいけないということになって、これまた大変なことになるんです。

 ですからどう転んでも、このシステムがまた大変な大軍拡の火種になることは、間違いありません。これは、「北朝鮮脅威論」が後押ししています。

 それから、対ゲリラ戦能力を向上するんだと言って、陸上自衛隊は再編を迫られていますので、対ゲリラ戦部隊(西部方面普通科連隊)というのを設置しています。それから海上自衛隊は、実は沿岸警備の船がなかったのです。これは不思議なことですが、自衛隊と言いながら、沿岸警備をする護衛艦というのはなかったのです。これは実は海上保安庁の領分だからです。海上保安庁の縄張りだから、そこを荒らしてはいけないので沿岸警備をする護衛艦というのはなかったんです。ところが、沿岸警備用の船というと海上保安庁から文句が出るので、ミサイル艇という名前を付けて、作っています。これはいわゆる不審船対策というやつです。実は海上保安庁も同じ理由で新しい船をどんどん作っていますので、両方で不審船対策の船を作っているのです。こっちの方が不審船より必ず多くなります(笑い)。

 かなり軍拡モードになっていまして、いろんな理由を付けて新しい船をどんどん作っているんです。兵器の調達費がどんどん高騰しているので、先ほど【表3】をご覧いただきましたが、大変な値段なんです。今、戦闘の主役はヘリコプターなんです。海上でも地上でも、ヘリコプターが主役なんです。昔は地上戦は戦車が王様だったんですが、戦車の王様の地位はヘリコプターの登場によって揺らいでいるんです。ですから、陸上自衛隊も新型のヘリコプターの導入を行っているんです。だけど陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターAH-64Dは対戦車ヘリコプターですが、1機73億円もするんです。すごい買い物です。戦車が1台8億円ですから、すごく戦車が安い感じがしますね(笑い)。

 ところが、ヘリコプターというのは、戦車には勝てるんですが、下手すると歩兵に負けてしまうかも知れないんです。歩兵が持った携帯式のミサイルに撃ち落とされてしまう可能性があるんです。ちょっとジャンケンの関係みたいなんです。ヘリコプターは地上戦の王者に見えるんですが、思わぬ不覚を取る恐れもあるんです。ですから、ここを増強して本当に大丈夫なのか、ということあるんです。すごく金はかかるし。あと、地上の車両なんかも、ヘリコプターとか船に比べれば安く見えますが、結構な額なんです。

 【表3】に主な契約企業とありますが、三菱重工というのは軍需産業としては巨大ですよね。すべての分野に進出しております。巨大な軍需産業の中心です。

 兵器調達費がなんで高くなっているのかというと、例えば陸上自衛隊は戦車は国産じゃなきゃ駄目なんです。すごいブランド志向というか、国産志向があるんです。昔からそうなんですが、自前で戦車が開発できるのが一流なんだ、という考え方があって、日本も戦後、61式戦車、74式戦車、90式戦車という自前で開発した戦車を陸上自衛隊は持っています。

 その結果どうなったかというと、アメリカの戦車の価格が倍になっちゃうんです。輸出ができず生産量が少なくなるから、どうしても高くなるんです。異常に高い兵器を調達することになって、90式戦車は高くなりすぎて予定数を調達できません。それで旧式の74式戦車を改良する予算を請求しているんです。それからF2支援戦闘機も高くなりすぎて、予定数を調達する前に打ち切っちゃおうという話になっています。

 国産化にこだわって──安いところから買えばいいという話ではないですが──兵器を自前で作ろうとすると、大変な費用が掛かってしまって、これが軍事費を押し上げる一つの要因になっているんです。

軍縮の実現と平和の創造──まず日本が軍拡の連鎖を断ち切る努力を

 時間も押してきていますので、「軍縮の実現と平和の創造」というところに入りますが、必要なところだけをお話しいたします。大事なことは、まず、アジアにおける軍拡の連鎖を断ち切る必要があるということです。

 意外に日本では意識されていないんですが、日本の軍事力というのはアジアの注目の的なんです。日本から見ると北朝鮮だとか中国がどんどん軍拡をやっているというふうに見えます。確かに軍拡はやっていますが、日本の軍拡が口実になっているんです。もちろんアメリカ軍がいますからそれが中国や北朝鮮の口実にはなっているんですが、日本の軍事力の状況、あるいは質的な変化というのは、軍拡の非常に大きな要因になっているのです。

 やっかいなのは中国が軍拡に走ると、それに対抗するためにインドが軍拡に走り、インドが軍拡に走るとインド洋の沿岸諸国が軍拡に走る、という連鎖反応が起きてしまう。それをどう断ち切るかということですが、日本をこのままにしておいて、中国だけ軍縮してくださいというのは無理な話です。軍縮をどうやって提案するかというのは、自ら軍縮するというスタンスに立たないと無理です。自ら軍縮しないで、ほかの国にだけ軍縮してくださいなんていくら言っても、絶対に無理です。ですから、アジアにおける軍拡の連鎖を断ち切る努力を、まず日本が始めなければいけないということです。

歪んだ軍事力の解体を

 それから、冷戦のときに枠組みが作られた軍事力を解体していく、ということです。冷戦のときにどういうシナリオだったかというと、ヘリコプター搭載護衛艦とか、対潜哨戒機とか、そういうものが主役です。地上では戦車、対戦車ヘリコプターですね。ちょっと前まで陸上自衛隊の最精鋭部隊は全部北海道に集結していたわけです。これは北海道を防衛するためです。何から防衛するのかというと、旧ソ連時代には北海道が危ないというシナリオがあったからです。

 なぜ危ないのかというと、1970年代に「3海峡封鎖」論というのがありました。一番重要なのは、ソ連の原子力潜水艦を太平洋に出さないことです。太平洋に出てしまうと、いつ何時、そこからアメリカに向けてミサイルを撃たれるか分からないので、何がなんでもソ連の潜水艦を日本海に閉じ込めちゃう。閉じ込めるためには、3海峡を封鎖するわけです。対馬海峡と津軽海峡と宗谷海峡を。間宮海峡も入れると4海峡になりますが、間宮海峡はミサイルを積んだ大型原潜は通れないんです。ですから、事実上は3つの海峡です。

 特に重要視されたのは宗谷海峡で、これはサハリンと北海道の間ですから、ソ連潜水艦としては通りやすいわけです。で、この宗谷海峡を封鎖するとどうなるかというと、ソ連の原潜は太平洋に出られません。ソ連としては困ったなあ、ということになりますが、困ったなあ、とばかり言ってはいられません。ソ連としては宗谷岬を占領して突破して行くだろうと思います。だから日本側は何がなんでも宗谷岬を守らなければならない。宗谷岬を守るためには、旭川に日本の最精鋭部隊を集結させて、宗谷岬を守ろうという、そういうシナリオだったんです。

 ですから、陸上自衛隊の精鋭部隊は北海道、特に旭川辺りに集結させるということと、万が一ソ連の潜水艦が太平洋に出た場合には、対潜哨戒機とヘリコプター搭載護衛艦で追跡して攻撃する、こういうシナリオであったんですね。

 ところがこれは、大前提が崩れちゃいました。そういう危険性が無くなっちゃったのです。そうすると北海道に終結させておいた陸上自衛隊の使い途もありませんし、ヘリコプター搭載護衛艦の対潜哨戒機も使い途が無くなっちゃったんです。使い途が無くなっちゃったんですが、さっきのDDHの更新のように古くなったから更新します、という理由で、実は知らないうちに遠征能力もつけ加えて、新しいものを作っちゃったんです。

 この歪んだ──冷戦のときに枠組みが作られた軍事力を、徹底的に変えて行くということが行われなければいけないんです。

新たな「脅威」を作らない

 それから、「新たな脅威」を作らない、作らせないということが重要です。北朝鮮や中国が脅威だとか、潜在的脅威だとか言われているわけですが、北朝鮮について説明しますと、北朝鮮が本格的に日本に上陸作戦や侵攻作戦を行えるのかというと、行えません。

 なぜかというと、北朝鮮がそれだけ大規模な作戦をやろうとすると、まず制空権を確保するというのが常套手段ですが、北朝鮮空軍というのは、ここ数年間、大規模な演習をやっていません。自信満々で演習をやっていないんじゃなくて、燃料不足で出来ないんです。一説によると北朝鮮のパイロットの飛行時間というのは信じられないほど少なくて、何十時間しかないパイロットがいると言われています。これははっきりした情報ではありませんが、しかし、ぶっつけ本番で空軍出動というわけには行きません。ということは、ほとんど空軍力が無力化しているということです。空軍力が無力化している状態で、上陸作戦だとか地上戦は絶対に出来ません。

 北朝鮮というのは、統計上は極めて大きな軍事力を持っていて、陸軍力だけで100万も持っていると言われています。100万も持っているというこの数字をどう見るかが重要です。100万も持っていたらさぞかし強いだろうと考えますが、100万もいたら武器弾薬が行きわたりません(笑い)。

 これは、本土決戦時の日本軍を見れば分かります。本土決戦時の日本軍は、本土だけで200万とか300万とか居たんです。ところが、多すぎて逆に小銃すら行きわたらない状態でした。生産力もないし、軍事力全体が衰えていたということもあるんですが……。

 100万も居るということは、多すぎて逆に──それを全部動かそうと思ったら大変な武器弾薬と燃料が要るんです。全体はとても稼動できません。極めて限定したものしか動かせないのです。よく防衛白書なんかに、どこどこの国は陸軍力100万とか書いてありますが、その数字が額面通りに動けるかどうか、100万が動けるかどうかは別問題なんです。むしろそんなに抱えていたら、非常に大変なんです。あのお国柄ですから、軍縮しようにも出来ないというところがあるんでしょうね。逆にそれだけの軍事力を抱えているがゆえに、ますます厳しい状態になっているということです。

 ですから軍事力は額面通り動かないので、それ核兵器だとか、ミサイルだとかということで宣伝するわけです。それで圧力をかけるのです。つまり、額面通りに普通の軍事力は動きませんので、ミサイル、あるいは核兵器ということで圧力をかけるという戦略なんです。

 もっとも、核ミサイルがちゃんと開発できている、という確定した情報はありません。核兵器は持っていると言っていますが、核ミサイルを持っているとは言っていないんです。ここは結構重要なんです。ミサイル実験は結構やっていますが、ミサイル実験をやっていて「核兵器を持っている」と言うと、みんな頭の中では核ミサイルを持っていると思うんですが、実は核兵器を持っていることと、核ミサイルを持っていることは、技術的には2段階ぐらい違うんです。核兵器をミサイルにするには弾頭の小型化をしなければいけないのですが、これは結構難しい技術なんです。一方でミサイルを持っていて、一方で核兵器を持っていても、実は核兵器を積めないミサイルだ、という可能性もあるんです。

 これは、核兵器の開発の歴史を見ると、アメリカが最初に実験した水爆は重量が何十トンもあって、飛行機でも運べないようなものだったんです。この段階のものは、開発の最初には結構あるんです。

 軍事問題の情報というのは、半分は宣伝なんです。アメリカも北朝鮮も、いかに自分に都合よく宣伝するかという情報戦なんです。それを額面通り受け取ると、ややこしいことになっちゃいます。

 それから、中国の脅威も結構言われます。特に最近は潜水艦だとか中国の艦艇があちこちに出てきますが、中国は外洋艦隊化はまだ出来ていないんです。アメリカだって中国の軍事力が脅威になりつつある、ということまでは言えないんです。ただ、先を見越して脅威を作らないとアメリカ本体の軍拡が出来ないので、中国をターゲットにしていろいろ言っていますが、中国の海軍の外洋艦隊化は相当時間が掛かります。そういう点では、かつての極東のソ連海軍なんかに比べると、遥かに小規模なものです。

 ただ、中国の中には、外洋艦隊化を進めようとか、航空母艦を持とうとか、あるいは上陸作戦が出来るようにしようという動きは、確かにあるんです。だからこれに口実を与えてはいけないんです。そういう動きがあるから日本もアメリカと協力して抑えに掛かろう、という動きを示すと、それを口実にして軍拡が進んじゃうんです。ここが非常に重要なところなんです。

 こういうアジア情勢、軍事情勢というのは、なんでこの情報が流されるのか、ということをまず疑ってかかる必要があります。情報戦であるということを考えなければいけません。つまり、どこかが、何かの都合のために流している情報を額面通り受け取ると、とんでもないことになります。これも一つのポイントです。

戦争を行う3要素(ハード・システム・ソフト)、ソフトの部分で押し返そう!

 憲法の問題が最終的に重要なことになってきますが、残念ながら自衛隊の軍事力というのは相当強化をされていて、兵器体系というハードの部分では、先行して強化されています。

 それでシステム、法体系、ここは有事法制などですが、ハードに追随して進んでいます。

 問題はソフトなんです。考え方です。つまり、憲法9条を変えていいんだ、という考え方が広まると、今までの価値観がガラッと変わってきて、戦争容認の価値観に基づいて新しいシステムとかハードがまた増強されていってしまうという悪循環になります。

 ハードとシステムの面では、かなり既成事実が進んじゃっていますが、まだソフトの部分では私たちが押し返す余地がかなりある。ですからここをなんとか足がかりにして、戦争容認の価値観を広めないようにする。ここがこれから大きなポイントになってくると思います。

 予定の時間を押してしまいましたが、私の話は以上です。どうもありがとうございました。 (拍手)

質疑応答

司会 どうもありがとうございました。大変面白いお話でした。私は軍事の問題など全く知識がなくて、駆逐艦がなんだとか、それが何トン止まりだとか全くわからず、先生のお話を聞いてそういうことなのかと思いました。先生のご本には、『零式戦闘機がなぜ零式なのか』ということが書いてありました。また戦車には、90式とか、99式とかという名前が付いていますが、そこの辺りをもう少しご説明いただきたいのですが。

山田 兵器の名称の付け方というのは、旧陸海軍の伝統がありまして、陸上自衛隊は旧陸軍の伝統を引き継いで、その兵器が採用された年を名前につけています。例えば90式戦車というのは、1990年に正式に採用されたので『90式戦車』。戦前は西暦ではなく、紀元2600年を基準に考えましたので、例えば零式艦上戦闘機は2600年、つまり00。1式戦闘機・隼は紀元2601年に採用されたので、1式となるわけです。
 では38式歩兵銃というのはいったい何かというと、明治38年(笑い)。昭和の初めまでは元号だったんです。昭和3年(1928年)までは元号を基準に名前を付けたのですが、その後『元号』から『紀元』に変わり、戦後は西暦と変わりましたが、年号をつけるというのは一貫しています。これが陸上自衛隊の伝統なんです。
 海上自衛隊は先ほども言いましたが、これも旧海軍の伝統を引き継いで、大型艦には山の名前、駆逐艦レベルは気象・天候の名前で、潜水艦以外はほぼ同じ名前の付け方をしています。航空自衛隊は伝統がありませんので、これはアメリ力と同じ名前の付け方をしています。
 このように三つの自衛隊はバラバラなのです。旧陸海軍もバラバラだったのですけれど、現在の自衛隊も実はバラバラで、お互い敵同士です。予算獲得戦争では明らかに海上自衛隊が優位を保っています。陸上自衛隊と航空自衛隊は、いかに海上自衛隊の足を引っ張るかに全勢力を注ぎ込んでいる訳です(笑い)。この三自衛隊の闘いというのは、なかなか熾烈なものがあるんです。どうしても軍隊というのは、縦割りになっていくんです。

質問1 細かいことなのですが、レジュメにあった『在外邦人救出』というのは、出来るようになったのでしょうか。

山田 これは私、説明を割愛してしまったのですが、レジメに『在外邦人救出のための艦艇使用』があります。『おおすみ』という輸送船が完成した時に、自衛隊は『在外邦人救出のために船が必要なんだ』と説明したのです。実はそれ以前は飛行機による在外邦人の救出は出来たんです。飛行機で在外邦人を救出するのは自衛隊法に規定されていて出来たんですが、飛行機だと場所と人数が限られてしまうので、どうしても船も使いたいということで、1999年5月に自衛隊法の改正があって、『在外邦人救出』のために船を使ってよろしいということになったのです。
 しかし法律がそうなったときには、実はもう『おおすみ』は完成していたのです。ここが中々すごいところです。こういう船が必要だから造ります、と言って法律が変わったときに、船はすでにあるんです。手回しがいいなんでものじゃありません。法律の審議に合わせて急に船を造り始めたという話ではありませんから。船を造る方が先なんです。ハード先行で、法律改正を見越して、ハードが作られて行っちゃうんです。船の方を造ってしまったあと、法の改正が後を追いかけるという形です。『おおすみ』はその典型的なものです。
 ですから、現在は『在外邦人救出』のために船は使えます。そのための一番重要な船が、『おおすみ』です。

質問2 もの凄い兵器をたくさん持っているのですが、戦争をするときは国民に相談しないとよく言われますが、全くその通りだと思いますが、つまりこれは無駄遣いということですよね。

山田 そうです。

質問2 このところ大雪で大変で、津波とか、地震も大変です。軍備ではなく、気象とかにもっと研究のお金をかければ、雪が降るのは止められないけれど、その対策は立てられると思うのです。そういうこととの比較で、今のお話と合わせて、無駄遣いはいろいろあるけれども、軍備は最大の無駄遣いだということですよね。
 私たちは女性ですから、平和だと言われながら実際には3万人も4万人も自殺者が出ていますね。そういうことから見ても、これだけのお金があれば──。そのことの方が国を守るのだという確信を持ちたいのです。男性の方は船とか飛行機にお詳しい方が多いのですが、これからそういう(軍備の)技術をどう生かすかということを含めて、軍備は最大の無駄遣いなんだということを今日は学んだのかな、というふうに思ったのですけれど。

山田 軍事技術が民生に転用されて、結果的に我々が恩恵を蒙ることもあるのですが、だから軍事開発が必要だという論理にはなりません。つまり、どうして軍事技術が民生技術に先行するかと言えば、それに一番お金を掛けているからなんです。そのおこぼれで民生技術も向上するということがあるんですが、結局軍備が一番重要視されて、そこに最先端の技術とお金と人材が投入されているので発達する訳です。どこに重点を置くかという考え方が変わりさえすれば、そこにお金が投入されていく訳ですから、そこの技術が発達することは当然あるわけです。それは予算の掛け方の問題です。広い意味での安全保障、国民のための安全保障ということを考えると、軍事力による安全保障はその極々一部であって、軍事的にどこかの国が攻撃してきて命を無くすということより、雪降ろしのときに屋根から落ちて命を無くすことの方が確率は高いのですから、本来ならばそういう予算の使い方がされなければならないはずなんです。

質問3 先ほど、日本の自衛隊が増強すると中国、パキスタンの軍拡が玉突き状態になる、と言われましたが、逆に『軍縮の玉突き状態』は過去にあったのでしょうか。

山田 『軍縮の玉突き状態』というのは、第一次世界大戦が終わったときにありました。陸軍力の軍縮から始まって、海軍力の軍縮条約へ。これはワシントン軍縮条約、ロンドン海軍軍縮条約という形で、第一次世界大戦後20年ぐらいは軍縮モードで動いていたのです。ところが、海軍軍縮というところで逆転が起きてくるのです。それはなぜかというと、日本海軍が軍縮に反対しはじめて、ロンドン海軍軍縮条約から離脱してしまうのです。そうすると今度は軍縮に回っていた歯車が逆に軍拡に動き出して、これまた止まらなくなったのです。 ですから軍縮モードになったことはあるのです。ただ、それを継続するということはかなりの努力、知恵が必要です。過去の失敗があるので、それなりの教訓があるはずです。それをどう活かすかということだと思います。

質問4 先ほど、北朝鮮のミサイル云々というお話がありましたが、人によってはこういうことを言う人がいます。『日本には原発などの核施設が結構あり、それに当たったら大変なことになる。そこでアメリ力軍などの先制攻撃を期待する、というようなこともあるのではないか』と。アメリ力が北朝鮮に先制攻撃したときに、北朝鮮が反撃してきてミサイルが原発に当たるというようなことが実際にあるのか、お伺いしたい。

山田 よく言われますね。北朝鮮のノボドンとか、テポドンというミサイルは、ノドンクラスの射程距離1500キロぐらいでも、かなり日本の重要な部分は狙えます。それが飛んで来たら、日本海側に原発がいっぱいありますから、それに命中したら大変なことになる。つまり、核ミサイルでなくても、大変な被害が起きるわけです。
 北朝鮮が開発したノドンミサイルの技術的な基礎は、スカッドミサイルという、旧ソ連が開発したミサイルです。このスカッドミサイルの技術を応用してノドンを作りました。どれぐらいの命中率かと言いますと、ピンポイントで特定の施設を破壊できるだけの命中率はありません。ですから一基の原発を破壊しようとしたら、数十発、あるいは数百発の単位で打ち上げて、同じところを攻撃するということになります。その程度の命中率です。核ミサイルであれば別ですが、通常弾頭ですと、特定の施設をピンポイントで破壊するだけの能力がありません。それをやろうとしたら、数百発の単位で撃ち込んで、その中で一発当たるか当たらないか、という確率です。
 じゃあ、北朝鮮がどれくらいミサイルを持っているかというと、数百発持っていると言われています。ところが、それに詰める燃料がどれぐらいあるかというと、多分同時に飛ばせるミサイルの数は、ノドン級ミサイルですと100は無い。あれは液体燃料ですから。ミサイルの燃料というのは、常に充填されているのでなく、いよいよという時に充填するんです。ですから、常に新しいものを用意しておかなければならない。それを同時に注入して発射するわけですが、発射能力と燃料ストックからして、多分50発とか、そんなところだと思います。そうすると50発同時に発射しても、命中率から言うと、ピンポイン卜で特定の原発を狙ったとしても一発も当たらないことになる。そんな効率の悪いことをやるだろうか。まぐれで当たるということも当然ありますが、少なくても軍事的に考えた場合、そのようなことに踏み切ることはちょっと考えられない。いっぺんにすべての手持ちのカードを一つの目標に向かって使ってしまって、二の矢が放てないことになる。しかもそれは効果がないかもしれない。あれ(ミサイル)は、使わないことに効果があるんです。使わないで、持っているぞ、と見せてカードとして切る、というのがポイントです。
 しかも北朝鮮のミサイルというのは、外貨を稼ぐ材料なのです。北朝鮮からミサイルを輸入している国というのは、若干あるのです。外貨を稼ぐ重要な商品でもあるので、その性能がばれるようなことは誰もしたくないんです(笑い)。あれは、撃たないことにポイントがあって、あれを同時に全部使ってしまうというようなことは、常識的には考えられません。
 ただ、破れかぶれになって何をやるか分からない、ということはあるかもしれませんが、一番重要なカードを一気に全部切ってしまうということは、玉砕を覚悟する気ならば別ですが、北朝鮮は意外と強かなところがありますから、それは選択しないのではないかという気がします。ただ絶対に無いか、と言われれば分かりませんが、純軍事的に考えれば、そういう作戦は採れないと思います。

質問5 改憲派の人からよく、『スイスも軍隊を持っているよ』と言われるんですが、そのときに、それに対抗してヤッという言い方が、何かないでしょうか。

山田 スイスは『武装中立』という考え方ですね。かなり強固な武装中立です。スイスは何カ国にも国境を接しています。歴史的に見ても、相当周りに常に大国が現れます。ドイツ、オーストリア、フランス、イタリアなど、常に大国の脅威に曝されています。その中での『武装中立』という伝統ですから、これは今までの歴史の中で中立のあり方をずうっと保って来たということです。ですから、軍隊があっても、それには歴史的な背景があってそうなっているのであって、日本のような島国の場合は、大分考え方が違うのではないかと思います。
 日本人はかつてアメリ力がどんどん上陸作戦をやったことで、上陸作戦はわりに簡単にできると思い込んでいるところがありますが、上陸作戦が出来る国というのは、世界でアメリ力と、ロシアが出来るかどうかというところなんです。あとはイギリスもかつてフォークランドでやったので、まあ出来なくはないと思いますが、あと大規模な上陸作戦を出来る国というのは、ほとんど無いんです。
 となると、どういう軍事力を持つかとか、どういう安全保障政策を採るかは、一般論では片付けられない、その国その国が置かれた地理的な状況が重要になるのです。ですから、日本はこの地理的な状況を活かせば、重武装はおよそ必要でなくて、事実上現在の海上保安庁レベルでたいていは事足りているんです、現実には。
 そこまで無くしてしまえというのはなかなか大変だと思いますが、海上保安庁レベル──日本の海上保安庁というのは結構大きくて、世界で有数のコーストガードになっていて、それはそれで問題なのですが、それをちょっと置いても、海に囲まれているということを上手く利用した安全保障のあり方はあると思います。スイスとは前提が違っていて、日本に合ったどういうやり方があるのか、という、そういう問題だと思います。

質問6 二点お訊きします。先生の本の中で靖国神社に葬られている人は、太平洋戦争で300万人が亡くなった中で、200万人が葬られていると書かれてありましたが、あとの100万人はどういう基準で葬られなかったかのでしょうか。
 もう一点は、徴兵制のことが書いでおりました。ちょっと思い出したのですが、映画『華氏9・11』でマイケル・ムアーがアメリカの国会議員に「あなたの息子はイラクに行っているのか」と突っ込みますが、実際に議員の息子の中でイラクに行っていたのは一人だけだった、というのを聞きました。実際にベトナムとかイラクに行っている方というのは、市民権を得るためだとか、大学の授業料が無料になるということで行っている訳ですよね。日本も徴兵制じゃなくて、アメリ力みたいな形で自衛隊を補充する可能性はあるのでしょうか。

山田 あとの質問から言いますと、そういうやり方は当然出てきます。徴兵制を敷くということは、逆に今、なかなか難しいし、あまり必要ないんですね。 徴兵制というのは近代国家特有のもので、膨大な陸軍力が必要とするときに徴兵制を敷いて、大量の兵隊を安く獲得することを考えたのです。しかし現在は、それはなかなか出来ません。なぜかと言えば、陸上自衛隊にしろ、海上自衛隊にしろ、航空自衛隊にしろ、現在徴兵制を敷いたとしても、1〜2年位しか職場から離すことは出来ません。それぐらいの訓練では、航空自衛隊だったら全く役に立たないし、海上自衛隊でも役に立たないんですよ。陸上自衛隊だったら下働きで役に立つかもしれませんが、あんまり要求されていないんです。
 しかし、いろいろな形で兵員を補充したい、経験者を増やしたいということはあるので、いろんな形で特典を設けて、特に自衛隊が『自衛軍』にでもなったら、それに入隊した人たちを優遇するという政策は当然出てきます。そういう点では、失業対策にもなります。現に中国は、膨大な軍事力を持っていますが、徴兵制ではありません。志願兵制なんですが、かなりの軍事力を抱えていないと、失業者が溢れてしまうおそれがあるんです。そういう意味での安全弁にもなっている。そういう使い方をされるおそれもある。そういう点では徴兵制でなくても、いろんな形で人を取り込む策というのは、ますます強められていくのは間違いないですね。
 それからもう一つ。靖国神社に祭られていない人は誰なのか、ということですが、まず民間人です。例えば民間人でも、徴用で軍需工場で働いていた場合には、軍属あるいは準軍属扱いで祭られます。しかし家にいて空襲に遭ったというのは駄目なんです。軍になにか関わりがないと、祭られません。それから、靖国神社というのは幕末の戊辰戦争から戦死者を祭っているわけですが、天皇に楯ついた側は祭っていません。ですから、幕府側は祭られていませんし、その後の西南戦争の西郷隆盛側も祭っていません。天皇に楯ついたという点では、罰を受けた人たち、日本軍であっても、例えば敵前逃亡などという汚名を着せられた人は祭られていません。そういう意味では、戦没者を祭っているのではなく、戦没者の中から特定の基準で選択されて祭っているということです。
 祭られてしまうと、例え家族が祭らないでくれ、と言っても祭られてしまう。うちの宗教は神道ではないからと言っても駄目ですし、戦後国籍が戻った朝鮮、台湾出身者であっても、元日本兵だったということで無理矢理祭られてしまう。そういう点では、戦没者であるけれども祭られていない人と、祭られたくないけれど祭られている人という、二重のやり方です。ですから、普通に空襲で亡くなられた方というのは、かなりの部分が祭られていません。

質問7 今度の『新憲法草案』を出してきたのは日本の政権を握っている自民党ですが、その背景にはアメリカ追随ということがあると思いますが、経済面では貿易のことを考えても対中国政策が重要です。しかし日本の軍拡について中国は反発しています。改憲したいという人たちは、今の日本をどのような方向に持って行こうとして、このようなことをしているのでしょうか。

山田 これは実は、結構一枚岩ではないと思います。軍事力を持つことによってどういうメリットがあるか、ということにはいろいろな考え方があります。オーソドックスな考え方は、軍事力を持つことによって外交政策が有利に展開する、とするという古典的な考え方です。しかし軍事力を背景にして相手に言うことを聞かすためには、アメリ力みたいな軍事力にならなければならない。そのアメリ力だってなかなか言うこと聞いてもらえない場合もあるわけですから、これはどれぐらい軍事力を持てば、という限度はないんです。
 そういう点では、第二次世界大戦以前のパワー・ポリティックスの考え方に基づけば、ある程度軍事力が外交政策の背景になると言えるのですが、今日そういうことが言えるのか。つまり、軍事力は持っているけれど、本当に微々たるもので、外交力のバックにならない程度の軍事力しか持たない国はいっぱいあります。軍事力を持っているから外交政策が有利になる、ということは、ちょっと疑問です。
 ただ、現在国連の常任理事国入りなどを考えていると、軍事力によってその国のステータスを上げよう、あるいは軍隊を海外に派遣して存在感を示そうと、それもある意味で古典的な考え方ですが、そのために軍事力を保有しておこうという考えはあるでしょうね。これも純粋に軍事力として使うよりも、軍事力を持っているぞ、ということを背景にして、何か日本の立場を高めよう、ということだと思います。かつてのように軍事力で侵略して市場を獲得しようと考えている人は流石に──いるかもしれませんが、そんなに多くはないでしょう。そんなふうに獲得できる市場もありませんから。
 ただ、このまま軍拡が進みますと、軍事力そのものが商売の対象になる。パイが大きくなれば、いろんな産業が軍需産業に参入して儲けの対象になるということは言えますね。そういう点では、産業界は期待しているところがあると思います。武器輸出の問題では、なし崩しに崩れて行けば、武器市場に参入できるかもしれないと。これは実際には難しいんです。アメリカやフランス、ロシア、中国などが市場をがっちり押さえていますから、日本が国際的な武器市場に入り込んでいくのは相当むずかしいとは思いますが、一つの選択肢にはなるんです。そういう意味で魅力を感じている企業があるかもしれません。
 そういう点では、思惑はいろいろだと思います。外交的な面、商売の面、それからやはり国民統合と言いますか、軍があって、軍を価値観の基準にした社会を作りたいと考えている人は、結構いるんです。戦前の内務省的発想と言いますか、『若者はもうちょっとピリッとしなきゃ駄目だ』みたいに考える人は結構いるんです。これは、年配の人だけでなく意外と若い人にもいて、逆に驚いてしまうのです。ですから思惑はいろいろだと思いますが、軍拡を進めることによって、あるいは社会が変わることによって、明らかに利益を得る人たちが少なからず居るということです。そういう点では、あまり単純化した議論にしてしまうと、あげ足を取られてしまうかなという気がします。

司会 先生、どうもありがとうございました(拍手)。大変貴重な、面白いご講演でした。山田先生は軍事問題に大変詳しい方ですが、実は先生の本職は歴史学でありまして、私も何度か講演をお聞きしたことがあります。今、NHKで「功名が辻」が始まりましたが、冒頭に『桶狭間の闘い』の場面が出てきました。劇的な奇襲攻撃が有名ですが、先生によると、『あれは史実にはない。江戸時代に講談のように仕立て上げたものが、明治時代に固定化したものだ』ということです。そんなお話も聞いてみたい気がします。
 「映画人九条の会」では、このようなイベン卜をこれからも続けて行きたいと思います。我々の運動はまだまだ改憲側の運動のペースに負けているかもしれませんが、皆さんの力を更に集めて、声を大きくしていきたいと思っております。皆様の中には、まだ映画人九条の会に入会されておられ方もおられると思います。これを機会にぜひご入会ください。会費は無料です。よろしくお願いします。本日の参加者は140名でした。大勢の方にご参加いただき、本当にありがとうございました。 (拍手)

【資料1】日本国憲法と自民党憲法草案の比較

【日本国憲法(部分)】

第二章 戦争の放棄
(平和主義)
第九条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第六章 司法
第七十六条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

【自由民主党・新憲法草案 (部分)】 (2005年10月28日)

第二章 安全保障
(平和主義)
第九条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(自衛軍)
第九条の二
我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮者とする自衛軍を保持する。
2 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 自衛軍は、第一項の規定にする任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若くは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。
第六章 司法
第七十六条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。

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