マスコミは「国民投票法案」を問題にしなくていいのか

2006年11月16日
映画人九条の会事務局長 高橋邦夫

 前国会から継続審議になっていた「国民投票法案」の審議が、今国会で進んでいる。自公両党の「国民投票法案」は、一般的な国民投票を規定するものではなく、改憲のためだけの手続き法案であり、民主党の法案は一般的な国民投票の規定を含めてはいるが、90%は自公両党案と一致していると言われている。

 自公明両党の「国民投票法案」は、「国民投票の過半数」の要件を「有効投票数の過半数」にして改憲のハードルを下げていること、憲法改正の一括投票制度を可能にしていること、投票権を20歳以上の「日本国民」にしていること、在日外国人公務員・教育者・外国人の運動を禁止していること、国民投票を発議から最短60日で行おうとしていることなど、重大な問題を数多く内包しているが、私が一番問題だと思っているのは、改憲のための広報活動とマスメディアの利用についてである。

 「国民投票法案」が成立して国会が憲法改正を発議すると、その改定案の内容を国民に周知するために国会内に「憲法改正案広報協議会」(民主党案では「国民投票広報協議会」)が設けられるが、その「広報協議会」の委員は各政党の議席数によって割り振られ、テレビ・ラジオ・新聞などを利用した国費による無料の広報活動も、各政党の議席数によって割り振られるのだという。

 これでは、改憲派が90%以上を占める現国会では、改憲賛成の広告だけがマスメディアから大量に流されることになる。憲法改正に賛成と反対の意見は、平等に取り扱われないのだ。憲法改正について率直に民意を問うのではなく、改憲の側の宣伝を一方的に行った上で投票に持ち込もうというのだから、これは驚くべきことだ。現在は改憲派の議員が多数だと言っても、例えば9条については国論は二分している。その、それぞれの意見を平等に扱うのではなく、議員数の割合で広報するというのだから、これはもう、まともな広報活動とは言えない。

 加えて問題なのは、有料の意見広告・CMについて、投票一週間前から投票日まで禁止しているほかは、なんのルールも定めていないことである。これでは、金持ち政党や改憲を狙う経団連などが有り余る資金を使ってテレビや新聞を利用した圧倒的な改憲キャンペーンができることになる。

 国民に影響を与えるという点では、テレビの力は格段に大きい。今年6月1日の衆議院・日本国憲法調査特別委員会に参考人として出席したコラムニストの天野祐吉氏は、「意見広告というものは、新聞などとは違ってテレビというメディアとはなじまない」「悪用すればマインドコントロールの強力な手段になりうる」と発言されたと聞くが、まったく同感だ。なんのルールもなければ、資金力がある方が圧倒的に有利なのは当然のことだ。

 国の基本的なあり方や進路を決める憲法改正の国民投票が、こんな一方的な宣伝にさらされたもとで行われることは、絶対に許されない。マスメディアによって国民がマインド・コントロールされた状態で憲法改正の是非を決めることになったら、それは恐ろしいことだ。

 「国民投票法案」の当初案では「メディア規制条項」があったため、マスコミはこの法案を批判的な立場で報道していたが、それが削除されたらマスコミは「国民投票法案」の問題点をほとんど取り上げなくなった。しかしそれでいいのだろうか。「国民投票法案」のこの危険性を知りつつ黙っていたならば、マスメディアはマインド・コントロールに加担することになる。それは言論報道機関としての自殺行為であり、社会的責任の放棄だ。私は、今こそマスコミが言論報道機関としての立場に立って「国民投票法案」の危険な内容を報道するよう望む。マスコミは、この期待を裏切らないでほしいが……。


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